光子帆船フライング・クラウド

[題名]:光子帆船フライング・クラウド
[作者]:A・バートラム・チャンドラー


 〈銀河辺境シリーズ外伝〉第一巻です。
 日本で刊行されたものは、ジョン・グライムズの人生の前半を描いた続き物が〈銀河辺境〉本編、それ以外の雑多な作品群が外伝という扱いになっています。しかし、本来チャンドラー氏が先に手がけたのは同系統の銀河辺境を舞台としたお話であり、日本における本編はそのサブ・シリーズ的な位置付けになります。つまり、外伝こそが本来の"Rim World series"に当たると言えるかもしれません。
 その第一巻に選ばれたのは、新型宇宙船〈フライング・クラウド〉を巡るエピソード。但し、本作は厳密な意味での〈グライムズ・サガ〉後日談とは言いがたいお話でもあります。

 銀河辺境を主な活動拠点とする星間運輸会社〈リム・ランナーズ〉。そこに所属するオンボロ貨物船〈リム・ドラゴン〉は、どうにか惑星ローンのフォーローン宇宙港へ辿り着きました。
 その直後、パーサーのピーター・マルカム、一等航宙士ラルフ・リストウェル、主計士官サンドラ、そして船医のジェンキンスに対し出頭命令が下されます。それは〈リム・ランナーズ〉運航本部長グライムズ准将からの呼び出しでした。
 准将の部屋まで四人が赴くと、グライムズはそこで彼らを新型宇宙船の乗組員にスカウトしました。光を受けて進む光子船〈フライング・クラウド〉は光速度を超えることはできないものの、推進剤いらずのため非常に安いコストで飛行可能であり、かつ亜光速で飛ぶため船内の時間は相対的に短くなります――もっとも、船外では十年の時間が経過してしまいますが。
 船長候補のラルフはトップスルスクーナー(海上の帆船)を操る航海士の資格を有しており、〈フライング・クラウド〉の操船にはうってつけでした。かつ、選ばれた四人はいずれも家族がいないため、十年の浦島太郎状態でも困る者がいない、というのが抜擢の理由だったのです。
 スカウトに応じることにしたピーター達、及び機関士ペギー・シモンズと新聞記者マーサ・ウエインを加えた六人は、まず最初に海上の帆船、続いてヘリウム・ガスを詰めた飛行船で操船訓練を行った後、いよいよ〈フライング・クラウド〉に乗り込むことになります。
 その頃、惑星ローンの議会では、反物質を搭載した実験船〈フライング・クラウド〉を危険視する機運が高まりつつありました。航海を邪魔されたくないグライムズはラルフを急かし、〈フライング・クラウド〉は空軍のロケット戦闘機の停船命令を無視して宇宙へと飛び立ちます。
 かくして始まった〈フライング・クラウド〉の実験航海。果たして彼らは無事に目的地へ辿り着けるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、光子帆船〈フライング・クラウド〉です。
 〈フライング・クラウド〉は円筒形の船体周囲に帆を張り巡らせ、太陽光を受けた反動で推進する、いわゆるライトセイルの一種です。船種は光子船(ライトジャマー:"Lightjammer")とされており、これは十九~二十世紀に使用された貨物用の大型帆船ウインドジャマーをもじったものですね。
 本来ならばライトセイルの推力は非常に小さいため、重い貨物船を推進させるには不向きなのですが、〈フライング・クラウド〉は反物質を使った反重力装置が組み込まれており、これで船を軽くするという対処を行っています。もっとも、そのせいで〈フライング・クラウド〉には相当量の反物質が搭載されていることになるわけで、議会がそれを危険視するのも無理はないかもしれません(^^;)
 ちなみに〈フライング・クラウド〉という船名は、十九世紀の実在の帆船から取られたものです(ウインドジャマーではなくクリッパー船)。これは、ニューヨーク‐サンフランシスコ間の最速記録が百年も破られなかったという高速船のようです。また、〈フライング・クラウド〉の別名として登場する〈エアリエル〉/〈テルモピレー〉も同時代のクリッパー船から取られたものと思われます。キャプテン・チャンドラーの書かれるお話は、どこかしら海上の船とリンクしているところが心憎いですね。:-)

 ところで、本書に登場するグライムズ准将ですが、本編〈グライムズ・サガ〉の主人公ジョン・グライムズと、厳密な意味での同一人物ではないようです。と言うのも、本書のグライムズのファーストネームはジョンではなくアンディだからです(ややこしいですが、アンディ・グライムズにはジョンという名の息子がいる模様(^^;))。もっとも、描かれ方を見るところ、名前以外はジョン・グライムズとさほど変わらない人物のようですが。
 〈銀河辺境シリーズ〉は、本編でも幾度かパラレルワールドの概念が登場していますけれど、外伝に含まれる作品群ではこれがもっと全面に押し出されています。本書においても、〈フライング・クラウド〉のクルー達はパラレルワールドと関わる場面がありますが、そのうちのどれかが、もしかしたら〈グライムズ・サガ〉の世界なのかもしれません。

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