殺意の惑星

[題名]:殺意の惑星
[作者]:ハリイ・ハリスン


 本作はハリイ・ハリスン氏の三作目の長編に当たる、生態学をメインに据えたサスペンス小説です。
 ハリスン氏と言えばコメディSFで特に知られる方ですが、比較的初期の時点ではシリアスな作品を手がけられていたようです。タフで知的な男性を主人公に据えつつも、単なるアクションものにとどまらず、特殊化された社会を構築することで物語に奥行きが感じられます。
 元アスリートのブライオンは、彼が持っていた特殊な能力を買われ、ある惑星へと派遣されます。彼は自殺行為を働く惑星ディスを救うことができるのでしょうか。

 長楕円軌道を描く惑星アンヴァールは、長い冬と短い夏を有していました。この特殊な惑星に適応したアンヴァール人達は、長い冬の退屈を紛らわせるために、知力・体力を要求する二十種競技を全惑星規模で開催していたのです。
 その参加者ブライオン・ブランドは、体力を限界まで引き出して瀕死になりつつも、本年度の優勝者の座を勝ち取りました。回復のため病院で治療を受けていたブライオンですが、そんな彼の下を元優勝者のイージェルが訪れてきました。
 かつての競技者とは思えないほど太っているイージェルは、ブライオンに対しこう告げます――二十種競技の優勝などより重要なものが、アンヴァールの外にあるのだ、と。
 イージェルの説明によると、ブライオンはエンパシー(テレパシーに似ていますが、仕草や表情から相手の心を読んだり、逆に情報を伝えたりする力)能力者であり、その力である惑星を救うことができるはずとのことでした。イージェル自身もエンパシー能力者ではあるものの、彼は自分の死を予知しており、後継者としてブライオンを欲していたのです。
 イージェルが救おうとしているのは、未開惑星ディスと文化的な惑星ニーヨルドでした。ディス人はほとんど科学技術を持たないにも拘わらず、どこからかコバルト爆弾を入手し、それを使って隣の惑星ニーヨルドを攻撃しようとしていたのです。ニーヨルドは平和な星であり、ディスに対して害意を持ってはいませんでしたが、さすがに事態を座視することはできず、コバルト爆弾の攻撃前にディスを水素爆弾で破壊する決断が下されました。
 宇宙船で惑星アンヴァールを発ち、途中で宇宙生物学者の女性リー・モリースと合流した後、惑星ディスへ降り立ったブライオン達。しかしその直後に、予知通りイージェルはディス人の襲撃者に殺されてしまいます。
 敵意の渦巻く惑星上で、愚行を食い止めるのに残された時間は――たったの四日。

 本書の注目ガジェットは、惑星ディスです。
 ディスはエリダヌス座イプシロンの第三惑星(ニーヨルドは第四惑星)で、灼熱かつ乾燥しきった過酷な星です。水は大半が地下水で入手困難、土着の生物はこの環境下で生き延びるため様々な形態の共生や寄生を行う生態系を成しています。
 ディス人のルーツは地球で、元々は鉱物資源採掘のために移住した人々だったのですが、地球帝国が瓦解した〈大崩壊〉という事件の後、孤立し文明を消失します。彼らは生き延びるためにディス環境への適応を余儀なくされた結果、他の生物と共生するよう肉体が変化したようです。面白いのは、ディス人側が他生物に対し片利共生(片方だけに利益がある共生)を行っている点で、作中でもこの惑星以外では例がないとされています。
 ディス人は全般的に凶暴ですが、中でもマグターと呼ばれる指導的立場のグループは極度に排他的で、他者に耳を傾けることは一切ありません(コバルト爆弾を有しているのもこのグループ)。ごのマグターの存在が、物語の重要な鍵となります。

 ストーリーはとてもスピード感があり、アクションシーンなどを織り交ぜつつも、ブライオンが話をぐいぐいと引っ張っていってくれます。事態が進展しないまま、残り時間がみるみる少なくなっていく辺りは、手に汗を握らされる部分ですね。少しディスの生態系関連が食べたりない印象もありますけど、これは舞台設定が魅力的だからかもしれません。
 主人公のブライオン君は、二十種競技がチェスやフェンシングなどを交えた頭脳と肉体の両方を必要とするものだけあって、筋肉だけでなく頭のキレもなかなかのものです。少々ツンデレ気味のヒロイン(笑)、リーとの絡みも味があります。
 なお、ブライオンが登場する作品は、本書の他にも一冊あるようです("Planet of No Return"、未訳のため詳細不明)。使い捨てるにはもったいない舞台背景ですし、こちらのお話でブライオンがどんな活躍をしてくれるのか、興味を引かれるところです。

この記事へのコメント

  • ちゅう

    こんばんは。

    ハリイ・ハリスンは、意外と読んでいないのがわかりました。『ソイレント・グリーン』の原作が『人間がいっぱい』なんですね。
    2011年11月18日 21:33
  • Manuke

    私もあまり読んでない方ですねー。未訳作品も少なくないようですし。
    特に〈ステンレス・スチール・ラット〉を入手しておかなかったのが悔やまれます(^^;)
    2011年11月19日 00:33
  • 月光蝶

    あれ・・・?
    2-3年前、アマゾンでステンレス・スチール・ラットを入手しましたよ・・?
    今でも検索すると、潤沢とはいえませんがまだアマゾンで中古出品が発見できます。すぐに手に入りますよ!

    ハリスン作品だと、「ホーム・ワールド」「ホイール・ワールド」もお勧めです(既にお読みかも知れませんが、どっちかというと「ホイール・ワールド」の方が好みです)

    世界観が繋がっているらしく、「ホーム・ワールド」は地球帝国がまだ力を持っているの時期の事件で、「ホイール・ワールド」はその続編となります。
    2011年11月26日 13:12
  • Manuke

    実はマーケットプレイスにちょっと抵抗がありまして……。多分、私が気にしすぎなんでしょうけど(^^;)
    あと、ハマると際限なく買いたくなりそうなので、通販系の古本屋さんはあまりチェックしないよう自重しているところもあります(笑)

    『ホイール・ワールド』は去年、神田神保町で古書店巡りをしたときに見つけましたが、先に『ホーム・ワールド』を読もうと思って積んでます。こちらも近いうちに入手したいですね。
    ――といった感じに欲しい本が次々と(^^;)
    2011年11月27日 01:14
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