ハインライン傑作集4 時の門

[題名]:ハインライン傑作集4 時の門
[作者]:ロバート・A・ハインライン


 ハインライン氏の初期短編を収録した傑作集、第四弾です。
 本書に収められた作品は、ややビターな味わいのある結末のものが多い印象ですね。ハインライン氏の長編では独立独歩の主人公である傾向が強いのですが、中短編ではそうした枠に囚われない分、お話もバリエーションに富んでいるように感じます。自己の確立した強い人間だと、あまり物語が悲劇的になりにくいということなのかもしれません(^^;)

◎大当りの年

 ポティファー・ブリーンがドラグストア店内にいたとき、そこに隣接するバス停留所に立っていた若い女が突然服を脱いで裸になりました。しかし、その女性ミード・バーストウは別段特殊な趣味があったわけではなく、ただ暑くなって服を脱いだだけだったのです。
 自分がどうしてそんな恥知らずなことをしでかしたのか分からず怯えるミードを、ブリーンは家に連れ帰ってなだめました。彼女と同じ行動を取った人間は、既に今年に入って三百人を超えているのだ、と。
 ブリーンは統計学者で、ささいな異常事態を数多く情報収集し、グラフ化していました。その彼が言うには、株式相場や伝染病、太陽の黒点数といった様々な物事には周期というものがあり、そうしたあらゆる周期の山もしくは谷が集中する今年は稀に見る大当りの年とのことでした。ブリーンはそれらの間に関連性を見いだすことはせず、ただ統計学者として事実をありのままに受け止めていたのです。
 その後も、ブリーンの予想通り異常な出来事が続発していきます。そして……。

◎時の門

 ボブ・ウィルスンは、学位論文を書き上げるために自室でタイプライターと格闘していました。そのとき、突如として後ろから声をかけられます。ウィルスンの背後には、いつの間にか見知らぬ男が立っていたのです。そして、男の後ろには奇妙な環が空中に浮かんでいました。
 どこか見覚えのある、顔に怪我を負ったその男はジョウと名乗り、空中の環〈時の門〉をくぐり抜けて部屋へ入ったのだと説明します。〈時の門〉は何千年も未来に通じており、ウィルスンに是非これをくぐり抜けて未来へ行くよう勧めます。
 訳も分からず混乱するウィルスンですが、第三の男が〈時の門〉から現れたことで更に混乱に拍車がかかります。ジョウそっくりな第三の男は、ウィルスンに未来へ行くべきでないと言い含め、ジョウと取っ組み合いの喧嘩を始めてしまいました。そして、止めに入ろうとしたウィルスンは殴り飛ばされ、偶然にも〈時の門〉を潜ってしまいます。
 ウィルスンが目を覚ますと、そこは未来世界の大宮殿の中でした。彼はディクトールと名乗る中年の男にもてなしを受け、そして一つの仕事を依頼されます。それは、〈時の門〉を抜けて過去へ赴き、一人の男を勧誘してきて欲しいというものでした。
 美味しい食事や美しい女性をあてがわれたウィルスンは、深く考えずその依頼を受け、〈時の門〉を潜りました。そこは自分の部屋で、一人の男が彼のデスクに座っていました。
 背後からその男の仕草を見ていたウィルスンは、不意に悟ります――その男の正体を。

◎コロンブスは馬鹿だ

 鋼材屋のバーンズは、恒星宇宙船ペガサス号機関長のアプルビイとバーで酒を交わしていました。そこへ友人のフレッド・ノーランが姿を現し、バーンズは彼をテーブルへ誘います。
 三人で酒を飲み始めた後、バーンズはアプルビイに、何のために辿り着けるかも分からないプロクシマ・ケンタウリを目指すのかを尋ねます。それに対し、アプルビイはこう答えました――なぜ人はエベレストへ登るのか、なぜコロンブスは旅立ったのか、それと同じだと。
 しかし、ペガサス号の航海は長い年月を要し、アプルビイ自身は生きてプロクシマ・ケンタウリを目にすることはありません。バーンズは納得することができませんでした。

◎地球の脅威

 ルナ・シティ生まれの少女ホーリイ・ジョーンズは、地球から来た美しい女性観光客アリエル・ブレントウッドのガイドを務めることになりました。ガイドの経験豊富で、地球生まれの人間を地ネズミと侮るホーリイは、アリエルの案内をそつなくこなします。
 その後、アリエルは月面へ出たがったのですが、本来女性は外へ出る許可はもらえません。そこでホーリイは、将来共に宇宙船設計事務所を開くことを約束したパートナーのジェフ・ハーデスティを頼ることにしました。
 ところが、ジェフはアリエルと出会った瞬間から、彼女に熱を上げてしまいます。別段恋人関係という訳ではなかったものの、二人で進めていた宇宙船設計の作業をすっぽかしてアリエルをもてなすジェフに、ホーリイは次第に不満を募らせていきます。

