時空漂流船現わる!

[題名]:時空漂流船現わる!
[作者]:A・バートラム・チャンドラー


 〈銀河辺境シリーズ外伝〉第四巻です。
 この巻からは、グライムズの晩年における逸話を取り上げたお話が続きます。つまり、本来はこれらも〈グライムズ・サガ〉にカウントされる作品群です。"Rim World series"にはグライムズが主人公でない未訳作品もいくつか残っているようですけど、日本ではグライムズの前半人生がメインストーリーとされている以上、それらにはなかなか焦点を当てにくいのかもしれません。
 突如として現れた正体不明の宇宙漂流船。その謎を探るうちに、グライムズ達は恐るべき隣人の存在を知ることになるのです。

 惑星ローンにあるフォーローン宇宙港で、ジョン・グライムズはやや感傷に浸っていました。彼は程なく、銀河辺境星区宇宙軍准将と〈リム・ランナーズ〉運航本部長の職を辞し、妻である連邦監察宇宙軍中佐ソニア・ヴェリルと共に第二の人生を始めようとしていたところだったのです。
 しかし、彼らの思惑は突如舞い込んだアクシデントで中断を余儀なくされます。惑星ローンの属する恒星系に、所属不明の宇宙船が突如姿を現したのです。全く応答を示さない漂流船に対し、グライムズは小型救難曳航船〈リム・メームリュート〉を指揮して接近を試みます。
 〈ディストリーイー〉と〈フリーダム〉という二つの名前が刻まれた漂流船の中では、粗末な腰布程度を着ただけの人々が、女性や子供を含めて全員死亡していました。彼らは確かに地球人と同じ種族でしたが、その宇宙船の建造者はそうではないらしいという奇妙な齟齬がそこにはありました。
 調査を進めるうち、驚くべき事実が判明します。漂流船〈ディストリーイー〉は別の平行宇宙から来たのであり、その世界では尻尾を持つ非人類種族が人間を奴隷化していたのです。中に乗っていた人間達は有尾人の支配から逃げようと〈ディストリーイー〉(彼らはこれを〈フリーダム〉と命名)したものの、核爆弾の攻撃により命を落とし、同時にその衝撃でグライムズの平行宇宙への飛ばされてきたのでした。
 銀河連邦監察宇宙軍と辺境星区連合は共同し、この異常事態を更に調査すべく宇宙船をその宇宙へと送り込むことにしました。有尾人の技術は地球人のものを下地にしていながらも、幸いにしてグライムズの宇宙の方が進歩しています。グライムズとソニア率いる調査隊は漂流船の奴隷に化け、改装した〈フリーダム〉に核爆弾を再度ぶつけるという荒っぽい方法(笑)でその宇宙へと乗り込むのですが……。

 本書の注目ガジェットは、有尾人("tailed beings")です。
 〈ディストリーイー〉に残された証拠から、人間を奴隷化していた種族には細い尻尾があることが判明しています。グライムズ一行は平行宇宙へ移動後、この種族がネズミから進化した知的生命体であることを突き止めます。
 有尾人はある状況下で突然変異を起こし、突如として知性を獲得したミュータントネズミです。何しろ元がネズミですから、文字通りネズミ算で増殖し、その数で人類を圧倒してしまった訳ですね。従って、彼らには固有の文明はなく、その科学技術は全て地球人の借り物です。
 有尾人は母音が「イ」のみしか発音できないらしく、人類の単語はそのルールで置き換えられてしまっています。〈デストロイヤー("Destroyer")〉が〈ディストリーイー("Distriyir")〉、マンシェン・ドライブ("Mannschenn Drive")がミンシーン・ドライヴィー("Minnschinn Drivi")といった具合です。そこまで母音が区別されないと、無数の単語の読みが同じになってしまいそうですね。有尾人の子供はさぞ苦労しているのではないでしょうか(^^;)

 老齢に差し掛かった我らがグライムズですが、そのトラブル体質は相変わらずのようです。宇宙軍准将と星間運輸会社の運航本部長という名誉ある二足のわらじを履き、ソニアという伴侶を得ながらも、未だに事件に巻き込まれるのは、後ろでどっしり構えていられない性分が禍しているのでしょうか(^^;)
 もっとも、辺境星区連合も〈リム・ランナーズ〉も人手不足で、本来なら重鎮レベルのグライムズが現場に駆り出されてしまう原因になっている模様です。かつて所属していた監察宇宙軍ではしばしば型破りな行動を咎められた訳ですけど、そうした面すらも受け入れるルーズな銀河辺境の社会がグライムズの第二の故郷となったのは、決して不思議なことではないのかもしれません。

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