階層宇宙の危機

[題名]:階層宇宙の危機
[作者]:フィリップ・ホセ・ファーマー


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈階層宇宙シリーズ〉の第三巻です。
 さて、本巻ではいよいよもう一人の主人公、階層世界のトリックスター("trickster":神話などに登場する、狂言回し的な役割のキャラクタ)ことキカハが活躍することになります。
 作中時間的には、前巻『異世界の門』とほぼ同時期のようです。つまり、上帝ウルフが父ユリゼン絡みのトラブルに巻き込まれて階層世界を留守にしていた間の出来事です。舞台は第一巻と同じく、シリーズ名にもなっている奇妙なポケット・ユニバース、階層世界です。

 とあるきっかけにより、円筒形の大地が積み重なった階層世界へと紛れ込むことになった、二十世紀のアメリカ人ポール・ジェイナス・フィネガン。彼はキカハと名前を変え、その広大な階層世界の冒険を存分に楽しんでいました。そして、記憶を失い行方不明となっていた上帝ジャダウィン(ウルフ)を連れ戻す手伝いをしたことで、彼と友人になります。
 その後も階層世界の様々な社会に紛れ込んでは、半人半馬(ケンタウロス)と戦ったりと、トリックスターの異名に恥じぬ神出鬼没の冒険を繰り広げていたキカハですが、彼がアメリンディア(下から二つ目の階層)にあるタラナックの都の神殿で絵文字を学んでいたとき、奇妙なことがおきます。〈竜の国(ドラキランド)〉(下から三つ目の階層)にいるはずのエッゲスハイム領主フォン・トゥルーバットが、キカハを捕らえようと騎士の一団を引き連れて現れたのです。
 ウルフの伝で空間を飛び越える門が使用可能なキカハを除けば、その住人が階層間の移動を行うには、高さ数万メートルの巨大な大石柱を上り下りするしかありません。いくらキカハ(〈竜の国〉での名はフォン・ホルストマン男爵)から馬上試合で打ち負かされ、おまけにキカハと娘の濡れ場を目撃してしまったとは言え(キカハ君のトリックスターっぷり全開(笑))、それほどの危険を冒してアメリンディアに遠征する理由になるとは思えませんでした。
 そのキカハの疑念は、同じくドラキランド人に追われていた三人の上帝と合流したことで氷解します。ウルフの妹である美女アナーナ及び二人の男は、上帝の不倶戴天の敵であるブラック・ベラーに追われて別の宇宙から階層世界に逃げ込んだのです。
 キカハはアナーナと共に、その機転でからくもドラキランド人の包囲網から脱出します。しかし、階層世界の管理者であるはずのウルフは見当たらないため、彼らが退治しなければ全ての世界がブラック・ベラー達のものとなってしまいます。
 この恐るべき危機に、キカハが思いついた策とは……。

 本書の注目ガジェットは、ブラック・ベラー("the Black Bellers")です。
 ブラック・ベラーは元々、上帝が作り出した人工知性体です。黒い鐘型(これが名前の由来)の機械で、本来は上帝のサイキ(魂)を一時的に保管し、別の肉体に移し替えることを目的として開発された装置です。しかしながら、サイキを収めていない空の〈鐘〉に教育を施すことで新しい知性が生まれることが発見され、その研究がブラック・ベラーを誕生させてしまうことになります。
 ブラック・ベラーは上帝の魂を移し替えるために作り出された装置ですので、人間の頭にそれを被せると、針を頭に差し込んで意識を上書きしてしまいます(上書きされた本来の人格は消滅)。これにより、中身はブラック・ベラーながら、外観からは普通の人間との区別は困難という状況が生まれます。
 ブラック・ベラーは感情や個性を持っていますが、人間とはかなり異なる価値判断基準を持つようです。また、自分のオリジナルである黒い鐘から離れることを恐れており、常に鐘を肌身離さず持ち歩いています。これを利用して、アナーナはブラック・ベラーの接近をある程度感知することができます。

 先のレビューで触れたように、キカハの本名ポール・ジェイナス・フィネガンは、作者のフィリップ・ホセ・ファーマー氏と同じイニシャル「PJF」になっています。キカハはファーマー氏が階層世界における自分の分身として作ったキャラクタな訳ですね。
 もっとも、〈リバーワールド〉の登場人物で同じイニシャルを持つ作家ピーター・J・フリギットとは異なり、元騎兵隊員のキカハの場合は経歴的にファーマー氏と似ている部分は多くありません。あくまで氏の「こうなってみたい」という夢想を形にした人物のようです。
 第一巻でも、本来の主人公であるウルフを食ってしまいかねないほど(^^;)活躍してくれたキカハですけど、本巻でも大いにその能力を発揮します。大口を叩きしばしば大胆不敵な行動を取りながらも、慎重さと用意周到さも併せ持ち生存能力の高さを見せてくれます。彼を憎んでいる人間は少なくないようですが、敵でさえキカハのしぶとさには一目置いています。ウルフの真面目さとはまた違った、愛すべき主人公ですね。
 一方、ヒロインのアナーナは、ウルフの妹で上帝です。当初はキカハをレブラッビー(上帝以外の人間を指す蔑称)と見下していますが、共に行動して様々な罠を潜り抜けるしぶとさを目の当たりにし、次第に惹かれていくというツンデレっぷりが魅力です(笑)

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