不死販売株式会社

[題名]:不死販売株式会社
[作者]:ロバート・シェクリイ


 『不死販売株式会社』はロバート・シェクリイ氏の処女長編であり、オカルト系の設定と科学を融合させた異色の近未来SFです。
 本作の舞台では、いわゆる「死後の世界」の実在が科学的に確認され、その研究と技術がある程度確立しています。設定としてはかなりオカルト寄りなのですが、宗教色はほぼなくファンタジー方向のテイストも薄めというように、あくまでSF的な視点から描かれており、その匙加減が絶妙ですね。
 自動車事故の後、未来で蘇ったブレイン。そこは「死」の概念が根本的に変化した、異様な時代だったのです。

 一九五八年、下級ヨット設計技師のトマス・ブレインは休暇を終え、夜のハイウェイを車で走っていました。そのとき、突如としてハンドルが動かなくなり、彼の車は対向車線に飛び出してしまいます。衝突の寸前にハンドルの自由は戻ったものの、ブレインは破壊と自殺の衝動に押し流され、対向車を避けることなくそのまま衝突を受け入れました。
 事故による死を経験した後、不意に彼は見知らぬ部屋で目を覚まします。そこはブレインが生きていた時代から百五十二年後、二一一〇年の世界でした。動力システム製造会社レックス・コーポレーションが宣伝のために、事故死したブレインの心のみをタイムマシンで救い出し、別の肉体に移し変えたのだ――と広告担当の美女マリー・ソーンに教えられます。その言葉通り、ブレインの肉体は長身でスマートな自分本来のものではなく、小柄で筋骨隆々とした別人のものへと代わっていました。
 しかし、百五十年前の人間を蘇らせたことをPRキャンペーンに使おうとしたマリーの思惑は、レックス・コーポレーション社長ライリーの命令で中止させられてしまいます。ライリーはブレインの救出が不法行為だと政府に訴えられることを恐れており、かつ六十年前に死亡した祖父にも反対されたからだと言うのです。
 プロジェクトの頓挫に不満たらたらのマリーはブレインに、「これ以上ここにいる必要はない」と告げました。色々と訳が分からないままでしたが、彼はビルを出て未来のニューヨーク市へ繰り出します。
 すっかり変貌したニューヨークの姿に戸惑いつつも、ブレインはカール・オークという男と意気投合し、酒場へ向かいました。けれども、オークの正体は肉体を闇取引する業者だったのです。ブレインは一服盛られ、昏倒してしまいます。
 薄暗い部屋で意識を取り戻したブレイン。そこには彼と同じように密売業者の罠にかかった宇宙船機関部員、レイ・メルヒルが捕まっていました。メルヒルはブレインに、意味不明だった未来世界の様々な疑問への解答をくれます。
 この時代には、精神が肉体を離れて存在できることが科学で解明され、「死後の生」や「精神の別の肉体への移動」を可能にする技術が開発されている。しかし、その恩恵は金持ちにしか与えられないのだ――と。

 本書の注目ガジェットは、「死後の生」です。(宗教やオカルトではおなじみの概念ですけど、改めて見ると定義からして矛盾しているような……(^^;))
 作中の世界では西暦二〇〇〇年頃に、肉体の死後も精神が存在しうることが科学的に立証されています。しかし、その後の研究により、死亡時に生ずる死の衝撃(デス・トラウマ)が非常に強いためほとんどの人間は死と同時に精神も崩壊・消滅してしまい、それを切り抜けて「死後の生」を獲得できるのは百万人中数人しかいないことが判明します。(精神が壊れても消滅しない場合もあり、これがいわゆる幽霊)
 これに対し、死の衝撃を乗り切ることができるよう人為的に措置を行う技術が発達したことで、人類は遂に死を克服します――但し、措置に払う対価を用意できれば、ですが(笑) この措置は来世保険と呼ばれ、受けるためには来世会社などの企業に多額の費用を支払う必要があります。つまり、来世の門は万人に開かれているものの、そこをくぐることができるのは超幸運な人達か、お金持ちだけなのです。世知辛いですね(^^;)
 また、精神と肉体を分離する手段ができたことで、人間の心を他者へ移し変えることも可能になっています。金持ちの中には、仮に来世が保障されていても死ぬことを恐れ、他人の肉体に心を移し変えて寿命を延ばそうとする者も少なくないようです。このため、自発的に自分の肉体を提供する代償として来世保険を受ける者がいたり、あるいはあらすじのメルヒル達のように不法に肉体を奪われる者がいたりします。
 別の肉体への精神の移し替えは失敗することもあり、その人間はゾンビイとなってしまいます。ゾンビイは自分の体を上手く制御できず、怪我を負っても治らないため人々から忌み嫌われているのですけれど、中身は普通の人間と変わりません。ニューヨークの地下には、迫害されたゾンビイ達がコロニーを作り、人目を避けて暮らしていたりします。

 冒頭で述べた通り、本作の設定はオカルト風味であるにも拘わらず、SF的観点から逸脱しないところが面白い部分です。
 作中世界の科学は、人間が死んだ後も心が独立して生きられることを解明していますが、これがいわゆる魂なのかという疑問とは距離を置いているようです。低い確率で精神が死を乗り越える可能性を解き明かし、それを人為的に行う方法まで開発しつつも、「善人は天国へ、悪人は地獄へ」という宗教的な意味での霊魂であるのかどうかは知ったことじゃないという訳ですね(笑)
 宗教界はこれに対し、肉体から分離された心が魂と同じものであるという立場と、無関係なものであるという立場に分かれています。しかしながら「死後の生」という現実が目の前にある以上、後者の立場はあまり人気を得ていないようです。
 こうした舞台背景の上で、この世界では題名通り「不死をビジネスとして扱う会社」が成り立っています。善行も悪行も関係なく、ただ金のあるなしによって来世が定まるという構図はシニカルかつ少々悪趣味ですが、我々の知る現実世界を振り返ってみると、さして違わないような気がしなくもないです(^^;)

この記事へのコメント

  • ちゅう

    どこかで古本を買いました。普通のハヤカワか創元の文庫本です・・・が、表紙はミックジャガーw 

    『フリージャック』という映画にされたようで、そのときにカバーを特別あつらえしたのでしょうか。

    映画も見ていないし、原作はいまいち面白くなかったような覚えがあります。今、調べたら映画にはアンソニー・ホプキンスも出ていますので、機会があれば見たいなと思います。
    2011年12月20日 21:52
  • Manuke

    私が最初に読んだのは、あかね書房のジュブナイル版です。
    メルヒルのエピソードがちょっとショッキングでした(^^;)

    映画の方は私も見てないですね。公開時に、原作とかなり設定が異なるという説明を映画紹介かなにかで見た覚えが……。
    2011年12月21日 23:48
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