名誉の殿堂

[題名]:名誉の殿堂
[作者]:A・バートラム・チャンドラー


※このレビューには前巻『辺境星域の神々』のネタバレがあります。ご注意ください。

 〈銀河辺境シリーズ外伝〉第六巻です。
 本巻は前巻と同じく、四つのエピソードからなる連作短編的な構成です。但し『辺境星域の神々』とは異なり、今回の旅にはグライムズの妻ソニアというお目付け役が同行します。:-)
 今回のエピソード中、表題作の『名誉の殿堂』は本編・外伝を通じて一番の異色作品と言えるのではないでしょうか。なにしろ〈女帝アイリーンもの〉等の平行宇宙なんて目じゃない、驚きの人物が登場していますから(^^;)

◎名誉の殿堂

 かつて、〈キンソルヴィングの惑星〉にてスカルステン神学協会が神を呼び出そうとした恐るべき試みは、「旧約聖書の神」ではなく「オリンポスの神々」が間違って召喚されてしまったことで大失敗に終わりました(『辺境星域の神々』参照)。ジョン・グライムズとクラリッセ・レインは無事だったものの、神学協会の面々は消滅してしまい、戻ってはきませんでした。
 しかしながら、このまま〈キンソルヴィングの惑星〉を放置しておくわけにもいきません。辺境星区連合宇宙軍提督のクラヴィンスキーはグライムズ准将に対し、再びキンソルヴィングへ赴いて調査を行うよう命じます。グライムズは妻ソニア、クラリッセ及びクラリッセの夫メイヒューといったメンバーを編成し、宇宙船〈ファラウェイ・クエスト〉でキンソルヴィングへ向かいます。
 けれども、再びクラリッセの呪術能力で召喚の儀式を行ったとき、現れたのはオリンポスの神々ではなく、戯曲『ファウスト』のキャラクタである悪魔メフィストフェレスでした。グライムズは一人メフィストフェレスに拉致され、名探偵シャーロック・ホームズや執事ジーヴズなどの架空のキャラクタが住まう〈名誉の殿堂〉へと連れてこられてしまいます。そこでグライムズは、自分もまた架空の人物であることを教えられます。
 困惑しつつも、元の世界に戻りたいと願うグライムズ。献身的な執事ジーヴズにせっつかれたファウスト博士は、メフィストフェレスにグライムズを帰してやるよう命じます。
 ところが、グライムズが移動した先は銀河辺境の〈キンソルヴィングの惑星〉ではなく、二十世紀の地球、貨物船の執務室でした。そして、彼の目の前に現れた人物こそ――船長にしてグライムズの創造者その人だったのです(^^;)

◎姉妹船団

 惑星アクエリアスは第二伸張期、遭難しかけた〈磁石船(ガウス・ジャマー)〉に発見された地球の植民地です。アクエリアスは海洋惑星であったことから、この星の住人は銀河連邦により再発見されるまでに、二十世紀レベルの船舶技術で海を行き来する文化を発達させていました。交流が再開されてからもそれは変わっていません。
 銀河辺境きっての海事史家であり、「宇宙船乗りの神さま」とまで言われるグライムズ准将は、そのアクエリアスから植民史の執筆を要請されます。水上船が大好きで、かつ少々懐古趣味のあるグライムズはそれを引き受け、ソニアを連れて惑星アクエリアスへとやってきました。
 アクエリアス港湾総長ソーントンから実際に船を指揮してみることを勧められたグライムズは、ソニアに揶揄されながらもその勧めに従うことにします。かくして、植民史執筆の傍ら、グライムズは船長として外航不定期船〈ソニア・ウィネック〉を指揮する立場となったのです。
 しかし、トラブル巻き込まれ体質の彼のこと、もちろん無事で済むはずがありません(^^;) グライムズはその結果、惑星アクエリアスで頻発する奇妙な海難事故に関わることになってしまうのです。

