バーサーカー 星のオルフェ

[題名]:バーサーカー 星のオルフェ
[作者]:フレッド・セイバーヘーゲン


 〈バーサーカー・シリーズ〉第三弾です。
 本巻では再び連作短編集の形態が取られています。『赤方偏移の仮面』では各話において登場人物の幾人かが共通しているものがあり、エピソード間の繋がりも若干ありましたが、『星のオルフェ』では人類対〈バーサーカー〉の構図以外ほぼ短編同士の関連性はありません。その分、バリエーションに富んだ内容になっており、セイバーヘーゲン氏の筆力が伺えると言えるでしょう。

◎微笑

 ヨリトモは複数の惑星を配下に置く専制君主でしたが、その行動は海賊と大差ありませんでした。彼は〈バーサーカー〉に襲われ壊滅した惑星へ赴き、そこに残された文化財を略奪するという火事場泥棒的行為を繰り返していたのです。
 あるとき、惑星聖ジャーバスが〈バーサーカー〉の殲滅を受けた後、ヨリトモの部下が聖ジャーバス博物館へ向かうと、そこには一人だけ人間が生き残っていました。その男は彫刻家で贋作者のアントニオ・ノブレガでしたが、彼はヨリトモが略奪に来るだろうと予期していました。ヨリトモはノブレガを自分の元へ連れてくるように部下へ命じたものの、ノブレガはほどなく毒のせいで死んでしまいます。
 その後、ヨリトモは聖ジャーバスの財宝を自らの宮殿の大展示室へ運ばせました。ですが、ヨリトモは夫人共々何者かにより殺害されてしまい、彼の治世は終わりを迎えます。
 時は流れて二百年後――エスティール星系の探検隊は、ヨリトモの宮殿にあった大展示室を発見します。その貴重な文化遺産を一目見ようとやってきた美術史家リトワンと共に、彼らは宝物を船に積み込み、エスティール星系へ戻ろうとしたのですが……。
 その船旅の途中、恐るべき積み荷が目を覚ますのです。

◎圧力

 非行少年矯正施設の惑星ベラ・クーラが〈バーサーカー〉の襲撃を受けました。そして、少年ジルベルト・クレー(ジル)ほか数名のみが〈バーサーカー〉の捕虜となり、かつての人類側輸送船ニュー・イングランド号の別々の独房へ監禁されてしまいます。その後、ジルは〈バーサーカー〉に連行され、八人の人間が監禁されている大部屋へ入れられることになりました。
 彼がそこに連れてこられたのは、捕虜の食料事情を改善させるためでした。〈バーサーカー〉は人間に対しての知識が不足しており、捕虜が栄養失調になるという事態が発生していたのです。これに対し、ジルはカボチャの栽培を提案し、〈バーサーカー〉の承認を得ます。
 道具を得てカボチャの栽培を始めたジルですが、捕虜の惑星連合宇宙軍ロム少尉らは、その道具を使って船を破壊するべきだと主張します。ニュー・イングランド号は元々人類の船であり、〈バーサーカー〉は隔壁の中に回路網を仕込んでいるだろうから、それを壊せばこの船の〈バーサーカー〉は機能停止するはずだと。けれども、ジルはその言葉に耳を貸そうとはせず、黙々と農作業を続けます。
 そして……。

◎アンコール・アペイロンの消滅

 重巡洋艦ディパバムサ号は〈バーサーカー〉との戦いに突入しました。ディパバムサ号の文民の乗客で銀河百科事典のセールスマン、オットー・ノボトニーもまた、その戦いに自発的に協力することになります。
 しかし、戦いは激しさを増し、遂にリドルフィ司令官はディパバムサ号を破棄することを決断します。撤退が行われる中、最後まで中央操縦室に残っていたリドルフィとノボトニーは、〈バーサーカー〉がディパバムサ号の航宙データバンクを持ち去るところを目撃します。それは、敵自身のバンクが破損し、付近の恒星情報を得るために人間の航宙データバンクを盗もうとしたことを意味します。
 幸いにして艦のデータバンクには防備のある惑星のみが記載されているため、それが奪われて標的とされても、それほど問題ではありませんでした。しかし、ノボトニーは銀河百科事典を所持しており、それが奪われたら無防備の惑星が襲われることになりかねません。
 リドルフィは事典が奪われる前にそれを破壊しようとします。 ところが、ノボトニーはリドルフィの行動を妨害し、〈バーサーカー〉が事典を持ち去るのを止めませんでした。
 戦闘で傷ついた〈バーサーカー〉が辿り着けると思われる七光年以内には、防備のない惑星アンコール・アペイロンがあることが事典には記載されています。果たして、ノボトニーは何故そんな行動を取ったのでしょうか。

