オベロンの手

[題名]:オベロンの手
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈真世界シリーズ〉第四巻です。
 遂にその存在が明らかになった、真のアンバー。本巻ではいよいよ、〈真世界シリーズ〉に秘められた謎が解き明かされることになります。
 真のアンバーと“大パターン”、始祖オベロンと魔術師ドワーキン、そして“混沌の宮廷”。様々な要素が絡み合う中、コーウィンが見いだすものは――。

 ユニコーンに導かれ、岩に“大パターン”が刻まれた場所へとやってきたコーウィンとランダム、そしてガネロン。その“大パターン”を見て、ガネロンはこここそが真のアンバーであり、王子達が知るアンバーはその最初の“影”に過ぎないことを看破します。
 魔獣グリフィンに守護された“大パターン”は、しかし黒い変色によって損なわれていました。そして“大パターン”の中心には、ナイフの突き立てられたトランプが落ちていたのです。
 ガネロンはちょっとした実験から、アンバー王家の血が“パターン”を汚すことができると証明しました。更に、“大パターン”の中心に落ちていたトランプはランダムの息子マーチンのものであり、彼が何者かに刺されて流した血が“大パターン”を損ねたらしいことが推測されました。
 ランダムはそれまで放置していたマーチンのことが心配でいられなくなり、彼を捜しに“影”の中へ出かけることにします。一方、トランプを描いた画家がブランドだと気付いたコーウィンですが、ランダムがブランドを害することを危惧し、今しばらくそれを胸にとどめておくことにします。
 その後コーウィンは、ランダムが出かけたことを彼の妻ヴァイアルに伝え平穏な一時を過ごした後、長らく忘れていた成すべきことを思い出します。それは、両目を潰され投獄されていたときに出会った、狂気の魔術師ドワーキンと面会することでした。
 牢獄の壁に描かれた絵を使ってドワーキンの部屋へ転移したコーウィン。彼を父オベロンだと勘違いしたドワーキンは、アンバーにまつわる謎をコーウィンに明かすことになります。そして……。

 本書の注目ガジェットは、“大パターン”と真のアンバーです。
 アンバーの王子達は、世界の中心となるのはアンバーであり、そこから“混沌の宮廷”の間に無数の並行世界が存在していると教えられています。しかし、本来は“混沌の宮廷”こそがルーツであったことが本巻で明らかになります。
 元々、ドワーキンとその息子オベロンは“混沌の宮廷”の者であり、そこから逃げ出してきた二人がユニコーンから与えられた“審判の宝石”を使い、岩に根源たる“大パターン”を刻み込んだのが全ての始まりです(その“大パターン”が刻まれた場所こそが、真のアンバー)。かくして、混沌の中に秩序が生まれ、“混沌の宮廷”もドワーキン達に手出しをすることができなくなってしまいます。
 “大パターン”はドワーキンの血で描かれたものであり、両者は半ば同一化されています。ドワーキンは“大パターン”に守られ、“大パターン”はドワーキン以外の者には損ねることができないはずでした。ところがドワーキンも予想しなかったことに、彼の子孫(マーチンは曾孫に相当)の血を使っても“大パターン”を汚すことが可能であり、その結果ドワーキンも狂気に侵されてしまった訳です。
 アンバーとその周辺世界に生まれた“黒い道”も、この“大パターン”の汚れが元となっています。コーウィンは自分の呪いがアンバーに災いをもたらしたと考えていましたが、それはあくまできっかけであり、“大パターン”の損傷が全ての並行世界に影を落としていたのが真相です。
 オベロンは“大パターン”を修復する方法を探っているのですけれども、ドワーキンはすっかり諦め、“パターン”を破棄して作り直すことを提案しています。後者を選択した場合、ドワーキンは死に、アンバーも消滅することになりますが、オベロンはそれが気に入らないようです。一方で前者は非常に困難、かつ成否を問わず修復者が命を落とすだろうとドワーキンは推測しており、危険を冒す価値はないと考えています。作中では、この父子がどのような関係であったのかはほとんど語られませんが、互いの命を案じていたのかもしれませんね。

 さて、本書ではキーポイントとして、コーウィンの弟ランダムの成長が見て取れます。
 これまでのランダムは、気まぐれかつ無責任な性格で、どちらかというと信用の置けない存在だと見なされてきたようです。
 ランダムはかつてレブマの女王の娘モーガンテーとの間にマーチンという子供を儲けながら、彼に捨てられたせいでモーガンテーは自殺しています。このため、『アンバーの九王子』でレブマを訪れた際、罰としてランダムは盲目の女性ヴァイアルと結婚し一年間レブマに逗留することを命じられることになります。
 コーウィンはこの結婚がその娘を不幸にするのではないかと案じており、自分が王になったときの摂政の座を餌に、ヴァイアルに優しくするようランダムに約束させています。幸いにして、ランダムとヴァイアルは互いを愛するようになり、コーウィンの懸念は杞憂に終わったようです。(本巻でヴァイアルと会話したコーウィンは、彼女が類い希な聡明さを持ち、ランダムを愛していることを知って安堵しています)
 また、マーチンが刺されたことを知ったランダムは、突如として父性愛に目覚めています(それまで無関心だったのに、命の危機を知らされた途端に豹変というのはどうかと思わないでもないですが(^^;))。アンバー王族は愛情というものをあまり理解しない者達のようですけど(コーウィンは記憶を失っていたときに人間として暮らしていたので、例外的存在)、ヴァイアルとの結婚はランダムに良い影響を与えたということなのかもしれませんね。

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