辺境星域の神々

[題名]:辺境星域の神々
[作者]:A・バートラム・チャンドラー


 〈銀河辺境シリーズ外伝〉第五巻です。
 本巻は四部構成の長編という扱いにはなっているものの、実際には連作短編に近い形態ですね。時間的に連続してはいますが、各話の独立性は高く、かなりバリエーションに富んでいます。日本語版では単に「第○部」と数字が振られているだけですけど、本来はそれぞれタイトルが付けられています。(以下に原題を併記)
 辺境星区連合宇宙軍准将、そしてまた〈リム・ランナーズ〉運航本部長として、グライムズは銀河辺境のあちこちで起きる事件に関わっていきます――そしてもちろん、彼の関与は更なるトラブルを招くことになるのです(笑)

◎第一部("The Rim Gods")

 惑星ローンのフォーローン宇宙港で職務を遂行していたグライムズの下を、スカルステン神学協会が有する宇宙船〈パイアティー〉の船長ウィリアム・スミスが訪れてきました。スミスはある宗教的な目的のために〈キンソルヴィングの惑星〉へ向かおうとしており、銀河辺境の異常事態に何かと詳しいグライムズに同行を求めてきたのです。妻ソニアが旅行中で暇をもてあましていたことに加え、辺境星区連合のクレイヴィッツ提督から神学協会の動向を監視するよう命ぜられ、グライムズは派遣調査官かつ道案内として〈パイアティー〉へ乗り込むこととなりました。
 厳格な宗教的戒律に則り行動する〈パイアティー〉の面々は、グライムズにとっては堅苦しく窮屈なばかりでした。けれども、その中で修道女のクラリッセ・レインだけは戒律に囚われない自由な考えを持っていました。そして彼女は、かつてキンソルヴィングで発見された野蛮人の子孫でもあったのです。
 〈パイアティー〉の宗教的指導者達はシスター・レインの言動を苦々しく思っていたものの、グライムズの手前、彼女を罰することはできません。その上、シスター・レインはこの遠征の鍵となる重要な役目があったのです。
 やがて〈パイアティー〉が〈キンソルヴィングの惑星〉へ到着したとき、グライムズは目にすることになります――スカルステン神学協会の驚くべき目論見を。

◎第二部("The Bird-Brained Navigator")

 〈キンソルヴィングの惑星〉での騒動を終えた後、グライムズは今度は星間運輸会社〈リム・ランナーズ〉の運航本部長として、惑星サーンへ赴くことになりました。
 惑星サーンは人類に似た異星人サーン人の住む星です。かつてグライムズがこの世界を訪れた際に、暴虐な支配階級である追いはぎ貴族への革命に手を貸したことで、サーン人から多大な尊敬を受けていました(彼の名前にちなんだグライムズ宇宙港があるほど)。しかしながら、今回の訪問はサーン人絡みではなく、〈リム・ランナーズ〉配下の星間旅客船〈リム・ドラゴン〉に起きた不和への対処でした。〈リム・ドラゴン〉は乗員同士のいざこざがエスカレートし、船が運航できない事態に陥っていたのです。
 〈リム・ドラゴン〉に乗船したグライムズは面接や仲裁を行い、不和の中心であった二等航宙士ミスンダンを転属させることで解決を図りました。ところが、ミスンダンは革命家気取りの狂信的な人間で、グライムズの下から逃走し、追いはぎ貴族の生き残りであるタンガロア人と手を組んでしまいます。
 グライムズは地元警察と協力してミスンダンを捕らえようとするものの、すんでの所で逃げられました。それを追いかけ、タンガロア島へ向けて出港寸前の海上船へ単身飛び乗ったグライムズは、しかしその無謀さが祟って捕虜にされてしまうのです。

◎第三部("The Tin Fishes")

 サーンでの事件解決後、グライムズは商船〈リム・ケストレル〉に乗り、海洋惑星メリーズへ到着しました。ここもまた、かつてグライムズが宇宙船〈ファラウェイ・クエスト〉で探査した惑星の一つであり、住人から敬意を払われる地です。
 その惑星メリーズで、グライムズは海棲種族メリーズ人の首長ウンナアラに助けを求められました。彼らの居住する海には、最近になって肉食の怪物ヒトデが襲来し、真珠養殖業を脅かしていると言うのです。
 〈リム・ランナーズ〉の取引相手であり、また彼自身に崇拝の念を向けるメリーズ人達を見捨てられないグライムズは、出航する〈リム・ケストレル〉への乗船を取り止めました。そして、海洋生物のことは分からないながらも、怪物ヒトデへの対処方法を求めて調査を開始するのですが……。

◎第四部("The Last Dreamer")

 惑星ローンへ向かう宇宙船〈リム・ジャガー〉は、その道中に奇妙なものと遭遇しました。それは、存在しない太陽の光を受けて輝く、そこにあるはずのない惑星でした。グライムズの経験上、平行宇宙間の違いは主に文化的なものであり、前触れなく現れた謎の惑星はこれにそぐわないものだったのです。
 〈リム・ランナーズ〉取締役会は連絡を受け、〈リム・ジャガー〉に対し惑星の徹底調査を指示しました。そして、グライムズと三等航宙士サンダースンの二人が宇宙艇に乗り込み、謎の惑星へと降下します。
 美しい公園へと着陸した彼らは、そこで蜘蛛の巣に囚われていた人間の娘そっくりの小さな妖精を助けました。すると妖精は二人に対し、オーガの城へ川をたどり、姫を目覚めさせるよう告げたのです。
 そうするうちに、グライムズ達の精神も変調を来してきます。サンダースンは竜退治の王子に、そしてグライムズは彼に従う騎士の役目を振る舞い始めたのです。何かがおかしいと気付きつつも、彼らにはそれに抗う術がありません。
 果たしてグライムズらの運命やいかに。

 本書の注目ガジェットは、〈キンソルヴィングの惑星〉("Kinsolving's Planet")です。
 この惑星は、銀河辺境の中でも特に平行世界がらみの異変が集中する世界のようで、本作以外でも幾度か物語の舞台となります。
 〈キンソルヴィングの惑星〉が発見されたのは他の植民地と同時期とのことですから、〈銀河辺境シリーズ〉の数百年前になるのでしょうか。植民が行われたものの、住人の多くに精神異常が現れたせいで、早々に植民地は廃れてしまいます。
 その後、この惑星に緊急着陸した星間運輸公社の宇宙船が何故か穴居人の一団と出くわし、この一人を連れ帰ります。この野蛮人ラウル(レインの曾祖父)は、本来属していた太古の世界から〈キンソルヴィングの惑星〉の力によって未来へ運ばれた模様です。
 ラウルは穴居人達のシャーマンであったらしく、洞窟壁画を使ったある特殊な呪術を行使することができたとされています。この力は曾孫のレインにも受け継がれており、今回のエピソードに繋がるわけですね。

 本書のエピソードは、第一部・第四部がネタ勝負、第二部がアクション風味、第三部がミステリ仕立てと、なかなかのバリエーションを見せてくれます。
 それにしても、グライムズ君はあちこちの惑星で尊敬を勝ち得ているようで、既に半ば伝説的な人物と化しています。描かれることのなかった中年以降の時代、銀河辺境に流れ着いた彼が〈ファラウェイ・クエスト〉で行った数々の冒険はどのようなものだったのか、想像を巡らしたくなりますね。

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