宇宙島へ行く少年

[題名]:宇宙島へ行く少年
[作者]:アーサー・C・クラーク


 このお話は三大巨匠の一人アーサー・C・クラーク氏によって描かれた、近未来ジュブナイル(少年少女向け)SFです。
 ジュブナイルとは言っても科学的な正確さに留意されるクラーク氏のことですから、『宇宙島へ行く少年』も執筆当時の科学知識に基づいて書かれており、そのことが本書をより現実感溢れる物語としていることは疑いないでしょう。
 しかしながら、無論ただ正確なだけの無味乾燥なストーリーなどではありません。宇宙を舞台にイマジネーションを広げた、わくわくするような物語でもあります。
 クイズ番組の優勝商品として宇宙ステーション訪問を獲得したロイ少年。彼はそこでどんなものに出会うのでしょうか。

 物語の年代は、明記されませんがおそらく二十一世紀後半。人類は既に火星への恒久的な植民地を設け、定期航路が地球と火星の間を行き来している、そんな時代です。しかしながら宇宙へ出るにはまだまだ費用がかかり、庶民には縁遠い存在でした。
 宇宙に憧れる少年ロイ・マルカムは、航空会社が後援するテレビのクイズ番組に出演し、見事優勝を成し遂げます。優勝商品として地球中のどこへでも無料で旅行できる権利を与えられたロイは、カメラの前で自分の望みを告げます――低位ステーションへ行きたいのだ、と。
 低位ステーションとは、高度約八百キロメートル上空で地球を巡る宇宙ステーションのことです。司会者は難色を示しますが、ロイは景品の規定にそれを禁ずる項目がないことを指摘します。実は前もって弁護士である叔父と相談し、優勝商品の規定を確認しておいたのでした。ロイ君、知能犯ですね(^^;)
 かくして、ロイはいくつかの検査を受けた後、ロケットに乗って低位ステーションへと向かうことになりました。
 低位ステーションはおよそ百人程が常駐する、宇宙と地球の架け橋となる場所です。そこでロイは練習生の少年達と行動を共にすることになりました。
 最高責任者のドイル司令を始めとする人々に助けられながら、ロイ少年は幾多の出来事を経て宇宙に馴染んでいくことになります。

 本作の注目ガジェットは、静止衛星軌道上の中継ステーションです。そう、現実世界でもテレビの衛星生中継でおなじみのものですね。
 作中では静止軌道上に等間隔に三つ置かれた有人中継ステーションが、地球全域を放送エリアとしてカバーする様が描写されています。もちろん、静止衛星とは何なのかという説明も含めて。
 静止衛星による恩恵が日常レベルになっている今では、それのどこがSFガジェットなのかと突っ込まれそうな気もしますけど(^^;)、本作に限っては特に重要な意味があります。何故なら、静止衛星を使った全世界通信ネットワークは他ならぬアーサー・C・クラーク氏が考案されたものだからです。
 発明者ご自身による小説中への活用という、非常に興味深いケースですね。正確なところは不明ですが、本書はおそらく作中に静止衛星中継が登場する世界初の小説かと思われます(当然、SFであるなしを問わず)。
 この論文は一九四五年に雑誌へ寄稿されたのですが、発表当時は荒唐無稽だと受け取られたようです。もっとも、人類初の人工衛星スプートニク1号打ち上げより十二年も前なのですから、当時の人々を責めるわけにもいかないでしょう。
 しかし、発表後二十年あまりの時を経て静止衛星による通信中継は現実のものとなります。クラーク氏の未来を見通す慧眼には驚かされますね。

 ジュブナイルに分類される本書ですけれども、決して大人が読んでも面白くない小説ではありません。
 何より、宇宙空間における様々な出来事にごまかしがないことは、ロイ少年の体験する物事のリアリティをぐっと高めてくれます。子供騙しではない、しっかりと考察された未来がそこにはあるのです。
 読んで楽しく、しかもためになる、ジュブナイルSFの良書です。

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