地球の壁の裏に

[題名]:地球の壁の裏に
[作者]:フィリップ・ホセ・ファーマー


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈階層宇宙シリーズ〉の第四巻です。
 本巻は第三巻『階層宇宙の危機』に引き続き、キカハが主人公です。但し、今回の舞台となるのは階層世界や別のポケット宇宙ではなく、我々の住む地球ですね。
 ブラック・ベラー抹殺とウルフ達の救出のため、階層世界から地球へ向かったキカハとアナーナ。二十四年ぶりの故郷で、キカハは地球の秘密を知ることになるのですが……。

 階層世界へと侵入してきた人工知性体ブラック・ベラー達を倒したキカハとアナーナ。けれども、そのうち一人だけが、門を使って地球へと逃れていたことが判明します。しかもその数時間前、父ユリゼンを巡る罠から逃れたウルフとクリュセイス(『異世界の門』参照)が帰還した際にブラック・ベラーと遭遇し、地球へ避難したことが分かったのです。
 ブラック・ベラーをこのまま放置すれば、再び数を増やして上帝達を脅かすだろうことは容易に想像できます。加えて、地球はアナーナの母親の兄弟である上帝レッド・オルクの居城であり、キカハの親友ウルフ及びクリュセイスの安否が気遣われます。
 かくして、第二次世界大戦直後に地球を離れたポール・ジェイナス・フィネガンことキカハは、二十四年の歳月を経て地球へと帰還しました。到着早々、レッド・オルクの手勢と思しき連中と出くわしたり、地球の暴走族集団に襲われたりしたキカハとアナーナですが、持ち前の臨機応変さを発揮して困難を切り抜けます。
 ところが、ロサンゼルスでの追跡劇の最中、キカハは驚くべき真実をアナーナから聞かされます。地球は自然に生まれた世界ではなく、階層世界と同じく上帝に作り出されたポケット宇宙に過ぎないことを。そして、地球の持つ数十億年の歴史や、無限に広がる宇宙ですらまやかしに過ぎないことを。
 さしものキカハもこれには動揺を隠せませんが、気を取り直してレッド・オルクと共闘する術を模索します。しかしながらウルフやアナーナのような例外を除き、上帝は肉親への愛情すら持たない傲慢な種族であり、いかに不倶戴天の敵ブラック・ベラーを倒す名目とは言えそう簡単に協力を得ることはできません。
 そして、事態の裏にはもう一つ、キカハの知らない要素が存在していたのです。

 本書の注目ガジェットは、地球とガーダズリントラー("Gardzrintrah")です。
 〈階層宇宙シリーズ〉作中における地球は、上帝により一万五千年前に作り出されたポケット宇宙の一つです。この地球からは何十億光年もの先まで星が存在しているように見えますが、実際の宇宙の直径(記述を見ると半径の誤り?)は太陽から冥王星までの距離の三倍で、その外側の星々は幻影です。「夜の空は書き割り」ということでしょうか(笑)
 地球は上帝達が最初に作り上げた世界で、ジャダウィン(ウルフ)の制作した階層世界のように独創的なものとは異なり、その中身は上帝の故郷ガーダズリントラーのコピーです。つまり、年代測定法により数十億年の年齢と判定された岩石や、太古に滅んだ恐竜の化石が存在するのは、それらが地球の元となったガーダズリントラーに存在していたから、ということになります。あくまで、地球の歴史は一万五千年前(旧石器時代終盤)から始まったものだけが本物という訳です。
 面白いことに、上帝の故郷世界ガーダズリントラーもまた、何者かに作り出されたポケット宇宙だった、という設定がなされています。上帝は宇宙技術を発達させた後、外宇宙へ出て行くことができないことを知って相当な衝撃を受けたようで、文明自体が精神病に近い状態に陥っています。彼らの性格が破綻してしまったのは、世界が作り物だったというショックに起因するものなのかもしれませんけど、今度は自分達が宇宙を作り出す神々を演じるようになったのは少々頂けない感があります(^^;)

 さて、〈階層宇宙シリーズ〉はメインストーリー六冊、外伝的作品一冊で構成されているようですが、困ったことに日本語版は第四巻の本書までしか翻訳されていません。これは、原作者ファーマー氏の執筆に、本巻で翻訳が追いついてしまったことによるものです。
 本書の末尾で若干の事態収拾はあるものの、実質的にストーリーは「以下続刊」状態です(^^;) 一度中断してしまうと、なかなか再開のタイミングが難しいものなのでしょうけど、なんとか続きを出して欲しいものですね。
 果たして、この後のキカハとアナーナの運命やいかに。そして、すっかり影の薄くなった前主人公ウルフに活躍の場はあるのでしょうか(笑)

この記事へのコメント

  • X^2

    このシリーズは中高生時代に読んでいたSFもののうちではかなり記憶に残っている方なのですが、上帝の本来の世界そのものがさらに上の種族の作り物だった、という設定は、こちらの記事を読んでようやく思い出しました。
    このシリーズに限らず、シリーズもので翻訳が途中で打ち切り状態の作品はいろいろありますが、個人的には「階層宇宙」ともう一つ「ジェイムスン教授」も最後まで読んでみたいです。尤も子供時代でなく今では、馬鹿らしくて読んでいられないかもしれないですが・・・。
    2012年04月21日 00:31
  • Manuke

    こう時間が空いてしまうと、続きからではなく最初から再販(もしくは再翻訳)しなければならないでしょうから、出版社さんのリスクは大きくなってしまいますね。
    そこら辺も含めて、電子書籍には期待していたんですけど――あまりのラインナップの薄さにがっくりです(笑)
    現状、ほとんど著作権切れらしい作品しか存在しないところを見ると、翻訳物は版権絡みで難しい部分があるのかもしれませんが……。
    果たして海外SFの電子書籍元年はいつ到来するのでしょうか?(^^;)
    2012年04月22日 00:21
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