人狼原理

[題名]:人狼原理
[作者]:クリフォード・D・シマック


 本書は、いわゆる狼男のような変身能力者のお話をSF的にアレンジした物語です。
 作中に登場するのはおとぎ話そのままの狼男ではなく、別の形態に変身する力を持たされたアンドロイドです。ただ単に外見が変化するだけではなく、それに伴い精神も変化するというのがミソですね。

 時は二十五世紀――ある無名の恒星系で、小惑星鉱夫がカプセルを発見します。そのカプセルの中には、冷凍された一人の男が収められていました。
 蘇生措置を施されたその男は、しかし自分のことを何一つ覚えていませんでした。名前も、そして何故カプセルに入って宇宙を漂流していたのかも。便宜上、彼はアンドリュウ・ブレイクという名前を与えられます。
 彼の素性を探す手がかりはほとんどありませんでしたが、その地球に関する記憶が古いことから、二百年程度昔に冷凍されたものと推測されました。肉体的には健康だったことから、ブレイクはミドルトン(ヴァージニア州?)に家を与えられ、記憶が取り戻せるよう休養することになります。
 けれどもある晩、家の中庭で近づく雷雲を眺めていた彼は、次の瞬間に豪雨の中でずぶ濡れになっている自分に気付きます。そばにあった上院議員チャンドラー・ホートンの家に厄介になり、着替えを提供してもらえたものの、ブレイクにとっては一瞬の間に実際には四時間が経過し、八キロメートルの距離を移動していたことに不安を覚えました。
 その後も自宅内で空白の時間を経験したブレイクは、病院で検査を受けることになります。そこでようやく、彼は自分が本当は人間ではなく、探査のために宇宙へ送り出された、変身能力を持つアンドロイドであったことを思い出すのです。しかし、ブレイクの中にあった狼類似の形態・探索体の心が恐慌をきたして変身してしまったことで、彼は人々に追われることになってしまいました。
 一つの肉体に三つの形態、そして三つの心を備えた合成人間ブレイク。彼はそれとどう向き合っていくのでしょうか。そして、彼の行き着く先は――。

 本書の注目ガジェットは、人狼原理("Werewolf Principle")です。
 人狼原理は、他の惑星の生物とコミュニケーションを図るため開発されたもので、対象の惑星に存在する生物の形態をコピーすることでそれを行います。
 この原理により作り出された人造人間は探検用宇宙船に乗せられ、別の星へと送られます。宇宙船は目的地に到達すると、その星で優位を占めている個体を捕獲・走査します(この時点でその個体は死亡)。人造人間は得た情報を元に、その生物へ肉体・精神を含め完全に変身し、しばらくその惑星上で暮らした後に宇宙船に帰還して元の姿へと戻る、という手筈になっています。これを幾度も繰り返して、多数の生物から情報を得ることを目指しているわけですね。(人造人間は二体製作され、そのうち一体がブレイク)
 人造人間の体は金属ではなく有機体で、通常では人間と変わらない姿をしていますが(病院の検査でも発覚しない?(^^;))、元となる情報さえあればどんな生物にも変身可能なようです。但し、事前に元生命体を走査しておく必要があるため、思い通りの形態が取れるわけではありません。
 ブレイクの中には、オリジナルである人間型の変身体("the Changer")、肩から腕が生えた狼型生物の探索体("the Quester")、不定形生物型の思考体("the Thinker")の三つが存在しています(本来は宇宙船に戻った時点で消去されるはずが、不具合で永続化)。変身後はその肉体の持ち主だった精神が主導権を握りますが、他の形態の精神とも常時会話が可能です。
 思考体は地球よりも熱い惑星上の生物のコピーで、高度な知性を持っているもののあまり活発に動き回ることはできないようです。一方、探索体は寒冷な星がルーツで、凶暴ではありませんがやや感情的・情緒的です。
 ブレイク本人である変身体もゼロから作り出されたわけではなく、その精神はある人間からコピーされたものです(心のみのコピーであるため、元の人間はその時点では死亡していません)。精神は人間そのものでありながら、その内側に二つの異星人の心を有しており、これが彼を苦悩させることになります。

 しばしば牧歌的と称されるシマック氏の作品だけあって、二四八七年を舞台としながらやはり本作もどこか田園風の情景が脳裏に浮かぶお話になっています。猟犬に追いかけられるといったサスペンス場面がありながらも、手に汗を握るほどの緊迫感がないのは、良くも悪くもシマック氏らしさでしょうか。:-)
 さて、作中では表立って扱われていませんけど、仮に人造人間が子孫を残すことができるとしたら、将来的にはそれが人類と競合する可能性もあります(上院議員が、非地球型惑星への移民に人造人間を提案する場面あり)。シマック氏の作風からして多分違うのでしょうが、やや足早な結末は将来の両者の対立を暗喩しているようにも感じられる部分です。

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