ミラー衛星衝突

[題名]:ミラー衛星衝突
[作者]:ロイス・マクマスター・ビジョルド


※このレビューには『メモリー』のネタバレがあります。ご注意ください。

 軍事惑星国家バラヤーに障碍を持って生まれたマイルズ・ヴォルコシガン及びその周辺を描く、〈ヴォルコシガン・サガ〉のエピソードです。作中時期はマイルズが三十歳の頃、前作『メモリー』のすぐ後になります。
 機密保安庁から除隊し、デンダリィ自由傭兵艦隊提督マイルズ・ネイスミスという仮の姿を捨てることになった我らがマイルズ君。いよいよ聴聞卿としてのキャリアが始まります。
 もっとも、本作はマイルズの他にもう一人、あるバラヤー人女性エカテリンが同格の主人公となり、二人の視点が交互に繰り返されてストーリーが進行していくことになります。このエカテリン、どうやら今後のマイルズにとって重要な人となる女性のようですが……。

 帝国機密保安庁長官イリヤンに対する工作事件を鮮やかに解決したマイルズ・ヴォルコシガン。彼は八番目(実質は六人目)の皇帝直属聴聞卿に正式に任命され、様々な難事件の解決に当たるという新たな人生を踏み出します。
 しかしながら、聴聞卿は皇帝グレゴールの目や耳として難事件に取り組むという絶大な特権を有する地位であり、異例の若さで選ばれたマイルズはその権力の使いどころが未だ把握できていない状況でした。
 そんなおり、バラヤーが支配する惑星コマールで重大事件が発生します。寒冷なコマールの地表を暖めるため衛星軌道上に配置されたミラー衛星に貨物船が衝突し、七つのうち三つが破壊されてしまったのです。果たしてこれは事故なのか、あるいは破壊工作なのか――それを解明するため工学に明るい聴聞卿ヴォルシスが取り組むこととなり、マイルズは聴聞卿としての訓練も兼ねてそれに協力することになりました。
 一方、コマール地球化事業省の支局長エティエンヌ・ヴォルソワソンの妻エカテリンは、伯父ヴォルシスと共に来訪したマイルズの姿を見て、興味を引かれます。突然変異に強い偏見の残るバラヤー社会で、彼のような普通とは異なる容姿の人間がどのように周囲と折り合いを付けてきたのかを知りたかったのです。
 彼女の夫エティエンヌは、遺伝病のヴォルゾーン筋萎縮症(ジストロフィー)を患っており、それは九歳の息子ニコライにも受け継がれていました。けれども、エティエンヌは自分がミュータントだと白眼視されることを恐れ、治療を受けようとはしません。ニコライの将来のためにも二人に治療を受けさせたいと考えるエカテリンですが、ヒステリックで癇癪持ちなエティエンヌは妻の言うことに耳を貸さず、心を痛めていたのです。
 しかし、ミラー衛星衝突事件の究明が進展していくにつれ、周囲にはきな臭い匂いが漂い始めます。地球化事業省と事件の関わり、エカテリンが知った夫の横領の事実、そして愚かさ故のエティエンヌの事故死――。
 ミラー衛星衝突事件の真相を、マイルズ達は突き止め、解決することができるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、惑星コマールです。
 バラヤーはかつて地球からの移民が行われた後、唯一の通路だったワームホールが重力異常により通行不能となり、長らく〈孤立時代〉が続きました。マイルズの祖父ピョートル・ヴォルコシガンの時代になり、新たなワームホールが発見されたことでバラヤーは再び銀河社会へ復帰したのですが、このワームホールの出口がコマールですね。
 コマールは元々は独立した惑星国家であったものの、作中の時代ではバラヤーの属国となっています。これは、好戦的軍事国家セタガンダのバラヤー侵攻に手を貸したことが原因で、バラヤーがセタガンダを撃退した後に征服されてしまったためです。作中時代は征服から三十五年程が経過していますが、このときに行われた一部バラヤー人による虐殺、及び二十五年前に起きた〈コマールの反乱〉が未だに後を引き、コマール人の中にはバラヤーを恨んでいる者もいるようです。
 惑星コマールは非常に寒冷で、また空気に酸素が少なく二酸化炭素が過剰であることから、呼吸マスクなしでは屋外に出ることはできません。但し、呼吸はできないものの空気自体は存在するので、マスク着用と防寒対策さえ行っていれば宇宙服のような大げさな装備は必要ありません。
 コマールの都市は巨大なドームの中に存在し、人々の生活はもっぱらその内部だけで完結しています。その一方で、コマールの気候を人間が生活できるように改造する試みも行われていますが(ミラー衛星もその一つ)、その計画はあまり順調ではない模様です。バラヤーのようにほとんど手を加えることなく居住可能という惑星の方がレアケースなのでしょうね。

