闇よ落ちるなかれ

[題名]:闇よ落ちるなかれ
[作者]:L・スプレイグ・ディ=キャンプ


 本書は、とある青年が突然過去の時代へと飛ばされてしまい、そこで悪戦苦闘する様を描いたSFです。時間SFというジャンルの中でも、特に「タイム・スリップもの」と呼ばれる部類の小説ですね。
 このタイプのものでメジャーなのは、かのマーク・トウェイン氏による『アーサー王宮廷のコネチカットのヤンキー』ですが、シチュエーションこそ似通っているものの本書のスタンスはかなり異なっています。
 このお話の主人公が飛ばされる先は、西ローマ帝国が滅亡した少し後のイタリアです。すなわちタイトル(原題は"LEST DARKNESS FALL")にある「闇」とは、中世暗黒時代を示します。
 突発的にいにしえのローマへとタイム・スリップしてしまったパッドウェイ。彼はその知識だけを頼りに、暗黒時代の到来を防ごうと奮起するのです。

 考古学者マーティン・パッドウェイは、発掘調査のためにイタリアを訪れていました。とある雨の夜、タンクレディ教授にホテルの近くまで車で送ってもらう際、彼は時間の性質に関する説を聞きます。教授の言によれば、過去に遡って出来事を変えてしまったら、元の歴史とは異なる新たな歴史がそこから分岐するのだというのです。
 タンクレディ教授の車を降りてパッドウェイがパンテオンの近くを歩いていたとき、広場に雷が落ちます。そしてその瞬間、彼は古代ローマへとタイム・スリップしてしまうのです(^^;)
 最初は自分の正気を疑うパッドウェイですが、やがて事態を受け入れ、この時代で生きる術を探り始めます。およそ役に立ちそうな物を持たず、腕っ節も極めて頼りないパッドウェイには、しかし一つだけ誇れるものがありました。彼は学者として、この時代に関する深い造詣を有していたのです。
 時は西暦五三五年、東ゴート王国がほどなく東ローマ帝国に蹂躙されようとしている時代です。パッドウェイは果たして時間軸を分岐させることができるのでしょうか。それとも歴史の渦に飲み込まれ、何も成すことなく消えて行くのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、タイム・スリップです。
 と言いますか、いかにもSFらしいガジェットはこれしか出てきません(^^;) しかも、このタイム・スリップが何故起きたのかとか、どういう仕組みだったのか等という説明も一切ありません。あくまでこの要素は、物語が始まるきっかけでしかないわけです。
 もっとも、だからと言って本作が科学的な視点に欠けるということにはなりません。
 この東ゴート王国時代の古代ローマを、ディ=キャンプ氏は豊富な知識により生き生きと描いています。その上で、パッドウェイは自分が未来人であることを十二分に活用し、歴史を書き換えようとするわけです(物語冒頭にあるタンクレディ教授の説を信じて)。
 タイム・スリップそのものがネタなのではなく、それによって引き起こされるIFの世界が『闇よ落ちるなかれ』の核なわけですね。

 本書は登場人物も非常に魅力的です。
 過去の世界に飛ばされた主人公マーティン・パッドウェイ君(人々からはマルティヌスと呼ばれます)は、学者肌で人付き合いが苦手と自認している青年ですが、なかなかどうして行動力があります。
 市井の人々では、気さくなゴート人ネヴィッタや、ごうつくばりな金貸しのトマスス、ヴァンダル人の老剣士フリタリク等、いずれも個性的な面々です。
 また歴史上の人物として、東ゴート王国の王テオダハト、先女王の娘マタスンタ、更には東ローマ帝国きっての名将と言われるベリサリウスも登場します。
 この戦乱の時代でも、人々はそれなりに普通に生活しています(野蛮で不潔な面もありますが、時代を考えれば当たり前ですね)。だからこそ、東ローマ帝国との戦いによりイタリアが荒廃してしまうことをパッドウェイは憂うわけです。この辺りを含めて、史実と照らし合わせるとより楽しめるかもしれません。
 コミカルでテンポの良い、タイム・スリップものの名作SFです。

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック

ここは酷い浦和美園駅旧東西連絡道路ですね
Excerpt: NHK「恣意的放送」問題 テロップ追加に一定の評価 さいたま市 - MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/saitama/100208/st..
Weblog: 障害報告@webry
Tracked: 2010-02-08 23:09