階層宇宙の創造者

[題名]:階層宇宙の創造者
[作者]:フィリップ・ホセ・ファーマー


 SF界に性や宗教を持ち込んだ先駆者であり、魅力的な作品世界構築でも知られるフィリップ・ホセ・ファーマー氏による、ヒロイック・ファンタジー風味の強い平行世界SF〈階層宇宙シリーズ〉("World of Tiers series")の第一巻です。〈リバーワールド〉と並んで、ファーマー氏の代表作と言えるシリーズですね。
 ファーマー氏と言えば、巨大な河のほとりに三百六十億人の人類の人類が復活する〈リバーワールド〉、人口過密対策として一週間のうち一日だけ目覚めることにより世界が七分割された〈デイワールド〉、といった奇抜かつ面白い世界設定の作品を手がけられていますけど、本書に登場するのは大地が階層状に積み重なった惑星、階層世界です。
 引退後の元教師ウルフが出くわした、異世界への入り口。奇妙な階層世界で彼が見いだすものは……。

 ロバート・ウルフは、二十歳以前の記憶がありませんでした。彼は一切の記憶を失い、言葉も話せない状態でケンタッキーの山中をさまよっているところを発見されたのです。ウルフ老夫妻に引き取られロバートの名を与えられた彼は、驚くべき早さで知識を吸収して博士号を取った後、大学で英語と古典語を教える職に就きます。
 そして六十六歳になったウルフは、教師を引退しようとしていました。長年連れ添った妻ブレンダはヒステリックな口うるさい老女になっており、もはや夫婦仲は良好とは言えませんが、それでもウルフはそれなりに幸福を感じていました。
 ところが、ウルフ夫妻がアリゾナで家を買おうと売り家を廻っていたとき、異常なことが起きます。地下室の押入れの向こうから、ラッパの音が聞こえてきたのです。ウルフが戸を開けると、その向こうには異世界が広がっていました。
 そこには筋骨たくましい若者と、彼を捕まえようとする黒い毛むくじゃらの怪物がいました。自分の正気を疑うウルフでしたが、キカハと名乗った若者は手にしていたラッパを彼に投げ、また会おうと告げます。そしてウルフの手にラッパを残したまま、押入れの壁は元に戻ってしまいました。
 一連の出来事を見ていたのはウルフだけで、妻にも不動産屋にも信じてもらえそうにありません。ウルフは一旦ラッパを戸棚に隠して売り家を去った後、夜にそこへ忍び込んでラッパを吹き鳴らしました。すると、押入れの奥にまた異世界への扉が開かれたのです。
 かくして、地球とは異なる惑星・階層世界に足を踏み入れたウルフ。肉体は若返り、病は存在せず、美しい男女が子供のように無邪気に暮らすそこは、しかし本当の意味での楽園ではありませんでした。
 親しくなった猫目の美女クリュセイスが黒い体毛の怪物グワール達にさらわれたとき、ウルフは彼女を取り戻すために旅立つことになります。それが階層世界の創造者たる上帝を巡る謎と関わることを、彼はまだ知りません。

 本書の注目ガジェットは、階層世界("the World of Tiers")です。
 階層世界とは、複数の円筒が縦に積み重なった形をした人工惑星で、古代バビロニアのジッグラト(聖塔)を超巨大化したような世界です。円筒は上にいくに従って小さくなっており、全体としては円錐状のフォルムを形成します。旧約聖書にあるバベルの塔に似た印象ですが、あちらは絵画では螺旋状に描かれるのに対し、階層世界は上下の層が独立した円筒です。
 各階層の円筒は大石柱(モノリス)と呼ばれており、それぞれ固有の名前が付けられています。下の階層からは巨大な垂直の山と見えるものが、上の階層にとっては大地そのものである訳ですね。
 階層は下から、エデンのような楽園オケアノス、先史北アメリカを模したアメリンディア、中世ヨーロッパ風の〈竜の国(ドラキランド)〉、かつて高度な文明を持っていたアトランティス、最上階となる上帝の宮殿からなります。
 大きさはあまり明示されておらず、若干齟齬もあるのですが(^^;)、例えばアメリンディアの外縁から大石柱までの距離が二千五百キロメートルほど、大石柱の高さが約一万メートル、と表現されており、相当に広大な規模の土地になっている模様です。(この比率だと、円筒と言うよりは円盤と言うべきかも)
 階層世界の住人は、隣の並行世界である地球から連れて来られた人間や古生物の他、上帝に合成された怪物(人魚、人面鳥、ケンタウロス、水竜等々)が存在します。怪物の中には人間の脳を移植されているものもあり、彼らは往々にして自分を作り変えた上帝を恨んでいます。
 階層世界には老衰も病気も存在しないため、争いのないオケアノスでは何千年も生きる者もいます。しかしながら多くの土地では、人間同士あるいは他の生き物との戦いで命を落とす者が少なくないようです。

 主人公ロバート・ウルフは冒頭では老教師ですが、階層世界で若返って冒険を繰り広げることになります。経歴通り礼儀正しく公平さを重んずる性格ではあるものの、長年平穏に生きてきた割には豪胆かつ機転の利く部分もあり、好感の持てるキャラクタです。彼にはある秘密があるのですけど、思いっきりバレバレなのはご愛嬌ということで(^^;)
 一方、ウルフを階層世界へ招いた青年キカハは、本シリーズのもう一人の主人公です。彼は作中でも“トリックスター”と呼ばれる神出鬼没で法螺好きな男で、本名はポール・ジェイナス・フィネガンという二十世紀アメリカ人です。実はこのキャラクタのイニシャルは、作者フィリップ・ホセ・ファーマー氏と同じ「PJF」になっており、ファーマー氏の分身でもあります(「こうなりたいキャラクタ」のようです)。自分の作り上げた空想世界で分身を活躍させてしまう辺りが、氏の茶目っ気を表していると言えるでしょうか。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/261334622

この記事へのトラックバック