銀河私掠船団

[題名]:銀河私掠船団
[作者]:A・バートラム・チャンドラー


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈銀河辺境シリーズ〉第十二巻です。
 今回のグライムズは困窮のため、ついに連絡艇〈リトル・シスター〉を手放さざるを得なくなります。どうもグライムズ君、商才の方は今一つのようですね(^^;)
 代わりに手に入れた貨客船で心機一転、運送業を始めようとした彼ですが、そこへ思わぬ人物が依頼を持ち込んでくるのです。

 グライムズが黄金の連絡艇〈リトル・シスター〉を使って行っていた小包配達業(クーリエ)は、当初こそ上手くいっていました。しかし、景気の翳りと共に、高い料金を出して荷物を速く送り届けたいという客はぱったりと姿を消してしまいます。
 オーストラル星系で足止めを食らいつつもお客を待っていたグライムズですが、遂に資金が尽きてしまいました。そこへ、ヨサリアン・ロボティックス社の経営者であるヨサリアンが声をかけてきました。ヨサリアンは趣味のために〈リトル・シスター〉を欲していたのです。
 ヨサリアンは大富豪でありながらも技術者気質の人間で、他者に売って船を切り刻まれるよりは――と考えたグライムズは、後ろ髪を引かれつつも〈リトル・シスター〉を売却することにします。そして、その売却金で彼は一時的に金持ちとなりました。
 その後、グライムズは市井で、元船員のビリー・ウイリアムズとマグダ・グラナドウの二人と知り合い、彼らの勧めで中古のイプシロン型貨客船を買うことに決めます。新たな船を〈シスター・スー〉と名付け、若干のトラブルはあったもののグライムズは輸送業者として再出発することになりました。
 オーストラル星系から地球のポート・ウーメラ(現代の南オーストラリア州、アデレードから北西に数百キロメートルの辺り)へ荷物を運んだグライムズは、そこで意外な人物の訪問を受けます。それは監察宇宙軍でのかつての上司、ダミアン少将だったのです。
 大富豪の惑星〈エル・ドラド〉では今、グライムズと因縁浅からぬドロンゴ・ケインが海軍を創設し、私掠船(傭兵の宇宙船版)としてあちこちの戦場で荒稼ぎをしようと目論んでいました。厄介ではあるものの法的には取り締まることができず、監察宇宙軍にとっては頭の痛い話です。
 ダミアンの依頼とは、グライムズと〈シスター・スー〉をケインの私掠船団に潜り込ませ、その後わざと海賊行為を働いて監察宇宙軍の付け入る隙を作る、というものでした。監察宇宙軍予備役への復帰という餌をちらつかされては、グライムズに抗う術はありません(^^;)
 かくして、貨物輸送のフリをして惑星〈エル・ドラド〉へ向かった〈シスター・スー〉。果たして彼の作戦は上手くいくのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、ハリチェク人です。
 ハリチェク人は地球とルーツを異にする鳥型異星人です。あまり詳しい描写はないのですが、地球人と同スケールながら飛行可能であり、翼の先端には鉤爪状の手があります。
 ハリチェク覇権国は極端な女尊男卑で、雌が権力を握り、雄を奴隷同然の扱いで使役しているようです。この弾圧に対し、支配下の惑星カルラで革命が起き、雄が権力の座を奪います。ハリチェク側はカルラ鎮圧のために宇宙軍を派遣しますが、カルラ側にはろくに武力がないことから、〈エル・ドラド〉の私掠船団の力を借りる――という形で物語に関わってきます。
 面白いのは、ハリチェク人宇宙船が卵とエッグカップを組み合わせたような形をしている、という設定です。これまでの巻でも、蜂型種族シャアラ人の宇宙船が蜂の巣の形をしているという描写があり、各種族における快適な居住環境というものの認識が反映されているようですね。逆に私達が将来、技術的制約の少ない居住環境を作り上げることになったとき、そこには人類らしい何かが反映されていたりするのでしょうか。

 さて、タイトルにもある「私掠船」について少し触れておきましょう。
 私掠船とは、特定のグループに属する船(主に海賊船や敵国の船)の拿捕・掠奪を許可する免許を国家から与えられた船のことです。国家公認であるため海賊とは異なりますが、やっていることはあまり変わらないかもしれません(^^;)
 現実の私掠船は十六世紀から十九世紀に渡って活動したようで、もちろん宇宙船ではなく海上の船です。私掠船は海軍ではありませんから国がお金を出す必要はなく、掠奪による利益も得られると、一見いいことずくめのようですが、傭兵と同じく統率が取れないという面もあります。
 実在の海賊として有名なキャプテン・キッドがまさにこれですね。元々はイギリスの私掠船だったものが、儲からないために手当たり次第に船を襲い始め、遂には本当の海賊になってしまったという困った人です(笑)
 作中では「私掠船から海賊への転身」を当初から意図しているため、グライムズはキャプテン・キッドのことをかなり意識しています。キャプテン・キッドの経歴をあらかじめ知っておくと、お話がより楽しめるかもしれません。

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