連絡宇宙艦発進せよ!

[題名]:連絡宇宙艦発進せよ!
[作者]:A・バートラム・チャンドラー


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈銀河辺境シリーズ〉第三巻です。
 本巻は一つの長編ではなく、七つのミニエピソードを纏めた連作短編の形態を取っています。各話はほぼ連続した時間となっているものの、内容はかなりバリエーションに富んだお話になっています。
 小さいながらも連絡用宇宙艦の艦長となったジョン・グライムズ。要人移送から異星人との対面まで、グライムズ君のトラブル体質は留まるところを知りません(笑)

◎グライムズの実験

 グライムズ大尉は探査巡航宇宙艦〈パスファインダー〉に着任し、辛辣な艦長トリバー大佐の下で小言を浴びつつも軌道算出任務をこなしていました。
 そんなおり、艦隊司令部から〈パスファインダー〉に新たな命令が下されます。六分儀座デルタ星系の惑星デルタIVを調査せよ、と。
 六人の科学者と共にデルタIVへと降りたグライムズですが、彼の仕事内容は要するに「おさんどん」でした(^^;) 調査を続ける科学者からは召使い程度にしか認識されず、さりとてデルタIVには知性段階の低い人間型生物(ヒューマノイド)ぐらいしかいないため、憂さ晴らしをすることもできません。
 すっかり飽き飽きしてしまったグライムズは、ちょっとした実験を試みることにします。それはヒューマノイドの一体、彼が〈クンクン〉と名付けた弱い個体を餌付けし、訓練してやろうというものでしたが……。

◎V・I・Pは名コック

 デルタIVの一件で高い評価を受けたグライムズは、その優れた指揮の才能を活かさせるために、〈蛇級(サーペント)〉連絡宇宙艦〈アッダー〉の艦長に任命されることになりました。〈アッダー〉は艦橋勤務士官が二名、通信士二名、機関士一名の小さな宇宙艦で、グライムズは様々な目的にこき使われることになります(笑)
 その最初の任務は、謎の要人アルベルト氏をドンカスター星まで送り届けることでした。アルベルト氏は料理に堪能で、行きの道中は彼が食事の用意を自発的に引き受けてくれたおかげで乗員達は大いに舌鼓を打つことになったのですが……。

◎ブリキの神様

 〈アッダー〉の次の任務、それも前回同様乗客をデラクロン星系へ移送することでした。ところが、今回の乗客は人間ではなくロボットだったのです。
 ミスター・アダムは銀河連邦全土を合わせても珍しい新型ロボットであり、人間と遜色ない知能と個性を持つ存在でした。しかし、礼儀正しい客であるはずのミスター・アダムに対し、グライムズはそこはかとなく不安を覚えるのです。

◎眠れる美女の眼がさめて……

 今回の任務もまた、ある意味要人移送と言える内容です。けれども、運ぶのは蜂型異星人シャアラ人、それもさなぎの状態でした。
 シャアラ人の植民惑星ブルウウムは、疫病の流行で女王蜂が死亡してしまいました。しかし、政治的な理由により成虫となった君主を送り込むことができません。そこで、羽化する前の〈王室さなぎ〉をブルウウムへ送ることになり、その配達人としてグライムズの〈アッダー〉が選ばれたのです。
 任務は特に困難もなく終わるかに見えましたが、不運が重なり〈アッダー〉は事故で停止せざるを得なくなってしまいます。そして、更に間の悪いことにより、冷凍システムが停止したせいで〈王室さなぎ〉が羽化を始めてしまいます。
 目覚めたシャアラの王女――彼女は恐るべき能力を秘めていたのです。

◎頓馬な浮標(ブイ)

 さして重要でもない郵便袋の配達任務中、〈アッダー〉は恒星間空間の只中で未確認の物体を発見します。
 監察宇宙軍では、遺棄船舶からの貨物の回収は発見者のボーナスとなるため、グライムズとその部下達はその調査に乗り気でした。彼らは任務を一時中断し、近接質量検知装置の示した漂流物体へと〈アッダー〉を接近させます。
 ところが、そこにあった謎の球体は遺棄船舶などではなく、それどころか人類の作り出したものですらありませんでした。

