銀河傭兵部隊

[題名]:銀河傭兵部隊
[作者]:A・バートラム・チャンドラー


 〈銀河辺境シリーズ外伝〉第二巻です。
 外伝における〈銀河辺境〉世界は、ジョン・グライムズを中心とした本編〈グライムズ・サガ〉とはいささか異なる舞台背景を持つものがあります。本書はその中でも〈女帝アイリーンもの〉に属するエピソードですね。
 アイリーン・トラフォードは、本書の主人公ベンジャミン・トラフォードの妻にして、地球帝国の元女帝という一風変わった経歴を持つ女性です。恒星間に広がる巨大な帝国を支配していただけあって、かなり苛烈な性格をしているようです。恐妻家ベンジャミンの明日はどっちにあるのでしょう(笑)

 元女帝のアイリーン・トラフォードを船主兼一等航宙士に、そして元帝国宇宙軍中佐のベンジャミン・トラフォードを船長に頂く小型快速船〈ワンダラー〉。この船は強力な武装を持ちながらも、法的には商船扱いという変わった存在です。そして〈ワンダラー〉一行は仕事にあぶれていました。
 アイリーンは金を儲けること自体を否定はしないものの、売り払った〈ワンダラー〉が海賊や不法国家の手に渡ったりするような事態を危惧していました。従って、請け負う仕事の内容を十分に吟味する必要があったのです。
 爬虫類型種族の惑星スティリラで、二人はミスター・スミスと名乗る人物と接触します。彼はGLASS(抑圧および奴隷制度廃止銀河連盟)のエージェントであり、疫病の発生した惑星アントリムへの抗生物質輸送を希望していました。
 問題点は、アントリムが鳥型種族ハリチェク人の領圏内にあることでした。ハリチェク人は連盟圏内にある人類の惑星アントリムへの進出を目論んでおり、かつ地球人向けの抗生物質がハリチェク人には麻薬になるという理由で、薬の輸入を差し止めていたのです。
 かくしてトラフォード達はGLASSの傭兵となり、抗生物質を運ぶ使命を託されました。〈ワンダラー〉はアントリムを封鎖するハリチェク宇宙艦隊の包囲を強行突破し、マンシェン駆動の特性を使った離れ業でアントリムへの着陸に成功します。
 依頼を果たした〈ワンダラー〉一行――けれども、その仕事はそこで終わりではなかったのです。

 本書の注目ガジェットは、ハリチェク人とコクレル人です。
 鳥型異星人ハリチェク人は本編十二巻『銀河私掠船団』にも登場していますけど(執筆はこちらの方が先)、同一の種族であるかは不明です。本書のハリチェク人は頭部が鶏、首から下が駝鳥に似た姿をしており、描写からはあまり空を飛べそうにない印象ですね。雄の羽毛が玉虫色や虹色の派手な色彩であるのに対し、雌の羽毛はくすんだ鳶色をしています。
 生態もやはり鶏に似たところがあり、気性が荒く喧嘩っ早いようです。また、『W』を発音することができないらしく、例えば『〈ワンダラー〉("Wanderer")』は全て『〈ヴァンダラー〉("Vanderer")』に、『われわれ("We")』は全て『ばればれ("Ve")』と台詞では表記されています。
 本編と類似したシチュエーションで、一つの鳥人種族が女尊男卑のハリチェク連盟と男尊女卑のコクレル連盟という二つの星間連合国に分かれ、互いを征服しようと睨み合っています。作中では、〈ワンダラー〉と敵対することになるハリチェク人(雌側)がけたたましく底意地の悪い連中と受け止められているのに対し、手を結ぶことになるコクレル人(雄側)は横柄ながらも信頼の置ける一団と見なされています。もっとも、これは男性であるベンジャミン・トラフォードの視点から描かれたもので、アイリーンはどうもハリチェク人の方がマシだと思っている節があるようですが(^^;)

 〈ワンダラー〉の乗組員は先に述べたトラフォード夫妻の他、やたら兵器をぶっ放したがる(笑)戦闘マニアの二等航宙士タレンタイアー、その妻で比較的良識派なパーサーのスザンナ、少々変わり者の精神波通信士メッツェンザー(精神波通信士としてはごく普通かも(^^;))、そして頑固な主任機関士ブロンハイムの六名からなります。
 このうち、男性四人はいずれも帝国宇宙軍出身、またスザンナはアイリーンに仕えていた侍女という経歴ですが、その割には少々纏まりがない印象を受けますね(^^;) 本来のリーダーは船長であるベンジャミン・トラフォードのはずですけど、アイリーンの発言力が大きいせいで指揮系統が一本化されていないのが問題のように思われます。これはアイリーン自身もベンジャミンに忠告している点なのですが、そう言いつつもつい口を挟んでしまうのは、女帝としての振る舞いが抜けきっていないせいでしょうか。

この記事へのコメント

  • X^2

    残念ながら、「外伝」の方は全く読んでいないのですが、「地球帝国」の設定って、グライムズ・サガの方に描かれていましたっけ?それともあの世界の地球は帝国であって、その設定が完全に私の記憶から漏れているだけなのかな?そう言えば「男爵令嬢」は居たから、貴族階級はいるんでしょうが。現在の英連邦と似たような状況で、名目上の皇室が存在して、「君臨するとも統治せず」状態なんですかね。
    また,そもそもどういう経緯で「元女帝」がこんな事になっているんですか?
    2011年09月10日 11:01
  • Manuke

    地球帝国に関しては、X^2さんのご記憶通りですね。実は〈アイリーンもの〉は、パラレルワールドのお話なんです。
    この辺りは次巻のレビューで触れますので、少々お待ちくださいませ。

    元女帝の経緯については、私も良く分からなかったりします(^^;)
    〈女帝アイリーンもの〉は、〈銀河辺境シリーズ外伝〉に収録されていないもう一本のエピソード(『外宇宙の女王』:"Empress of Outer Space")がありまして、どうやらこれが女帝時代のアイリーンを描いているようです。
    現時点では未読なのですが、入手できたらこちらもレビューしたいと思います。
    2011年09月11日 00:16
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/225226649

この記事へのトラックバック