暗黒星雲のかなたに

[題名]:暗黒星雲のかなたに
[作者]:アイザック・アシモフ


 アイザック・アシモフ氏の作品には、SFという舞台を基にして繰り広げられる推理小説的展開が多く見られます。『暗黒星雲のかなたに』もまた、そうした作品の一つです。
 それに加えて、本書は〈銀河帝国もの〉に連なる作品であり、その中でもかなり古い年代を扱っています。言及はされませんが、おそらく銀河帝国の母体となるトランター自体が存在しない時代です。
 いきなり暗殺という事態に見舞われ、訳も分からぬまま星雲諸国へと向かわされることになったウィデモス領主の跡継ぎバイロン・ファリル。ティラン帝国の支配下にある星雲諸国を解放するため、彼はローディア総督の娘アーテミシアとその叔父ギルブレットと共に、どこかにあるとされる反乱軍の惑星を求めて旅立つのですが……。

 今より遥か未来、馬頭星雲の周辺ではいくつもの惑星が開拓され、星雲諸国として繁栄してきました。しかし今、それらの国々は新たに台頭してきたティラン帝国に侵略され、その抑圧下にあったのです。
 星雲諸国の一つであるネフィロス星の領主の息子バイロン・ファリルは、地球の大学へと留学中でした。ところがある晩、彼の寝室に恐るべき放射能爆弾が仕掛けられていたのです。バイロンは学友サンダー・ジョンティに助けられ、からくもその罠から逃れます。
 ジョンティは自分がバイロンの父ウィデモス領主の仲間であること、そして帝国に反旗を翻す準備をしていることを打ち明けます。そして、有能すぎたウィデモス領主が帝国によって処刑され、その息子であるバイロンもまた邪魔となったために帝国に消されるところだったと彼に言うのです。
 星雲諸国のローディアへ亡命するようジョンティに指示されたバイロンは、混乱しながらもその助言に従います。旅の途中、彼は正体がばれて帝国に捕まってしまうのですが、知らぬ存ぜぬを押し通してとにかくローディア総督との面会にこぎ着けます。
 しかし、ローディア総督ヒンリック五世は箸にも棒にもかからぬほどの無能でした。このままではバイロンは帝国に引き渡され、処刑されてしまうのは目に見えています。
 このとき、ヒンリックの娘アーテミシアとその叔父ギルブレットが、彼を逃がす手引きをする代わりとして自分達をローディアから連れ出して欲しいと申し出てきました。アーテミシアは帝国の高官である老人と結婚させられる直前、ギルブレットも発明の才能を長く抑圧されていたためです。
 こうしてバイロン達三人は帝国の宇宙船を奪い、ギルブレットがかつて訪れたという反乱軍の星を探す旅へと出立します。
 幾重にも張り巡らされた操り糸の存在に気付くことなく――。

 本書の注目ガジェットは、銀河帝国形成前の銀河社会です。
 この時代、植民された惑星は地球から独立した国家となり、いずれも専制君主的な政治体制を敷いているようです。興味深いことに、後の時代に相当する『宇宙気流』や『宇宙の小石』とは異なり、本作では未だ地球が人類の故郷であることは忘れ去られていません。地球が放射能で汚染されたのは、作中の時代よりおよそ千年前とされています。アシモフ氏が後に〈イライジャ・ベイリもの〉と〈銀河帝国もの〉を橋渡しするために書かれた『ロボットと帝国』と照らし合わせると、なかなか感慨深いものがあります。
 本書に登場するティラン帝国は、軍事的優位により隣国を次々と支配下に収めている勢力です。このティラン帝国は、銀河帝国の母体となるトランターと繋がりがあるのかどうかは明言されません(トランターは銀河中心に位置する惑星ですから、おそらく直接の関係はないものと思われます)。
 面白いのは、ティラン帝国母星はあまり豊かな惑星ではなく、技術的・軍事的優位によって帝国がその力を維持しているという点です。『銀河帝国の興亡』におけるファウンデーションの役割と共通する部分がありますね。

 ストーリーの中核となる反乱軍の星探しには、前述の通り推理小説的なエッセンスが含まれます。舞台こそ宇宙であるものの、種明かしは決して理不尽ではありません。合理的なその説明は、十分に納得がいくものです。ただしもう一つの、最後に明かされるネタの方は、残念ながらやや地域性が強いせいで感銘を受けにくいかもしれません。ネタそのものは面白いのですけど(^^;)

 舞台設定として、本作に描かれる未来には情報処理能力を持つ機械がほとんど出てこないことに気がつかれるかもしません(厳密には、伝言を伝えるメッセンジャー・ロボット等が少しだけ登場しますが)。宇宙船の航行や通信機の操作等は、ほぼ全て人間が手動で行っているようです。
 これは『暗黒星雲のかなたに』が描かれた時代背景、そして別系統である〈ロボットもの〉との差別化によるものなのでしょうが、後のアシモフ作品で補完される未来史の設定と照らし合わせると、このアンバランスさがあらかじめ意図されたもののように思えてくるのがまた興味深いところです。

この記事へのコメント

  • Kimball

    小生は、その「地域性オチ」に大感動しました!
    \(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/
    「あかね書房?」のジュブナイル版を
    最初に読んで、すぐ、「大人版」\(^o^)/の
    創元文庫版を買いに走った記憶が.....
    ------
    最近のジュブナイル版の出版状況はまったく
    わかりませんが、アシモフ先生の
    ラッキー・スター・シリーズとこの
    「暗黒星雲のかなたに」は出版が
    続いていてほしいものです。
    2006年10月28日 09:53
  • Manuke

    この三人組、なんだか好きなんですよね。ギルブレットがお気に入りキャラクタです。
    「地域性オチ」の方は……多分、自分の属する地域のものだったら、更に感銘を受けなかったような気がします(^^;)
    こういう面白いお話と年若い頃に出会えるのは貴重な経験ですから、ぜひともジュブナイル版の出版は続いて欲しいものです。
    2006年10月29日 02:18
  • J-monster

    半世紀近く前に読んだなつかしいSFです。 これより好きな小説に出会ったことはないです。 最後のオチは・・・確かに今にして思うとなんじゃらほいですが。 読んだ時が9歳だったので、とにかくすっきりした結末に大満足したのです。ここにとりあげてあったのでお邪魔しました。うれしかったです!
    2011年12月16日 17:53
  • Manuke

    いらっしゃいませー。
    反乱軍の星探しは、きちんと筋が通っていて良いですね。この辺りは、さすがSFミステリの雄アシモフ氏と言えるでしょうか。
    キャラクタが魅力的なので、ジュブナイル的にも楽しめますし。
    2011年12月17日 00:37

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