銀河辺境の彼方

[題名]:銀河辺境の彼方
[作者]:A・バートラム・チャンドラー


 〈銀河辺境シリーズ外伝〉第八巻です。外伝としては最終巻に当たります。
 最後を飾るのは、我らがジョン・グライムズ准将の往年を思わせる活躍です。外伝は全般的にネタ重視の傾向があり、特に平行宇宙に絡んだ展開も多いのですが、本巻はどちらかというと本編に近いテイストと言えるのではないでしょうか。
 銀河辺境にはびこり始めた麻薬「夢を紡ぐ草」。その密輸元を追いかけるグライムズの前に立ちはだかるのは――。

 フォーローン宇宙港に勤務中のグライムズ准将を、ポート・フォーローン税関長ジョウサイア・ビリングハーストが訪れてきました。
 ビリングハーストの持ち込んできた話は、辺境星区にはびこりつつある麻薬の密輸を抑止して欲しいというものでした。しかしながら、銀河辺境でこそあらゆる麻薬が違法であるものの、銀河内部では多くのドラッグが合法的に流通しており、地球出身のグライムズは特にそれを止める必要性を感じません。税関係官という職業を嫌っていることもあって(^^;)、グライムズは〈リム・ランナーズ〉社内に「麻薬の密輸厳禁」というお触れを出すのみに留まりました。
 しかし、〈リム・ランナーズ〉配下の宇宙船〈リム・カリブー〉三等航宙士が、麻薬「夢を紡ぐ草」で事件を起こすという事態が発生してしまいます。ビリングハーストと共に事件現場の農業惑星ウルティモへ赴き、「夢を紡ぐ草」による無辜の人間の死を目にしたことで、グライムズも考えを改めざるを得なくなりました。
 「夢を紡ぐ草」の密輸元を探るうち、観光惑星エブリスが怪しいようだとグライムズは当たりを付けます。辺境星区にありながら税関がないという特殊性が、彼の注意を引いたのです。
 武装改修した曳航船〈リム・メラミュート〉でエブリスへ向かい、観光ホテルのルシファー・アームズ支配人かつ旧友のイアン・クレイヴァリングと再会したグライムズ。しかし翌朝、クレイヴァリングの操縦する宇宙船が離陸時に〈リム・メラミュート〉の繋留索を引っかけ、横転させてしまいます。それは事故を装ったものであり、クレイヴァリングには何か後ろ暗いことがあるようでした。
 〈リム・メラミュート〉という足を失いつつも、グライムズはやがて到着したビリングハーストとその部下達と共に探りを入れていきます――その背後に、彼の宿敵とも言える因縁の相手が存在することを知らないまま。

 本書の注目ガジェットは、惑星エブリスです。
 エブリスは火山だらけの地獄に似た星です。頻繁に起きる火山噴火、沸き立つ鉱泉「悪魔のシチュー鍋」、様々な色の奇岩が立ち並ぶペインテッド・バッドランド等々、いかにも恐ろしげに見えるものの、実際はさして危険でもない場所のようです。そうしたものを観光の目玉にしているわけで、要するに宇宙版「別府地獄めぐり」ですね(笑)
 この惑星には爬虫類タイプの異星人エブリス人が住んでいます。鱗のある、人間に近い顔を持つカンガルーのような姿をしており、全体的には悪魔に似ています。もっとも、性質は大人しい種族で、特にトラブルを起こすこともなく宇宙港やホテルで働いています。
 エブリスでは頻繁に地震が起きることから、着陸した宇宙船は繋留索で固定する必要があります(〈リム・メラミュート〉はこれを引っかけられて転倒)。また、普通の建物は使えないため、エブリス上の建築物は強化ビニール製のドームが無数の泡のように積み重なった姿をしています。グライムズの泊まった部屋では、冷蔵庫以外の調度品は全て柔らかい素材でできていた模様ですけど、トイレまで柔らかいと地震のときは怖いことにならないか心配です(^^;)

 チャンドラー氏の代表作"Rim World series"は元々、銀河辺境を舞台としたバリエーション豊かな作品群として出発したようですが、この内の主要キャラクタであるジョン・グライムズに焦点が当てられ、サブシリーズである"Grimes Saga"へと発展します。
 この"Grimes Saga"は更に、主人公グライムズが連邦監察宇宙軍に所属中の時期"Early Grimes"、監察宇宙軍を辞職し個人として行動するようになった時期(監察宇宙軍の諜報員みたいなこともやってますけど(^^;))"Middle Grimes"、〈リム・ランナーズ〉運航本部長兼銀河辺境星区宇宙軍准将となった時期"Late Grimes"の三グループに分かれます。(チャンドラー氏が亡くなられたため、"Middle Grimes"と"Late Grimes"の間は一部空白)
 日本ではこのうち、"Early Grimes"と"Middle Grimes"が〈銀河辺境シリーズ本編〉、"Late Grimes"に"Grimes Saga"以外の作品数点を加えたものが〈銀河辺境シリーズ外伝〉として出版されています。〈銀河辺境シリーズ〉は本編十五巻、外伝八巻で一応の完結ですが、未収録作品もいくつか存在するようなので、それらの翻訳も期待したいところです。

 さて、〈銀河辺境シリーズ〉レビューの締めくくりとして、最後にシリーズを代表する定番台詞を紹介しておきましょう。これはグライムズを始めとする多くの登場人物が、無礼講を示すシチュエーションで口にする定型句です(訳文には若干のブレあり)。
 ワイルドな感じが〈銀河辺境〉世界の雰囲気にマッチしていて、自分でも使ってみたくなるような名台詞ですね。もっとも、あまり上品な言い回しではありませんから、一般人相手に使うのは少々お勧めしかねます(^^;)

「ここは自由の殿堂だ。床につばを吐こうが猫を盗賊呼ばわりしようが自由だ」
("This is Liberty Hall. You can spit on the mat and call the cat a bastard.")

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