異世界の門

[題名]:異世界の門
[作者]:フィリップ・ホセ・ファーマー


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈階層宇宙シリーズ〉の第二巻です。
 さて、シリーズ名に「階層宇宙」が入ってはいるものの、本巻で階層世界が登場するのは冒頭ぐらいのものです(しかも屋内(^^;))。今回の冒険の舞台は、ウルフとその兄弟らを罠にかけるべく準備された別の並行世界。果たしてウルフは、父の仕掛けた罠を油断のならない兄弟達を伴って潜り抜け、愛しの妻クリュセイスを取り戻すことができるのでしょうか。

 かつての自分が、階層世界の創造者である上帝ジャダウィンであったことを思い出したロバート・ウルフ。しかし、記憶を失い地球で過ごした四十年余りの歳月は、彼を傲慢で身勝手な上帝から、普通の人間へと変化させていました。彼は簒奪者から階層世界の支配権を取り戻した後も、自分をジャダウィンではなくウルフと認識するようになっていたのです。そして、以前はただの慰み相手だった猫目の美女クリュセイスを妻に娶り、平穏な日々を取り戻しました。
 けれどもある日、彼の寝室にヘキサキュラム(六線星型)が現れます。それはウルフの父ユリゼンが使わしたものであり、クリュセイスを誘拐したことを告げ、取り返してみろと彼を挑発しました。
 神々のごとき力を持つ上帝は誰もが傲慢でしたが、中でもユリゼンは自らの子供を罠にかけて殺すことを楽しむ恐るべき存在でした。しかし、地球人としての経験により人の心を持つようになったウルフは、父の仕掛けたゲームと分かっていてもクリュセイスを見殺しになどできません。その強大な力に畏怖しつつも、彼は準備を整えてユリゼンの用意した正六角形の門を潜ります。
 門の向こう側は、奇妙な海洋惑星でした。そこは、アッピルマツヅムの惑星("the planet of Appirmatzum")を中心に五つの子惑星が周りを回る、世界そのものが子供らを責め苛むために作り出された場所だったのです。そして、海洋惑星にはウルフ以外にも、罠にかけられた彼の兄弟や従兄弟達が集められていました。
 兄弟たちはいずれも反目しあい、隙あらば相手の寝首をかこうとする者揃いです。そうした連中をなだめ、ときには脅しながら、ウルフはユリゼンのいるアッピルマツヅムの惑星へ行く道を探すのですが……。

 本書の注目ガジェットは、上帝("the Lords")です。
 上帝は遙かな昔、ある宇宙で文明を興し、超絶的なまでに科学を発達させた種族です。不老不死(事故・自殺・殺害のない限り)を獲得し、並行世界への移動、惑星系創造、生物の肉体改造と、まさに神のごとき力を振るうことができる訳ですね。
 しかしながら作中の時点では、上帝同士の闘争のせいで、かつて上帝が有していた科学技術は既に失われています。強大な力を行使できる道具を持ちながら、それが壊れると修理することすらできません(途方もない力を持ってはいてもその実体は野蛮人、とウルフは評しています)。この結果、上帝達は互いの道具を虎視眈々と狙うようになっており、上帝同士の仲が極めて悪いのはこのせいもあるようです。もっとも、それ以前から殺し合いをしていることからも、元々極めて性格の悪い種族なのでしょうが(笑)
 作中に登場する上帝は、恐るべき父ユリゼン、美しいが残忍な妹ヴァーラ、両生類の体に作り変えられてしまった臆病者の弟セオトーモン、唯一まともな弟ルーヴァー他、主人公ウルフ(ジャダウィン)の親類縁者揃いです。ルーヴァーのみはウルフと同じく上帝のいびつさ・傲慢さを認識していますが、他の者は上帝以外を獣と見下し、同じ上帝も敵としか見なさないようなタチの悪い連中です。ウルフは、記憶を失う前に階層世界の住人に行った傲慢な振る舞いを後悔していますけど、ジャダウィンと名乗っていた時代さえ他の上帝よりは幾分マシだったようです。
 なお、これら上帝の名前は、詩人にして画家ウィリアム・ブレイク氏の書かれた神話体系における神々から取られているようです。もっとも、作中では上帝のことを知ったブレイク氏が、それを脚色して発表したのだ、ということにされています。:-)

 さて、こうした「無数の並行世界に君臨する神のごとき強大な力を持つ兄弟達の、骨肉の争い」という構図が、ロジャー・ゼラズニイ氏のサイエンス・ファンタジー〈真世界シリーズ〉に似ていると感じられた方もいらっしゃるかもしれません。
 実はこの類似、偶然ではありません。真世界アンバーを巡る物語を構築するにあたって、ゼラズニイ氏は〈階層宇宙シリーズ〉をモチーフとされたことを明言されています。第三巻『階層宇宙の危機』冒頭に、ゼラズニイ氏が本シリーズを賞賛するコメントが寄せられていることからも、氏が(若干のリップサービスはあるにせよ(^^;))〈階層宇宙シリーズ〉を高く評価していたことが伺えますね。
 もっとも、バックボーンは若干似ている部分があるものの、物語そのものは全く異なる展開ですし、スタイルもずいぶん違います。アンバーの王子達はゼラズニイ氏らしく非常に洗練されていて格好いいのですが、本作の上帝達の多くは自立できておらず、甘やかされた子供のような性格です。自分の子供を罠に陥れて喜ぶ父親に育てられたことが、彼らの不幸なのかもしれません。

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