アンバーの九王子

[題名]:アンバーの九王子
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ


 無数に存在する並行世界の中心、真世界アンバー。そのアンバーの王位継承者たる王子達の諍いを描く、ゼラズニイ氏の代表作〈真世界シリーズ〉の第一巻です。(『八』ではないのでご注意ください(^^;))
 ゼラズニイ氏は神話をモチーフとした物語をいくつか手がけられていますが、本シリーズもその一つです。ベースとなっているのはケルト神話やアーサー王伝説ですが、登場人物や地名などが共通するのみで、物語そのものはゼラズニイ氏のオリジナルです。
 〈真世界シリーズ〉最大の見所は、何と言ってもその格好良さですね。王族の中の王族、真世界アンバーの誇り高き王子達が互いにいがみ合い、時には手を組み、父オベロン不在のアンバーを手に入れようとする様が、ゼラズニイ氏のスタイリッシュな文章で綴られており、物語世界に引き込まれること請け合いです。
 記憶を失い、長らく影の地球に幽閉されていたアンバーの王子コーウィン。彼がアンバーへ帰還するとき、物語は動き出します。

 あるとき、病院のベッドで目を覚ました主人公。彼の足はギプスで固められていましたが、どうして怪我を負うことになったのかは分かりませんでした。それどころか、自分の名前すら思い出せなかったのです。
 しかし、主人公はこれまでにも幾度か目を覚ましかけ、そのたびに薬で眠らされていたのを覚えていました。何者かが、彼を麻薬漬けにしておきたがっているのだと理解した彼は、医師を脅して自主退院してしまいます。その際、自分の名がカール・コーリーであり、入院させたのが妹エヴェリン・フローメルだったことを知りますが、そのどちらにも覚えはありませんでした。
 エヴェリンの家へ押しかけた彼は、妹に対し自分の記憶がすっかり戻っているように振る舞い、しばらく身を寄せることを告げます。妹は不審に思いつつも騙され、それを受け入れることになりました。
 会話の端々から、彼の本当の名はコーリーではなくコーウィン、妹の名はフロリメル(フローラ)であり、フローラは兄エリックの命でコーウィンを監視していたらしいと察知しました。コーウィンは自分が、強い郷愁を覚えさせる場所「アンバー」の王子の一人だったことを朧げに思い出しますが、やはり記憶は戻らないままです。
 そうした中、弟のランダムがフローラの館にやってきます。ランダムを追いかけてきた怪物を倒した後、コーウィンはランダムと共にアンバーへ向かうことにします。
 車のハンドルを握るコーウィンは、ランダムにより周囲の光景が変化させられていくことに驚きつつも、表向きは万事承知の上であるように振舞いました。そして、二人が故郷アンバーのそばまでやってきたとき、そこから逃げ出してきた妹デアドリと出くわしました。ここでコーウィンはランダムとデアドリに、自分の記憶が戻っていないこと、何が起きているのか皆目分からないことを打ち明けます。
 こうして、コーウィンは己の記憶を取り戻すため、アンバーの影である鏡像都市レブマにて、“模様”の上を歩く試練を受けることになりました。アンバーの根源を表す“模様”を踏破したことで、コーウィンは全てを思い出します――あらゆる並行世界に影を落とす真世界アンバーと、その王子たる自分、そして兄弟姉妹たちのことを。
 そして……。

 本書の注目ガジェットは、真世界アンバー("the true world, Amber")と、その影です。
 作中においては、無数の似通った世界が重なって、並行世界を形成しています。この中でも、アンバーと呼ばれる世界が全ての中心であり、他の並行世界はアンバーの影に過ぎないと言われています(ローマのことわざをもじり、「すべての道はアンバーに通じる」とも)。私達の地球は、その影のうちの一つです。
 各々の世界は独立しており、それぞれの住人達は他の並行世界が存在することすら知りません。例外はアンバーの王族達で、彼らは三つの手段で並行世界間を移動することができます。
 一つ目は、ランダムが行ったように影の中を歩く方法です。これは、周囲の光景に意志の力で干渉し、情景を付け加えたり取り除いたりすることで並行世界を移動(シフト)していくもののようです。但し、アンバーの近くではこの干渉ができないため、物理的にアンバーから距離を置く必要があります。
 二つ目は、王族達を象ったトランプを利用するものです。タロットカードのようなカードセットの中には、アンバーの王子・王女を描いたものが含まれており、これを使うことで異なる場所の兄弟達と会話ができる他、同意があれば会話相手の場所へ赴くこともできます。
 三つ目は、アンバー宮殿の地下にある、くもの巣のような“大模様”の上を歩くことです(レブマにも同じものがあります)。アンバーの王オベロンの血を引く者だけが“大模様”を踏破することができ、試練を乗り越えたときには影を歩く能力を手に入れ、かつ一度だけ並行世界のどこへでも移動することができます。しかしながら、途中で中断してしまうと命を落とす羽目になります。
 真世界アンバーの存在には謎があり、その全容を知るのはオベロンと、魔術師ドワーキンだけです(二人とも物語冒頭では消息不明)。王子達はその真相をしらないまま玉座を巡って争い、その結果が大いなる災いを招くことになるのです。

 アンバーの王族に連なるキャラクタは、父オベロンとその息子九人、娘四人、そして魔術師ドワーキンです(幾人か、その子供もいる模様)。王子・王女には当然母親がいますが(異母兄弟・姉妹のため複数)、オベロンの血族ではないことからか重要な地位を持っておらず、舞台には登場しません。
 王子は主人公コーウィンに加え、気まぐれなランダム、コーウィン最大の敵エリック、コーウィンを憎むジュリアン、エリック側に付いたケイン、コーウィンに瓜二つのジェラード、エリックと敵対しているブレイズ、そして本巻では消息不明のベネディクトとブランドです。また、王女はフロリメル、デアドリ、フィオナ、ルウェラの四人ですが、いずれも積極的に玉座争奪戦に関わるつもりはないようです。
 王子達はおそらく不老であり、何世紀もの間若い姿のままです(コーウィンが地球へ幽閉されたのは、ロンドンでペストが猛威を振るった十七世紀)。しかしながら不死ではなく、怪我や病のせいで命を落とすこともあります。並行世界を移動する力の他にも、力が強い、傷の回復力が異常に早いといった能力を持っています。
 彼らはおおむね誇り高く名誉を重んじますが、あまり他者(特に王族以外の者)への愛情というものを持ち合わせていないようです(例外はベネディクトとコーウィンぐらい?)。類似した並行世界へ移動する能力を持つため、死んだ人間とそっくりの者が生きて存在する世界を見つけ出すことができる訳で、事実上の神に近い力を有するが故の傲慢さと言えるでしょうか。
 但し、コーウィンは数世紀に亘り記憶喪失状態で人間として暮らしていたことで、影の世界の人間の命も尊重するようになっており、なかなかの好人物です。彼の敵である兄エリックは、玉座に執着するかなり残酷な性格の人物ですが、記憶喪失前のコーウィンはエリックに似た性格だったのかもしれませんね。

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