◎空飛ぶ船乗り

 惑星アクエリアスに立ち寄った銀河連邦監察宇宙軍の宇宙船〈スター・パイオニア〉に便乗させてもらい、グライムズとソニアは辺境星区へ戻ることにしました。
 その道中に寄港した惑星ワイアングで、一行は近隣の惑星エスケルに設置された無人の無線標識が壊れてしまったというニュースを耳にします。しかし、〈スター・パイオニア〉が現地へ赴くと、それは単なる故障ではなく、故意に破壊されたものであることが判明しました。
 惑星エスケルには、紫色の毛皮の猿のような知的生命体エスケル人が生息しています。エスケルはこれまでケイブレイラル大王が支配していたのですが、革命が起きて王の座を追われてしまいました。そこで、大王は銀河連邦に助けを求めるために設置された無線標識を破壊し、地球人を呼び寄せようとしたのです。
 銀河連邦としては、現地の政治への介入は好ましくないものの、大王を見捨てるわけにもいきません。そこで、ドラルグ島に追い詰められたケイブレイラル大王及び臣下三百人を〈スター・パイオニア〉へ乗船させることになりました。
 けれども、小型の艦載艇を往復させてエスケル人を移送している作戦中、革命側の船がドラルグ島へと密かに接岸していました。そして、グライムズとソニア、〈スター・パイオニア〉艦長ジェームズ・ファレルの三人は、敵に捕らえられてしまいます。彼らの運命やいかに。

◎悪夢

 ケイブレイラル大王の亡命を手助けした後、エスケル人といっしょに持ち込まれたウイルスのせいで、〈スター・パイオニア〉の“農場”にある組織培養槽は駄目になってしまいました。イーストと藻類で代用食料を用意することはできるものの、到底満足できるようなものではありません。
 そこで、艦長のファレルはグライムズに対し、〈キンソルヴィングの惑星〉へ立ち寄って野生化した家畜を狩猟することを提案します。加えて、ファレルはキンソルヴィングに興味を抱いており、この機会は渡りに船でもあったのです。二度の訪問で恐ろしい目に遭ったグライムズは不安を感じずにはいられませんでしたが、明白に拒絶できるような理由もなかったため、仕方なしに辺境星区連合から着陸許可を得ることにしました。
 キンソルヴィングへ到着後、グライムズとソニアは廃墟となった植民地跡へと出かけました。自然に還りつつある町の中で唯一元のままだった奇妙な教会に入ってみた二人は、そこで棺型の祭壇の上に浮かぶ謎の冷光体を発見します。
 それに近づこうとしたとき、グライムズは別の平行宇宙へと飛ばされてしまいます。そこはグライムズが連邦監察宇宙軍を退官しなかった世界であり、彼は辺鄙な惑星ゼットランドで基地司令を勤めながら怠惰な生活を送っている別のジョン・グライムズと同化してしまったのです。

 本書の注目ガジェットは、クラリッセ・レインの召還能力です。
 元々この能力は、クラリッセの曾祖父である〈高貴な野蛮人〉ラウルが持っていたもので、薬物でトリップしつつ動物の壁画を描き、獲物を近くに呼び寄せるという目的で使われていたようです。
 クラリッセはラウルの能力を受け継いでおり、スカルステン神学協会はそれを利用して旧約聖書の神を呼び出そうとした訳ですね。もっとも、仮にそれが成功したとしても、神の怒りを買うかもしれないという可能性は考慮しなかったのでしょうか(^^;)
 この能力を、グライムズはテレポーテーションやテレキネシスに関連したものと見ており、絵を実体化させているのではなく、あくまで遠くに存在するものを近くに呼び寄せている模様です。実際、別のエピソードで、クラリッセの呪術は宇宙船間のテレポーテーション手段として使われる場面もあります。
 クラリッセはこの他にテレパシー能力も有しており、これが縁でグライムズの知人である精神波通信士ケン・メイヒューと結婚しています。余談ですが、このメイヒューはおそらく本編十二巻『銀河私掠船団』に登場したケネス・メイヒュー少佐(作中にケン・メイヒューという記述あり)と同一人物と思われます。本来ならグライムズ同様そこそこの年齢のはずですが、あるエピソードの経緯により若返りを果たして青年の姿になっているという、色々と優遇されたキャラクタです(^^;)

 表題作の『名誉の殿堂』はメタフィクション風味ということで、ホームズやらハムレットやらが出演するドタバタ劇も楽しいのですが、やはり白眉はキャプテン・チャンドラーご自身の登場ですね。
 また、同じ〈キンソルヴィングの惑星〉を舞台としながらも、平行宇宙を扱った『悪夢』は一転して落ち着いた味わいの作品です。グライムズが迷い込んだ先は、本編『傷ついた栄光』の反乱劇で監察宇宙軍に留まり軍法会議を受けることになった世界のようです。この世界でのグライムズがあまり幸せそうでないところを見ると、やはり彼には波瀾万丈な人生こそが似つかわしいのかもしれません。

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