◎機械の誤算

 弩級戦艦ハミルカー・バーカ号がプラス空間(詳細不明ですが、いわゆる超空間?)を抜けて惑星マイトナーのある恒星系に到着したとき、そこには三隻の宇宙船の姿がありました。やや大型の一隻はハミルカー・バーカ号とマイトナーを結ぶ線上でほぼ動かず、残りの小さな二隻はどちらもマイトナーへ向かって移動しています。
 リアウ艦長は三隻の宇宙船に対し、身分を明かさないと攻撃するとの警告メッセージを発信させます。しかし、どらからも返事はありません。
 実は、惑星マイトナーの主星は閃光星で、ノイズのためにほとんど通信ができないのだ、とマイトナーからトン・ツー符号で連絡が入ります。そして接近する小型艇のうち、どちらかは〈バーサーカー〉に違いないと。ハミルカー・バーカ号が改めて二隻にトン・ツー符号で警告を送ると、今度は小型艇からも返事が届きました。
 二隻のうち後ろにある急使船エトルリア号からの返事は、自分はエスティールから来たメティオン・チョウジンであり、居留地に必要な防衛コンポーネントを運んできたのだ、というものでした。
 そして、先行する救命艇に乗っているのは、エスティールから来た歴史学生ヘンリ・サカイとウィニフレット・イスパハンであり、自分達の船(三隻目の漂流船)ウィルヘルミーナ号はマイトナーへ空間転移装置(スペース・インバーター)を運ぶべく徴発されたところを〈バーサーカー〉に襲撃され、船を捨てて救命艇でエスティールへ向かっているのだ、とのことでした。
 どちらも、自分達こそが人間であり、相手は〈バーサーカー〉に違いないと主張します。しかし、トン・ツー符号ではそれを判別できるほどの情報を引き出すことができません。空間転移装置は緊急に必要とされていることから足止めできず、しかし片方は必ず〈バーサーカー〉ですから着陸を許せば惑星マイトナーは滅亡します。
 どちらを攻撃し、どちらを救うか――リアウ艦長は決断を迫られます。タイムリミットは、残り四十分。

◎テンプル発光体事件

 テンプル騎士団から派生した“手本のヘレン”修道会が支配する小惑星、砦。ここはかつて、テンプル騎士団が〈バーサーカー〉から人々を守護する地方警察の役目を果たしていたのですが、今ではこの周辺星域には〈バーサーカー〉が多くないため有名無実と化しています。
 この砦の中には半径四キロメートルほどの球形の空洞があり、その中央には逆重力と光を放つ“発光体”が浮かんでいました。“発光体”のおかげで空洞の内側表面には疑似的な重力が発生し、快適に暮らすことができます。しかし、“発光体”がどのようなものかは良く分かっていません。
 修道会に所属する宇宙物理学者サベルは、“発光体”を研究していました。しかし、その進展のなさに業を煮やした彼は、あるタブーに手を染めることを決心します。それは、破壊された〈バーサーカー〉の残骸から頭脳だけを再生し、そこから“発光体”に関する情報を引き出そうというものでした。
 もちろん、修道会においてそれは重罪です。けれども、頭脳を作動させる最小限のエネルギーだけを与えるなら〈バーサーカー〉が危害を加える恐れはない、とサベルは考えたのです。
 彼は気付いていません――自分がどれほど危ない橋を渡ろうとしているのかを。

