メトセラの子ら

[題名]:メトセラの子ら
[作者]:ロバート・A・ハインライン


 本書はハインライン氏の〈未来史〉シリーズに属する物語であり、長寿の一族ハワード・ファミリーの受難を描いた作品です。
 同じ〈未来史〉に属するお話として、世代宇宙船を扱った作品『宇宙の孤児』が存在しますが、本書にはこのバンガード号に関連する部分があります。何十年という年月のかかる星間旅行を複数の世代によって克服するのが世代宇宙船ですが、それとはまた異なる手段が提示されているのは興味深いですね。
 長きに渡って長寿の血統を守ってきたハワード・ファミリーが自分達の存在を明らかにしたとき、世界は彼等を憎悪します。人々の猜疑心と欲望に蹂躙されることを厭い、ファミリーは最年長者のラザルス・ロングに率いられて宇宙へと放浪の旅に出立するのでした。

 長命の家系を持つ人々を選別して仲間に引き入れ、更なる長寿の血統を生み出そうとしたハワード財団。その成果として、一般の人々よりもずっと長生きで、若々しい外見を保った十万人もの集団ハワード・ファミリーが誕生していました。
 狂乱時代と呼ばれる抑圧的・差別的な時期が終わり、それまでより自由な時代が訪れたとき、ハワード・ファミリーはそれまで秘匿してきた自分達の存在を世界に明かすことに決めます。しかし、それは失策でした。
 世界中の人々は、短命な自分達と比較して遥かに長命なファミリーのメンバーに対し嫉妬と憎悪を感じます。それに留まらず、ハワード・ファミリーの長寿が単なる遺伝だということを信じようとしません。彼等が人間の寿命を引き延ばす方法を知りながら、それを隠しているのだと疑ったのです。
 外見上は二十代後半に見える女性メアリイ・スパーリングは、実際には齢百八十三歳に達するハワード・ファミリーの長老株でした。彼女はミシガン湖の湖底にある秘密の会議場へ赴き、〈仮面政策〉を取りやめたことによる騒動を解決するために会合を開きます。
 その途中、メアリイは出席者の中に自分よりも年長の男がいることを知ります。それはラザルス・ロングと名乗る、ファミリー最長老の二百十三歳でありながらバイタリティ溢れる男性でした。
 議長の座を譲られたラザルスはメアリイに代わって議事を進行させますが、今後ファミリーがどう行動するべきかという点では皆の意見が一致しません。結論が出ないまま会合をいったんお開きとし、ラザルスはメアリイに誘われて彼女の家へ向かいます。
 しかし、世界の人々の敵意は彼等に猶予の時間を与えてはくれませんでした。法に定められた人権を無視して、正体の割れているファミリーのメンバーが次々と拘束され始めたのです。
 ハワード・ファミリーの受難の日々が始まります。

 本作の注目ガジェットは、長寿の一族ハワード・ファミリーです。
 長く生きることを望んだ一人の富豪によって始められたハワード財団は、主に優生学的な手段を使って長寿の遺伝子を取り込むことを繰り返し、その結果長命な人々が生まれます。もっとも、最長老のラザルス・ロング(またの名をウッドロウ・ウィルスン・スミス)自身はこのシステムの初期世代に相当するため、どちらかと言うと突然変異なのかもしれません。
 本書のメインテーマではありませんけど、この長寿というガジェットは世代宇宙船とは異なる手段での恒星間旅行を示唆してくれます。つまり、広大な恒星間を渡る時間を、長い寿命によって相対的に短くしてしまう訳です。
 『宇宙の孤児』におけるバンガード号は六十年をかけてプロキシマ・ケンタウリを目指します。この時間は普通の人間にとっては複数世代に相当しますが、ファミリーの者にとってはそれほど長い期間ではないということになります。世界の人々がハワード・ファミリーに嫉妬するのもむべなるかな、ということでしょうか(笑)

 本書の主人公ラザルス・ロングは、ハインライン氏の諸作中でも最もハインライン的な登場人物と言えるかもしれないですね。
 がっしりした身体付きに白髪まじりの頭、宇宙焼けした顔には生命力が溢れています。理想論を軽蔑し、行動力があり、自らの信念をそう簡単に曲げたりはしません。有事のときには非常に頼りになる存在ですけど、ときに粗暴・独善的と非難されることもあります。
 ラザルス・ロングはハインライン氏のお気に入りのようで、別の作品『愛に時間を』で再び主役に抜擢されています。

 また、『メトセラの子ら』は〈未来史〉に連なる物語であるために、他の〈未来史〉作品に登場するキーワードがいくつか登場します。ハワード・ファミリーが乗り込むことになる宇宙船〈新開拓者(ニュー・フロンティア)〉は『宇宙の孤児』に登場するバンガード号の後継機ですし、ファミリー随一の天才であるミスター計算機・リビイは短編『不適格』の登場人物、その他にもいくつか小さなネタが散りばめられています。
 それら自体はメインストーリーと直接関わりはありませんが、物語同士が結びついていることにより、歴史としての厚みを感じさせてくれる部分だと言えますね。

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