◎目をさました宇宙船

 惑星オルガナの基地司令官へ文書を届けた後、次の任務まで暇になった〈アッダー〉一行。そこでグライムズは、精神波通信士のディーン大尉と共にオルガナ観光へ出かけることにします。
 オルガナの南大陸には原住民が生息していました。本来ならば原住知的生命のいる惑星には植民できないのですが、かつて地球からの移民宇宙船が遭難しかかったときに発見されたという経緯からお目こぼしされていたのです。
 他の観光客と一緒にバスに乗った二人ですが、そこでテレパシー能力を持つディーンは、何か良くないことを感じ取ります。それは、その後起きる異常事態の先触れでした。

◎ロボットの仕返しは

 〈アッダー〉の今回の任務は、婦人行政官ダルウッド夫人をダータナ星系へ連れて行くことでした。
 そのダルウッド夫人はかなりの年配で、非常に辛辣な女性でした。彼女は小間使いの娘と二体のロボットを連れて乗船し、〈アッダー〉のあれやこれやについて文句を付けまくります。
 特に食事制限に関して、若く健康なグライムズはダルウッド夫人のおせっかいに不満を募らせていき、同じ欲求不満を共有する小間使いのロザリーンと共に深夜こっそり盗み食いを働こうとします(笑) ところが、ダルウッド夫人の召使いロボットの一人がテレパシー能力を持っており、二人の秘密のお茶会はあっさりばれてしまいました。
 揉め事に発展しようとしたそのとき、〈アッダー〉に異常事態が発生します。

 本書の注目ガジェットは、精神波通信士("Psionic Radio Officer")です。
 〈銀河辺境シリーズ〉の世界には、光の速度を超えて無線通信を行うカロッティ通信システムが登場します。しかし、本書の時点ではまだ実用化されたばかり(第一巻『銀河辺境への道』に、カロッティ氏が開発中という記述あり)で、〈アッダー〉のような小型宇宙艦には積載されていません。
 カロッティ通信以前の通信手段として、宇宙船や惑星上の基地にはテレパシー能力を持つ人員が配備されています。これが精神波通信士と呼ばれる人々で、彼らが互いにテレパシーで会話することにより恒星間の通信が行われる訳です。(作中設定では、精神波は空間を超えて即座に伝達される模様)
 精神波通信士はそのテレパシー能力で他人の心を覗き見ることができるため、他者から敬遠されることが多いようです。一応、職業倫理規定でのようなもので一般人の心を読むことは禁じられているのですが、あまり厳密には守られておらず、グライムズはしばしば部下の精神波通信士に酒を奢って乗客の心を読ませています(^^;)
 なお、精神波通信士のテレパシーは恒星間通信を行うほど強力ではないことから、〈アッダー〉にはその信号を増幅するための生物体増幅器、俗称〈スープ浸けの犬の脳味噌〉が装備されています。文字通り、生きたままの犬の思考器官を容器に収めた装置で、精神波通信士とは飼い犬と主のように親密ですが、他の宇宙船乗りからは忌み嫌われているようです。

 本書はややコメディ色の強い巻です。『目をさました宇宙船』では、惑星オルガナがチャンドラー氏の地元であるオーストラリアそのまま(ネタも「もし○○○が×××だったら……」という無茶っぷり(笑))だったりと、かなり茶目っ気たっぷりですね。グライムズ君の四苦八苦する様子がどこかユーモラスなエピソード群です。

この記事へのコメント

  • X^2

    しばらく前の新聞に「超常現象を科学にした男―J.B.ラインの挑戦」の新刊広告を見つけて、〈銀河辺境シリーズ〉のこの設定を思い出しました。確か精神波通信士の育成機関?として、「リーン大学」というのが出てきますよね。昔このシリーズを読んだときは、実在の大学なのかと思ったのですが、テレパシーの存在が認められているこの世界では、J.B.ラインの名前を付けた大学が存在する、という事だったのでしょうね。
    2011年07月24日 23:23
  • Manuke

    そのようですねー。
    個人的にはライン氏の業績については少々懐疑的なのですけど(^^;)、謎を解明しようとした姿勢そのものは評価に値するのかもしれません。
    超能力の実在が証明された世界では、ライン氏がその研究の開祖として敬意を払われるというのは確かにありそうな話です。
    2011年07月26日 00:41
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