 さて、バラヤー帝国機密保安庁の士官とデンダリィ自由傭兵艦隊提督という二足の草鞋を脱ぎ、聴聞卿となる道を選んだマイルズ。ネイスミス提督を演じている間は「アドレナリン過剰」と称されていましたが(^^;)、聴聞卿としてのマイルズはもう少し地に足が着いた様子です。
 実際、この姿は『喪の山』(『無限の境界』収録)での役割に通じるものがあり、マイルズ・ヴォルコシガンのもう一つの原点とも言えます。幼くして命を落としたレイナの墓前で誓った、自らの成すべき道へ足を踏み出したようです。
 一方、本巻のもう一人の主人公であるエカテリンは、冒頭でこそ夫を立てる控えめな人妻ですが、エティエンヌと決別/死後は徐々にその勇気を示していくことになります。ウィットに富み、有能かつ行動力があり、かつ髪がブルネットときては、少々マザコン気味のマイルズ君に抵抗できようはずもありません(笑)
 もっとも、マイルズははっきりと恋心を自覚しますけど、エカテリンはまだそれほど明確な感情は抱いていない様子です。果たして、マイルズの新たな恋の行方はいかに(^^;)

この記事へのコメント

  • nyam

     こんにちは 珍しく新刊ですか。しかし、わたしも読んでましたよ!!!

     この巻は、聴聞卿になったマイルズの大活躍がみられるはずだったのですが・・・。帝国の重要人物にしては護衛がなさすぎません?まあ、コマールは国内扱いなのかもしれませんが。

     ミラー衛星は、反射衛星砲によって落とされたというのがわたしの推理でした。ではまた。
    2012年05月03日 18:12
  • Manuke

    一気に読んでしまったので、急遽割り込みでレビューすることにしました。
    次回からはまた古い本に戻ります(笑)

    > 帝国の重要人物にしては護衛がなさすぎません?まあ、コマールは国内扱いなのかもしれませんが。

    そのせいで、チュオモーネンには大迷惑をかけてますね-。
    まあ、バラヤーは軍人社会なので、「自分の身は自分で守れ」ぐらいな風潮があったりするのかもしれません。それにしても不用心ですけど(^^;)

    > ミラー衛星は、反射衛星砲によって落とされたというのがわたしの推理でした。

    そう言えば、プラズマ・ミラー場なんてものがありましたよね。
    案外、反射衛星砲も本当に使われそうな気もします(^^;)
    2012年05月04日 00:49
  • ちゅう


    お久しぶりです。

    これ、最新刊ですね。まだ入手していないのです。楽しみだなあ(^^)

    2012年06月01日 21:19
  • Manuke

    はい、滅多にない新刊レビューです(笑)
    〈ヴォルコシガン・サガ〉はテンポがいいせいで、結構分厚いのにあっという間に読んでしまいました。
    次の巻はまだかなぁ……(^^;)
    2012年06月02日 00:06
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/267393857

この記事へのトラックバック