◎血清空輸作戦

 冥王星のプロザーピナ基地で伝染病のラーキン氏病が発生したという報告が、地球人工衛星基地に入りました。火星由来のラーキン氏病は、赤血球が減少する病気であり、病気が進行している間中輸血を続けないと患者は死んでしまうのです。
 光子船(トーチ)パイロットのジョウ・アプルビイは間もなく地球で休暇を取る予定だったのですが、身体的能力を買われて血液銀行輸送のパイロットに選ばれてしまいました。光子船(トーチ・シップ)は従来のロケットとは異なり、飛行中ずっと加速を行えるという宇宙船であり、アプルビイの耐G能力の高さが抜擢の理由でした。
 ラーキン氏病患者の死亡率と光子船パイロットの負担を比較し、選ばれたのは三・五Gで九日半という過酷な行程でした。短時間ならともかく、それだけの高Gでパイロットがどうなるかは未知の領域です。
 かくして、光子船の経験豊富なクリューガー中尉を艇長、アプルビイを副操縦士として、偵察用光子宇宙船〈サラマンダー〉は出発したのですが……。

◎金魚鉢

 海上にそそり立つ巨大な二つの大竜巻、カナカ水柱とワニヒ水柱。常在する雲まで、最低でも高さ数キロメートルはあると目されるそれは、ほんの数ヶ月前までは存在しなかったものでした。
 その正体がなんなのかを突き止めるため、魚類学者ジェイコブスン・グレイヴズと海洋学者ビル・アイゼンバーグは、水路測量艦マハン号で水柱の近くまでやってきました。グレイヴズは、カナカ水柱で吸い上げられた水がワニヒ水柱となっって循環しているのではないかとの推測を立てており、衝撃防護設備を備えた潜水球に乗り込んで自らカナカ水柱に突入するという計画を立てていました。しかし、彼の高齢をおもんぱかった医師や同僚が、代わりの乗員としてアイゼンバーグを選んだのです。
 どうして魚類学者が水柱に興味を示したのかと尋ねるマハン号艦長のブレイクに、グレイヴズは答えます――この水柱は自然のものではなく、何らかの知的存在が関与しているように思われるのだ、と。

◎夢魔計画

 ESP研究者のレイノルズ博士は、彼がアメリカ中からかき集めた超能力者を用い、軍指令本部で公開実験を行おうとしていました。
 双子のテレパシー能力者ジェインとジョアン、サイコロの目を自在に操れるアンドリュース一等兵の能力披露に将軍達は感心しますが、物理学者のウイザース博士だけはなかなか納得しませんでした。
 しかしその後、砂漠の核実験場に場所を移し、臨界量未満のプルトニウムの中性子放射率を変化させる実験を行ったとき、操作が上手く行きすぎて連鎖反応が起きてしまいます。ウイザースはさすがに目の色を変え、ESPの存在を受け入れることになりました。
 ところが、ここで思わぬ事態が発生します。ソビエト連邦大使館から最後通牒として、二日以内にソビエト配下の“人民共和国”に生まれ変わらねば米国大都市に埋没させた原子爆弾を爆発させる、との脅迫がアメリカ首脳部にもたらされたのです。
 複数の都市に持ち込まれた原子爆弾を二日以内に発見・処理するなど、通常ならば到底不可能です。けれども、公開実験により超能力者が核反応に干渉できることが将軍達に周知されていたことから、一つの計画が実行されることとなりした。
 レイノルズ配下の超能力者達を使った、テレキネシスによる核反応抑制と、透視能力による原子爆弾の発見――前代未聞の計画の行方は……。

 個人的お勧め作は、掌編の『コロンブスは馬鹿だ』ですね。本作はかなり〈未来史〉のテイストが感じられる、宇宙への飽くなき憧れをストレートに描いたお話です。〈未来史〉における人類初の恒星間宇宙船は、『宇宙の孤児』登場の世代宇宙船バンガード号で、名前の他に建造場所も異なっています。しかし、そうした小さな差異を除けば、〈未来史〉の中に含まれていてもおかしくはない印象です。バンガード号出発前夜には、本作のようなやりとりがあったのかもしれない、と想像してみるのも面白いですね。
 また、表題作『時の門』は時間SFの傑作です。お話そのもののネタは割と単純なのですけれども、細部がかなり凝っており、時間的な繋がりを追うのが楽しい作りになっています。それにしても、主人公のウィルスン君が冒頭で書いているのは“時間航行”に関する論文なのに、自分の置かれている状況が分からないのは、少々血の巡りが悪いように思われますね。まあ、察してしまうと物語が成立しない訳ですけど(^^;)
 少し気になるのは、『夢魔計画』の結末です。私個人としては、最後のあっけらかんとした結び方に薄ら寒いものを感じてしまいますが、ハインライン氏が本当にダークな結末を意図していたのかは分かりません。いずれにしろ、この力は防衛側より攻撃側に利するところが大きいと思われますので、これが実用化された世界の行く末は暗澹たるものになりそうです。

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