遙かなり銀河辺境

[題名]:遙かなり銀河辺境
[作者]:A・バートラム・チャンドラー


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈銀河辺境シリーズ〉第十五巻にして最終巻です。
 当シリーズは本来、作者チャンドラー氏による同一背景の作品群"Rim World series"の一登場人物であるグライムズ准将をフィーチャーし、その人生の前半を描いたお話です。残念ながらチャンドラー氏が亡くなられたことで、グライムズが商船会社〈リム・ランナーズ〉の運航本部長となるまでの道のりは埋められないままで終わりました。
 しかしながら、本巻はシリーズ最終巻を飾るに相応しい、もの悲しくも美しい場面で締めくくられます。グライムズは束の間の幻視に、果たして何を思ったのでしょうか。

 惑星ニュー・スパルタの事件を解決後、グライムズは貨客船〈シスター・スー〉の船長へと復帰し、地球へと帰還しました。
 監察宇宙軍の次の秘密任務を待つ間、彼はニュー・アリス人の士官候補生ダルリーンとシャールを連れ、生家へと帰ることにします。オーストラリア内陸部のアリス・スプリングスへ向かった三人は、両親と、透明なボディを持つロボット・メイドのセイ子に迎えられました。途中、セイ子の独特なユーモアが引き起こした騒ぎでセイ子がメーカーに返品されるというトラブルはあったものの、グライムズ達は大いに羽根を伸ばして休暇を堪能しました。
 やがて、ダミアン少将の呼び出しで休暇を切り上げたグライムズに、次の任務が与えられます。それは、ニュー・セイラム星系で毛皮採取のために殺されている土着生物シルキーが、実は知的生命体ではないかという疑いを確かめるというものでした。依頼を持ち込んだ原住民保護協会は、少し前に失態を犯したせいでおおっぴらに動くことができず、民間貨客船長という立場のグライムズに事態を引っ掻き回すという役目が回ってきたのです。
 返品を惜しんだグライムズの父が送りつけてきたセイ子、そしてダミアン少将が手配した数名の部下を仲間に入れ、〈シスター・スー〉は目的地へ向けて出発します――正規の乗組員達はそれがカムフラージュであることを知らないまま。そして道中、予定通り“事故”を起こした〈シスター・スー〉は、ニュー・セイラム星系へ緊急着陸して修理を行うこととなりました。
 狂信的な宗教家コッフィン牧師を指導者に抱く前近代的な植民地で、グライムズはダルリーンとシャール、そしてセイ子を伴って真相究明に乗り出します。

 本書の注目ガジェットは、ロボットのセイ子("Seiko")です。
 セイ子は日本製(メーカーは時計のセイコー社で、この時代ではロボット製造にも参入しています)のロボット・メイドで、頭髪のない透明なマネキン状の外見をしているようです。その内部には時計の歯車を思わせる精妙な部品が透けて見えますが、実際には金属の骨格やソレノイドを隠す飾りに過ぎないものです。
 セイ子は元々、歴史作家であるグライムズの父ジョージが秘書として購入したものですけれども、どういうわけか独特の自我を発達させてしまった模様です(ジョージがカスタマイズしたせい?)。グライムズはセイ子の状態を説明するとき、かつて自分が出会った新型ロボットのアダム(『連絡宇宙艦発進せよ!』参照)を引き合いに出していますが、アダムのときとは違い彼女にかなりの敬意を払っており、その人格を高く評価しているようです。
 前述の通り人間とは異なる外観ではあるものの、作中では化粧とかつら、着物により芸者風の姿に変装を行っています。但し、無色の目だけはごまかしようがないため、人間を装う際には黒眼鏡が必要になります。想像してみると、宇宙船の乗員としては相当ミスマッチな感じがしますが、逆に怪しすぎてロボットだとは疑われなかったのかもしれませんね。:-)

 これまでのストーリー中でも、グライムズはマンシェン・ドライブの稼働中に未来を垣間見ることが幾度かありました。それらは短く断片的なものでしたが、本巻の最後ではこれまでにないほど長く鮮明な未来視を体験することになります。
 この非常に印象的なシーンを指して翻訳者の野田昌宏氏は、チャンドラー氏がご自身の死を予感されていたのではないかと後書きで述べています。真相は分かりませんけれど、そう思っても不思議ではない見事なフィナーレであることは間違いありません。
 様々な出来事を通じて描かれてきたジョン・グライムズの人生は道半ばですが、チャンドラー氏のライフワークである〈グライムズ・サガ〉は決して未完なのではなく、これで完結したのだ――私にはそう感じられるのです。

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