遙かなる旅人

[題名]:遙かなる旅人
[作者]:A・バートラム・チャンドラー


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈銀河辺境シリーズ〉第八巻です。
 前巻『傷ついた栄光』にて、ついに幸運に見放されてしまったグライムズ君は、古巣としてきた監察宇宙軍を辞める羽目になってしまいました。物語はそのすぐ後、惑星ボタニー・ベイの上から始まります。

 調査艦〈ディスカバリー〉乗組員の叛乱事件をどうにか生き延びた艦長ジョン・グライムズ。しかし、リンディスファーン基地に戻れば軍法会議を免れ得ず、もはや昇進の望みを絶たれてしまった彼は、監察宇宙軍へ辞表を提出することを決意します。そしてグライムズは、銀河との交流が復活したばかりの惑星ボタニー・ベイで、宇宙港(とは名ばかりのクリケット競技場(笑))の港長代理を勤めることになりました。
 けれども、叛乱鎮圧のいきさつで市民達の地球に対する感情は悪化していました。しかも、宇宙艦〈ヴェガ〉艦長にしてグライムズのライバルであるデラメア中佐は、鎮圧作戦の過程で〈ヴェガ〉が横倒しにさせられてしまったことに怒り心頭で、グライムズは両者の板挟みになってしまいます。
 そうした中、ボタニー・ベイへ新たな宇宙船が到来します。それは大富豪の惑星エル・ドラド(『エル・ドラドの生贄』参照)のエスタン男爵家令嬢が乗る黄金の高性能宇宙船〈ファー・トラベラー〉でした。男爵家令嬢は〈失われた植民地〉の文化を研究しており、金に飽かせて建造した〈ファー・トラベラー〉で宇宙を旅していました。
 ボタニー・ベイへの滞在中、〈ファー・トラベラー〉は宇宙港上に横倒しになった宇宙艦〈ヴェガ〉の引き起こしを請け負うことになりました。ところが、このとき起きた死亡事故のせいで住民感情は更に悪化し、グライムズは身の危険にさらされます。その上に、〈ヴェガ〉が飛行可能となった途端にデラメアはグライムズを違法に拉致し、彼を基地へと強制連行しようとしたのです。
 そのとき、〈ファー・トラベラー〉所属の黄金製ロボット・スチュワデス達が〈ヴェガ〉のドアをぶち破って闖入し、グライムズを救出しました。もはやボタニー・ベイにいられず、監察宇宙軍へ戻ることもできないグライムズは、そのまま〈ファー・トラベラー〉船長として男爵家令嬢の旅に同行することになります。
 第二の人生を歩み始めた彼の行く手に待つものは……。

 本書の注目ガジェットは、宇宙船〈ファー・トラベラー〉です。題名の『遙かなる旅人』(原題:"The Far Traveller")は、この船のことですね。
 〈ファー・トラベラー〉は船体が変成された黄金製という、非常に悪趣味な金ぴか宇宙船です(^^;) 通常、金は柔らかくて船殻には向きそうにありませんが、分子もしくは原子の組み合わせを変えたことで理想的な構造材へ変化させたとされています。(別の巻では金の同位体という説明もあり)
 この船には、超高性能コンピュータである〈ビッグ・シスター〉(ジョージ・オーウェル氏のディストピア小説『一九八四年』の〈ビッグ・ブラザー〉とかけている模様)が搭載されており、船の操縦から食事の用意まで、船内のあらゆることを実行する能力を持っています。つまり、本来ならば船主である男爵家令嬢以外の人間は不要なのですけど、人間の船長がいないと保険がかけられないために、人間を雇わざるを得ません。このため、〈ファー・トラベラー〉の船長はただのお飾り的立場です。
 船の乗員はグライムズと男爵家令嬢の二人だけですが、それに加えて黄金製のロボット・スチュワデス及びロボット家令が数体乗っており、いずれも〈ビッグ・シスター〉がその行動を制御しています。ロボット・スチュワデスは肌が黄金色である他は人間そっくりの美しい姿ですけれども、さしものグライムズ君も食指は動かなかったようです(^^;)

 本巻の物語は第二巻『連絡宇宙艦発進せよ!』に近い、五つのミニエピソードから構成されるお話です。内訳は、あらすじにある惑星ボタニー・ベイでの出来事、〈失われた植民地〉惑星ファーハーヴェンの話、遭難船〈ロード・レンジャー〉にまつわる話、惑星モルロウビア(第六巻『奴隷狩りの惑星』の舞台)を再び訪れる話、そして異星宇宙船〈ブラルドウル〉との接触エピソードです。
 〈ファー・トラベラー〉は非常に高性能で快適な船であり、美人のご令嬢と宇宙の二人旅という美味しいシチュエーションなのですが、搭乗当初は男爵家令嬢と〈ビッグ・シスター〉に侮蔑され、グライムズはかなり不愉快な思いをすることになります。酷い扱いを受けながらも爆発したりしないグライムズ君は立派です。:-)
 しかし、ある出来事をきっかけに、〈ビッグ・シスター〉はグライムズに対する態度を軟化させ、彼の意見を重んずるようになります。もっとも、このせいで逆に男爵家令嬢を怒らせることにもなってしまいますので、待遇が改善されたとは言い難いようですが(笑)

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