◎星のオルフェ

 惑星ジッツには、希代の歌手兼演奏者との誉れ高きオーデル・カリスンがいました。彼は、自分で発明したアコーディオン風電子楽器“ミュージック・ボックス”を使って演奏しつつ歌うことで、無数の聴衆を虜にしてきました。
 恋人のユーリイと結婚して幸福を味わっていたオーデルですが、そのその幸せは一転して絶望となります。小型艇を使ったゲーム“鬼ごっこ”に起因するいざこざのせいで、ユーリイの乗るレーサーが安全宙域の外へ飛び出してしまい、〈バーサーカー〉に捕まってしまったのです。
 ユーリイが連れ去られたのは、タイナロス暗黒星雲にある〈バーサーカー〉の実験場、通称〈地獄〉。そこでは、人類を強敵と認めた〈バーサーカー〉が、人間の脳を摘出して機械に組み込むという恐るべき実験が行われていました。
 オーデルはそれを知ると自分のレーサーに乗り、単身〈地獄〉へと向かいます。そして、“ミュージック・ボックス”を演奏しつつ〈地獄〉の中へ入り込み、妻を返してくれるよう願いいました。
 本来の〈バーサーカー〉ならばそれに耳を貸すことはあり得ないのですが、〈地獄〉の機械達の中には人間の脳が組み込まれていたために演奏の魔力に抗いきれず、オーデルの願いを聞き入れます。但し、〈地獄〉を出るまではずっと歌い続け、息継ぎのためでも一秒以上止めることは許さない、との条件付きで。
 無事だったユーリイを従え、“ミュージック・ボックス”を演奏しつつ歌いながら〈地獄〉を脱出しようとするオーデル。しかし、彼が歌いっぱなしで返事をしてくれないことを不安に思ったユーリイがこっちを見るよう懇願したとき、オーデルは妻の美しさに目を奪われて歌を途切れさせてしまうのです。
 そして……。

◎スマッシャー

 生物の存在しない惑星、ウォーターフォール。ここでは惑星を地球そっくりに改造するべく様々な地球生物が導入され、繁殖実験が行われていましたが、〈バーサーカー〉戦争が激化したため人員が引き上げられ、今ではアイノ・ヴァクルーとグレナ・レイズの年配科学者夫婦が駐在するのみです。
 そこへ、心理学者の夫婦クラウス・スロベンスコとジェニイ・スリヤがやってきます。二人は歓迎されましたが、ちょうどそのとき、ウォーターフォールの星系に〈バーサーカー〉が来襲したという知らせが入ります。
 固唾を飲んで次報を待つ彼らに、やがてそれを追い払ったという報告が通信機からもたらされました。安堵して、四人は眠りに就くことにします。
 ところが、実際には〈バーサーカー〉の尖兵が惑星ウォーターフォールへと降り立っていたのです。翌日、アイノは小さなプレートほどのサイズをした無数の小型〈バーサーカー〉に襲われてしまいます。
 今際の際に、「……かれらを……スプラッシャーに……必要(ニード)がある……」という一見意味不明の言葉を残してアイノは息絶えます。しかし、彼が言い残したのは「スプラッシャー」ではなく「砕き屋(スマッシャー)」だったことにジェニイは気付きました。
 恐るべき小型〈バーサーカー〉を撃退することのできる切り札、スマッシャーとは何なのでしょうか。

◎ゲーム

 六人で対戦する戦略的な競技、〈ゲーム〉。それはチェスの名人が発明したボード・ゲームですが、チェスとは異なり偶然の要素が含まれるためコンピュータ分析が困難というもので、広く宇宙で親しまれています。
 キースはその〈ゲーム〉の達人でしたが、不幸なことに彼の故郷の惑星では、現実ではない〈ゲーム〉に興ずることは立派な行為と見なされていませんでした。キースは長老である伯父との議論に疲れ、その勧めを受け入れて要塞建築の職業を選ぶことにしたのです。
 そんなキースが惑星マクシマスで巨大ドームの建築に携わっていたとき、彼の下へかつての恋人アドリエンヌが訪れてきました。この地では一年前に〈バーサーカー〉が人間を含む全生命を殲滅しており、その慰霊祭に〈十惑星同盟〉の指導者である総督が参加するとき不都合のないよう、彼女は先発隊としてやってきたのです。
 そしてアドリエンヌは、同行した陸軍隊士官バークロがキースと〈ゲーム〉で対戦したがっていることを告げます。キースはそれを受け入れ、彼とアドリエンヌ、バークロ、そしてキースの同僚三人でゲームが行われることになります。ドームを囲む六つの監視タワーにプレイヤーが分散し、レーザー通信を介した対戦が行われることになりました。
 ところがここで、総督暗殺用〈バーサーカー〉がアドリエンヌのタワーへ侵入し、彼女を拘束してしまいます。なかなか次の手を打とうとしないアドリエンヌを訝しんだキースは音声通話で彼女を促しますが、〈バーサーカー〉はアドリエンヌの声音を使ってそれに応え、すぐさまゲームを理解して着手を打ち込みました。
 そして、〈バーサーカー〉が神経毒を脅迫に使い、アドリエンヌから総督の情報を引き出そうとしたそのとき……。

