暗黒星雲突破!

[題名]:暗黒星雲突破!
[作者]:A・バートラム・チャンドラー


 〈銀河辺境シリーズ外伝〉第三巻です。
 本巻は前巻とストーリー的な繋がりが強く、物語は『銀河傭兵部隊』のすぐ後から始まります。つまり、〈女帝アイリーンもの〉に属するお話ですね。
 ストーリーもまたベンジャミン・トラフォード寄りの視点で進行するのですが、本書ではあるキーパーソンの登場により、シリーズにおける〈アイリーンもの〉の位置付けが明確化されます。その人物とは……。

 食わせ者のGLASS(抑圧および奴隷制度廃止銀河連盟)のエージェント、スミスにまんまと填められて、コクレル輸送船団の惑星アントリム脱出に手を貸した武装小型快速船〈ワンダラー〉。この件で若干の報酬はあったものの、一杯食わされたアイリーンは少々おかんむりでした。
 しかしながら、GLASSは〈ワンダラー〉の取引相手であり、彼らはスミスが持ち込んできた新たな依頼を引き受けることにします――その裏に何かがあるのではないかと疑りつつも。
 その依頼内容とは、ヒューマノイドの異星人であるイラリア人大使館員二十四名を、〈ワンダラー〉が現在逗留する惑星カラケラから、その母星である惑星イラリアへと運ぶことでした。それだけなら単なる旅客運送でしたが、イラリア人にはかつて奴隷として扱われた苦い歴史があり、他の惑星上では死んでしまうよう心理的条件付けがなされていたのです(大使館勤務のような特例を除く)。けれども、これを良しとしないグループもあり、その連中が〈ワンダラー〉の移送を阻もうとする可能性が判明します。〈ワンダラー〉はねずみ取り、イラリア人はその中のチーズだったのです。
 またしてもスミスにしてやられたアイリーン達ですが、ともかくも乗員乗客合わせて三十名を乗せた〈ワンダラー〉は惑星イラリアへと出発します。そして予想通り、重武装の宇宙船三隻が〈ワンダラー〉を拿捕しようと接近してきました。
 敵船を振り切るため、やむを得ず危険な暗黒馬頭星雲への突入を余儀なくされた〈ワンダラー〉。不測の事態に直面しながらも逃走を続ける船の前方に、突如として所属不明の宇宙船が現れます。それは、〈ワンダラー〉の乗員が誰も聞いたことのない組織を名乗っていました。
 船の名は、銀河辺境星区連合巡航宇宙船〈ファラウェイ・クエスト〉。そして船長の名は――連合宇宙軍准将ジョン・グライムズ。

 本書の注目ガジェットは、平行宇宙(パラレル・ユニヴァース)です。
 平行宇宙とは、巨視的には良く似た世界ながら、細部には様々な違いがある別の宇宙のことです。例えば、ある宇宙ではジョン・グライムズが監察宇宙軍に在籍したまま晩年を迎えたり、またある宇宙ではグライムズのファーストネームがジョンではなくアンディだったり、という調子ですね。
 〈銀河辺境シリーズ〉の舞台においては、宇宙の膨張により銀河辺境の時空組織が薄く伸びているとされています。このせいで、他の平行宇宙の物体がさまよいこんでくることがしばしば起こる訳です。
 本巻では、〈女帝アイリーンもの〉が〈グライムズ・サガ〉とは別の平行宇宙であったことが明らかになります。アイリーンの世界では、地球は選出された女王が支配する強大な地球帝国を形成しているのですが、グライムズの世界では銀河連邦がその代わりの役目を果たしています。同じ〈銀河辺境シリーズ〉に属しながらも少々設定が異なるのはそのためですね。(後付け設定のような気もしますが(^^;))

 本巻登場のグライムズ准将は、おそらく〈グライムズ・サガ〉の主人公ジョン・グライムズその人だと思われます。ここは外伝第一巻『光子帆船フライング・クラウド』登場のアンディ・グライムズとは異なる点ですね。もっとも、正史(?)のグライムズも光子帆船と船長リストウェルのことに言及している箇所が別の巻にあり、両者の経歴はそれほど違わない模様です。
 また、グライムズの搭乗する宇宙船〈ファラウェイ・クエスト〉は、彼がオーストラル星系で購入した〈シスター・スー〉と同じ船であるらしいことが、本編最終巻『遙かなり銀河辺境』にて仄めかされています。買った当初からオンボロ貨物船だった〈シスター・スー〉ですけど、名前を変え、グライムズ個人所有から辺境星区連合所属へ移りつつも、未だグライムズと共に現役であるのは嬉しいですね。

この記事へのコメント

  • X^2

    なるほど、こういう複雑な設定だったんですね。
    ところで「外伝」の方が本来はシリーズ本体であり、「グライムズ・サガ」の方がそのスピンオフだという話でしたが、そうすると「地球帝国」の宇宙とその世界のグライムズの方がシリーズ本来の形という事なんでしょうか?
    2011年09月17日 00:20
  • Manuke

    憶測になってしまいますが、元々チャンドラー氏は作品群をシリーズ化しようという意識が薄かったんじゃないかと考えてます。バックボーンは一部共有しつつも、各エピソードの矛盾はあまり気にしていなかったんじゃないかと。
    その辺りをひっくるめて統合するにあたって、平行宇宙というガジェットが必要だったのではないでしょうか。だから、どれがメインということはなく、群像劇的な世界を形成しているのだと思います。
    特に根拠のない想像ではありますが(^^;)
    2011年09月18日 01:59

この記事へのトラックバック