ユニコーンの徴

[題名]:ユニコーンの徴
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈真世界シリーズ〉第三巻です。
 エリックの死により、暫定的にアンバーの支配的地位を得ることとなったコーウィンですが、まだまだ彼の苦難は続きます。
 兄弟のケインが何者かに殺害されたことで、またも王子達の不和が表面化することとなったアンバー。事態を進展させるため、コーウィンは行方不明のブランドと連絡を取ることを提案するのですが……。

 黒い道からアンバーに攻め込んできた怪物達との戦いで、コーウィンと敵対してきた兄エリックは命を落としました。エリックを倒すために率いてきたアヴァロンの銃を持つ軍隊を指揮し、コーウィンは敵を撃退してアンバーへの凱旋を果たします。しかし、彼はずっとアンバーの王冠を望んできたものの、今それを手に入れようとするのはエリックと同じ愚を犯すと考え、当面は事態を静観することにしました。
 ところがある日、紙切れでケインに呼び出されユニコーンの小森に赴いたコーウィンは、そこで手の甲に蹴爪のある怪物にケインが殺されたところに出くわしました。怪物は倒したものの、このままではコーウィン自身がケインの殺害犯と疑われることになりかねません。
 その怪物は、かつてランダムがフローラ邸まで追いかけられた相手(『アンバーの九王子』参照)と同種族でした。コーウィンはケインを埋葬した後、怪物の死骸を担いでランダムの下まで行き、事情を話して怪物の由来を尋ねることにします。
 ランダムの話は奇妙なものでした。彼はかつて、行方不明と思われていた兄弟ブランドからトランプで助けを求められ、彼を救出するためとある“影”の世界にある牢獄へ向かいました。しかし、牢獄の番人に阻まれてブランド救出を断念せざるを得なくなります。そこから逃げ出すとき、ランダムは“影”を通り抜けたのにも拘わらず、追っ手の怪物を振り払うことができずにフローラ邸まで追跡されたと言うのです。それは、アンバー王族固有のはずだった並行世界移動能力を、その怪物達も持っていたことを意味しました。
 話を聞いたコーウィンは翌日に兄弟達を集め、ケインの死その他諸々の事情を打ち明けました。そして、混迷を深める事態を明らかにするため、全員で協力しブランドを救出することを提案します。
 コーウィンの案は上手くいき、彼らはトランプを使ってブランドをアンバーに連れ戻すことに成功しました。ところが……

 本書の注目ガジェットは、ティルナ・ノグス("Tir-na Nog'th")です。
 無数の並行世界に影を落とすアンバーですが、中でも二つの都市はアンバーの直接的な影という特別な存在です。一つは、一巻に登場する海中の鏡像都市レブマ("Rebma":"Amber"の逆綴り)で、もう一つが空中の幻影都市ティルナ・ノグスです。(元ネタはケルト神話の楽園ティルナ・ノーグ)
 ティルナ・ノグスはアンバーの存在するコルヴァー山の頂から伸びた石段の上に、夜の月光が降り注いだときのみ姿を現す幻のような都市です(太陽の光が差すと消滅)。ティルナ・ノグスの中には人々が住んでいるものの、向こうからはこちらが知覚できず、互いに触れることもできません。但し、月光で鍛えられたコーウィンの愛剣グレイスワンダーを使うことで、対話ができるようになります。
 アンバーとは別個の都市であるレブマとは異なり、ティルナ・ノグスの住人はほぼ現実のアンバー住人と同じです。しかしながら、その言動や記憶は揺らぎ、微妙に歪められています(死んだはずの女性がいたり、あるいはコーウィン自身が既に死んだことになっていたり)。そこに予兆を見いだす者もいますが、概して曖昧のようです。
 なお、『ユニコーンの徴』でコーウィンが体験するティルナ・ノグスの出来事は、後の巻でタイムパラドックス的な繋がりを見せてくれることになります。こういった伏線が、なんとも心憎いですね。:-)

 本巻ではシリーズのキーアイテムとして、“審判の宝石”がクローズアップされます。
 “審判の宝石”は赤い輝きを放つルビーのペンダントで、元々は父王オベロンの持ち物です。非常に強い力を有するマジックアイテムですが、本書の時点では天候を自在に操れるということしか判明していません。また、利用者は“審判の宝石”を身につけた状態で一度“模様”の上を歩き切り、“宝石”の使い方を学ぶ必要があります。
 先の巻では、エリックが“審判の宝石”を使って嵐や雷を呼び、ブレイズ・コーウィン連合の軍勢を苦しめることに使われています。宝石一つで軍隊を相手に戦えるわけですから、「天候を操れるだけ」でも相当に有用なアイテムですね。また、後の巻では更に重要な役割も果たすことになります。
 但し、“宝石”を長時間着用した場合、エネルギーを消耗して命に関わることになるようです(おそらくエリックの死因)。このとき、警告として周囲の物事がスローモーションのようにゆっくりと見え始めるという、なかなか面白い設定がなされています。

 少々余談になりますが、本巻冒頭の献辞には、“ジャダウィンと彼の創造者(デミウルゴス)に、キカハも忘れずに。”と記されています。
 このジャダウィン及びキカハは、どちらも実在の人物ではなく、フィリップ・ホセ・ファーマー氏の〈階層宇宙シリーズ〉主人公の名前です。すなわち、「創造者」はファーマー氏を指しているわけですね。
 ゼラズニイ氏の〈真世界シリーズ〉はファーマー氏の〈階層宇宙シリーズ〉にインスパイアされたという経緯があり、「並行世界を支配する一族の骨肉の争い」という舞台背景が類似しています。もっとも、〈階層宇宙シリーズ〉の主眼が異世界そのものにあるのに対し、〈真世界シリーズ〉は兄弟達の織り成す複雑な愛憎劇がメインとなるため、作品の傾向は全く異なります。
 主人公に関しては、ジャダウィン(ウルフ)は記憶を失い地球で人間として暮らしたことで温和な性格となったという設定から、コーウィンはジャダウィンに相当するキャラクタだと言えそうです。一方、階層世界のトリックスター・キカハに相当するキャラクタは見当たりませんが、立ち位置は異なるものの神出鬼没さからブランドがやや該当するでしょうか。

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