創世伝説

[題名]:創世伝説
[作者]:ドナルド・モフィット


 この作品は、遥か未来における遠くの銀河を舞台とした、人間と異星人との関わりを描いたSF小説です。
 場所はM51銀河、地球から三千七百万光年離れた場所にある渦状銀河です。時代もまた、光がM51に到達する時間と同じ三千七百万年後となります。作中世界での人間は、なんと自分自身の遺伝情報を電波に載せ、宇宙へ向けて送信したのです。
 今から三千七百万年も後の未来、M51で文明を築いていた十肢生物ナーは銀河系からの電波を受け取り、その情報を元に人間を創造します。そしてナーと人間達は共に暮らし始めるのですが、そこには二種族の本質的な違いという問題が隠されていたのでした。

 自らの生まれた惑星を離れ宇宙時代を迎えていた、ナーと呼ばれる十肢生物は、電波望遠鏡を使って異星人が存在する証拠を探していました(我々がSETI計画で行っているように)。その彼等はある日、遥か遠くの銀河から知的生命の存在を示す電波が放射されていることを知ります。それこそは、人間が三千七百万光年の彼方から宇宙にいる誰かに向けて発信したメッセージだったのです。
 その膨大な量のメッセージは人類の科学、文化、そして人間自身の遺伝子配列を含んでいました。それらの知識によりナーの文明は大きな恩恵を受け、急速に発展します。そしてその情報に対する感謝の意として、ナー達は人間を再構成することに決めたのでした。
 それから数百年後――ブラムはナー世界に庇護された人間の一人として生を受けます。彼は幼い頃、遠くの銀河にあるという人間の故郷に魅了され、そこに行ってみたいと願いますが、叶わぬ夢だと諭されてそれを胸の奥底に封印します。
 そしてブラムは青年へと成長し、有能なバイオエンジニアとしてナーからも評価を受けるまでになりました。
 しかしながら、千年もの寿命を持つナーに対して人間は百五十年程しか生きられず、高度なコミュニケーション手段である大言語も使えないため、ナー社会における人間は庇護すべき子供のような扱いを受けていました。一部の人間は、そうした扱いに不満を募らせていきます。
 ブラムは恋人のカーシンに連れられ、反ナーの政治集会に参加します。が、彼はナーという種族に対して愛情を抱いており、それら過激な人々に対して反発を覚えるのでした。
 ところが、ブラムは自分の職務を処理する過程で、ある重大な秘密を知ってしまいます。それは〈原人間〉が送信したメッセージの中にありながら、ナーが公表しようとしなかった、人間という存在の在り方に関わる情報だったのです。

 本書の注目ガジェットは、十肢生物ナーです。
 ナーの姿は、ヒトデが上下にくっついたような形と言えば良いでしょうか。下側の肢は歩行用でがっしりしており、上側の肢はしなやかに動かすことができます。上下それぞれ五つの肢をすぼめた格好が基本形のようです。
 肢の内側には繊毛が生えており、これを互いに接触させて図るコミュニケーションを大言語と呼んでいます。音声のみで会話することは小言語と呼ばれますが、こちらは簡易的な情報伝達手段と見なされています。
 ナーは雌雄同体で、老齢にさしかかると女性へ変化します。彼等にとって、卵を産むという行為は人生最後の一大イベントのようです。
 なお、ナー文明の在処と設定されたM51銀河は、伴銀河を近くに伴っていることから「子持ち銀河」とも呼ばれる美しい渦状銀河です。この辺りをM51の内側から見た描写が作中にあるのも嬉しいですね。

 宇宙のどこかにいるであろう誰かに向けてメッセージを送信する――ロマンチックなこの試みは、現実にも幾度か行われています。
 本書の内容にもっとも近いのは、一九七四年にアレシボ天文台から球状星団M13へ向けて送信されたアレシボ・メッセージでしょう。わずか1679ビットのデータですから内容もごく限られたものですが、数十万個の恒星からなるこの球状星団へおよそ二万二千年後に届くはずです。果たして、そこにいる誰かにこのメッセージを読んでもらえるでしょうか。
 また、宇宙探査機パイオニア10号・11号に搭載された金属板、ボイジャー1号・2号に搭載されたレコードにも人間から異星人に向けてのメッセージが刻まれています。こちらは光速度よりも遥かに遅く、メッセージを読んでもらえる可能性もずっと低そうではありますが。
 『創世伝説』においては、〈原人間〉は五十年周期でメッセージを幾度も送信したとされています。膨大なデータ量ではありますが、それでも人間の文化全てを伝達するには到底足りないために、ナーの元で暮らす人々は〈原人間〉文化に関して誤解をしている部分が多々あります。この辺りの勘違いも本書の面白さの一因と言えるでしょう。

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