惑星スパルタの反乱

[題名]:惑星スパルタの反乱
[作者]:A・バートラム・チャンドラー


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈銀河辺境シリーズ〉第五巻です。
 当シリーズ本編は、同一舞台を背景としたチャンドラー氏の作品群の中でも、ジョン・グライムズを主人公に据えた〈グライムズ・サガ〉と言うべきサブ・シリーズですが、本巻はグライムズ君の登場はやや少なめです。番外編的な巻と言えるでしょうか。
 代わりに主人公格となるのは、惑星スパルタの警官ブラシダスです。ブラシダスがスパルタ上で謎の陰謀を嗅ぎつけた頃、宇宙のかなたから飛来したのは――銀河随一のトラブル男グライムズ(^^;)

 惑星スパルタは、生体技術の応用により全ての人間が生殖装置(バース・マシン)から生まれるようになった星です。スパルタ土着の動物は出芽による無性生殖で誕生する仕組みであり、スパルタ人もかつてはそうだったのが、科学の進歩により誕生を機械に委ねるに至った――と一般には信じられていました。
 スパルタ上には飛行船があるものの、現在は宇宙船を有していません。唯一、惑星外の交易相手であるラッテルハーベンは、遥か昔にスパルタ人が築いた植民地であるとされています。そして、宇宙の他の場所には人間は存在しないと言われていました。
 そんな惑星スパルタの市内で巡査部長を勤めるブラシダスは、子供の誕生を司る哺育所の中で、何やら犯罪の臭いを嗅ぎ付けます。哺育員の友人アクロンの下を訪れていたところ、医神官ヘラクリオンが彼の存在に嫌悪感を示したのです。しかし、まだ何も直接的な証拠はなく、ブラシダスは密かに調査を進めるつもりでした。
 そうした最中、スパルタの宇宙港を驚くべき珍客が訪れます。それは惑星ラッテルハーベンからではない別の星からやってきたという、監察宇宙軍の宇宙艦〈シーカーIII〉でした。
 〈シーカー〉から降り立った二人のうち、ジョングライムズなる男は、服装こそ風変わりなもののごく普通の人間でした。ところが、もう一人の《男》マーガレットラゼンビーは、胸が膨らみ華奢な体付きの、どこか気を惹かれる奇妙な姿をしていました。
 ブラシダスはまだ知りません――マーガレット・ラゼンビーは男性ではなく、スパルタ市民の中には一人もいない人間のもう一つの性別、女性であることを。そしてそれが、ヘラクリオンの秘密とも繋がっていることを。

 本書の注目ガジェットは、惑星スパルタです。
 〈銀河辺境シリーズ〉におけるの地球の宇宙進出史には主に三つの段階があり、それぞれ第一伸張期、第二伸張期、第三伸張期と呼ばれています。このうち、第一及び第二伸張期では、植民船の遭難がしばしば起きていたようです。
 惑星スパルタは、第一伸張期の遭難植民船が居住可能惑星に不時着して作り上げた〈失われた植民地(ロスト・コロニー)〉の一つです。第一伸張期はFTL("Faster Than Light":超光速)駆動システムが発明される前の時代で、植民船の乗客は冷凍睡眠で運ばれます。船が光より速く飛べない上、通信手段もない(精神波通信やカロッティ通信の利用は後の時代)ため、事故があると地球との交流はたちまち失われてしまいます。
 〈失われた植民地〉は銀河社会と隔絶されたことで、独自の文化や風習を発達させていることが多いようです。スパルタにおける一番の特徴は、その市民が全員男性だというところですね。また、惑星名にあるように、その風習は古代ギリシアの都市スパルタを模して作り上げられています。
 スパルタに女性がいない理由は、植民船に起きた事故に加え、船長が女嫌いだったからだと説明されています(笑) スパルタの歴史書は改竄されており、人間は土着の生物から進化したものと説明し、女性の存在は記録から完全に抹消されています。(子供は人工的に作り出されるので、生身の女性がいなくても社会が成り立つ)
 さて、女性を見たことがないどころか、その存在すら知らないスパルタ人男性達ですが、そんな彼らが初めて遭遇した女性に対して魅力を感じるものでしょうか。本能に根ざしたものとは言え、むしろ嫌悪感が先立つような気もします(^^;)

 本巻はブラシダスの視点で物語が進行し、グライムズは脇役です(マーガレット・ラゼンビー博士の方が登場場面は多い)。ブラシダスの目に映ったグライムズ君は、やや気取った感はあるものの誠実かつ頼りがいのある男性のようです。ただ、(本人も気付いていますが)その大きな耳が感情の昂りにより赤くなるため、ポーカーフェイスは無理そうですね(^^;)
 また、惑星スパルタが女性の存在を知らないという設定が、カルチャーギャップの面白さにも繋がっています。ラゼンビー博士がブラシダスとしばし行動を共にするのですが、両者の話の噛み合わなさがユーモラスで楽しいアクセントになっています。

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