◎心の翼

 タイナロス大星雲にある新規植民惑星イェイティが〈バーサーカー〉の襲撃を受けたとき、幸運にもほぼ全ての人間は避難船ホープ号に乗って脱出することができました。しかし、ホープ号は星域の特殊事情から超光速飛行ができず、それを護るために小型護衛空母ジュディス号が〈バーサーカー〉と戦っていました。
 〈バーサーカー〉は無作為化装置により予測不能な行動を取るため、無人の戦闘機では対応不能であり、さりとて人間の思考では高速戦闘に追いつけないというジレンマがありました。これに対し、人間の無意識をコンピュータと接続することで無作為化装置を上回る手段が開発されたものの、この方法は負担が大きいために操縦者はいずれ戦闘不能になってしまいます。
 熟練操縦士が底をつき、歴史学者イアン・マロリーまでもが宇宙戦闘機に乗る羽目になりましたが、生来の性格からか彼は戦果を挙げることができませんでした。この危機的状況の中で、マロリーは自分の所持する「登場人物(ペルソナ)」を戦闘機操縦に使うことを提案します。ペルソナとは歴史シミュレーション用に開発された、過去の人物の思考を真似る疑似人格ソフトウェアで、本物の人間ではないものの戦闘機操縦には十分役立つと考えられたのです。
 しかし、それが実現する前にジュディス号は〈バーサーカー〉の襲撃を受け、マロリー以外の全員が死んでしまいます。〈バーサーカー〉の手先のなった裏切り者、“グッド・ライフ”の男グリーンリーフは嘘発見器を所持しており、マロリーはペルソナを載せた宇宙戦闘機でホープ号を襲撃することを強制されます。
 当初選ばれるはずだった歴史上の軍人ではなく、軟弱で御しやすいペルソナを選ぶよう命じられたマロリー。彼が選んだのは、バイオリニスト志望の戦争嫌いアルバート・ボール、片目が不自由なエドワード・マノック、その他騎兵隊で何度も落馬した者や結核煩いの男、等々……。
 それは全て事実でした。しかし、それだけではなかったのです。

 さて、いくつかのお話について補足をしておきましょう。
 翻訳版の表題作である『星のオルフェ』ですが、これはもちろんギリシア神話オルフェウスの翻案ですね。お話はオルフェウスが亡き妻を取り戻そうと冥府へ赴く逸話を下敷きにしていますけど、ただなぞっただけではなく、SFらしい悲劇に仕立て上げられています。彼らにとってそれが不幸な結末だったのか安易に結論づけられないが故に、よりいっそう胸に迫るものがある秀逸なエピソードです。
 『スマッシャー』に登場する「砕き屋」は、ネタバレになってしまいますので正体は明かせないのですが(^^;)、架空ではなく現実の存在です。作中での解説通り凄い能力ではあるものの、本来は〈バーサーカー〉と戦うようなものではありませんが、ここはシチュエーションの妙と言えるでしょうか。

 舞台設定として興味深いのは、作中の時代が今から四万年以上未来と設定されている点ですね。人類は既にある程度銀河内に足がかりを築いており、その後に〈バーサーカー〉と接触、千年近くも戦いを行っている模様です。
 収録エピソードは、推理ものから科学的・文化的知識に基づいた展開、神話ネタなど非常に多岐にわたるのですが、不思議と纏まりがない印象はありません。超強大な敵〈バーサーカー〉との戦争というバックボーンが、エピソードを強固に結びつけている訳ですね。
 果たしてこの戦いにいつか終わりは訪れるのでしょうか。それとも、未来永劫人類と〈バーサーカー〉の戦いは続いていくのでしょうか。

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