天空の遺産

[題名]:天空の遺産
[作者]:ロイス・マクマスター・ビジョルド


 〈ヴォルコシガン・サガ〉に属するお話で、主人公マイルズが二十二歳の頃に当たります。『ヴォル・ゲーム』でのゴタゴタが終わった後で、番外編『遺伝子の使命』と同時期になるようです。
 本書で取り上げられるのは、惑星バラヤーの宿敵とも言える巨大軍事国家セタガンダです。これまでのエピソードでは、かなり好戦的な国家であること、身体に遺伝子改造を施したゲム貴族という恐るべき戦士が存在すること程度しか明かされてきませんでしたが、本書においてその設定が大きく肉付けされたようです。
 皇太后の葬儀に招かれて参じたバラヤーの若き貴族マイルズ・ヴォルコシガンとイワン・ヴォルパトリルは、エータ・セタへの到着早々厄介ごとに巻き込まれてしまいます――逆にマイルズの方こそが巻き込むべきでない厄介な人物であることを、策謀を巡らした者が知る由もなく(笑)

 惑星バラヤーと軍事的衝突・小競り合いを繰り返してきた、複数の惑星からなる強大な軍事国家セタガンダ。その皇太后ホート・リスベット・デグティアが逝去したことで、壮大な葬儀が行われることになりました。バラヤーからは、マイルズ・ヴォルコシガンとその従兄弟イワン・ヴォルパトリルが使節団として送られます。
 マイルズとイワン、そしてパイロットの乗る宇宙船が、セタガンダの母惑星エータ・セタの乗換ステーションにドッキングしたとき、そこへ息を乱した老人が乗り込んできました。無毛の奇妙な老人は武器を取り出す素振りを見せ、イワンと取っ組み合いになった後、神経破壊銃と用途不明な筒状のものを残して逃走します。
 一連の事件をパイロットが上司へ報告しようとしたとき、マイルズの悪い癖が出ました。直接尋ねられるまでは報告を行わず、何も起きなかったかのようにすっとぼけようと言うのです(^^;)
 何が起きているかについて、自分が蚊帳の外に置かれないようとの思惑でしたが、マイルズの予想に反してセタガンダ側からは何も要請がありません。そのうち、マイルズは幾度か命の危険にさらされるなど、周囲の状況がキナ臭くなっていきます。
 その裏には、亡くなった皇太后の進めていた秘密の計画と、それに乗じて自らの力を拡大しようと目論む者の陰謀が渦巻いていたのです。敵国バラヤーの使節団だったマイルズはカモとして危うくその罠にはまるところでしたが、彼の規格外の行動が偶然良い方向に作用し、難を逃れていました。
 そしてマイルズは、知り合いになった故皇太后の侍女ホート・ライアン・デグティアに一目ぼれしてしまいました。自らの保身と、ライアン達の保護、加えて少しばかりの下心(笑)のために、マイルズは事態収拾の方法と敵の正体解明を追い続けるのですが……。

 本書の注目ガジェットは、セタガンダです。
 セタガンダは八つの領土惑星と、同数の同盟傀儡保護領を持つ巨大な星間国家です。同じ軍事国家でありながらも、銀河ではまだ新参者の惑星バラヤーより遥かに大きな勢力ですね。
 中心となる八惑星は、母惑星エータ・セタのように「(ギリシア文字)・セタ」の形で命名されているようです。作中に登場するのはエータ・セタ/ミュー・セタ/グザイ・セタ/ロー・セタ/シグマ・セタ("Eta Ceta / Mu Ceta / Xi Ceta / Rho Ceta / Sigma Ceta")の五つで、残りの三惑星の名前や、ギリシア文字の選択基準は不明です。
 セタガンダの社会は、一般大衆の上に二つの貴族階級、ゲム貴族とホート貴族が存在します。顔に隈取りを施したゲム貴族は戦士階級ですが、実権を握っているのは洗練されたホート貴族です。
 面白い設定として、両貴族の子供は全て遺伝子操作により生まれてくるとされている点が挙げられます。遺伝子の変化が偶然ではなく人為的な措置により行われているため、特にホート貴族は人間ではなくなりつつあるのではないかとマイルズは考えています。
 なお、原作者ビジョルド氏と親しい翻訳者の小木曽絢子氏によると、ホート貴族の設定は日本の平安時代貴族を下敷きにしているとのことです。あくまで設定のベースとなっただけで、ダイレクトに日本的な部分はあまり登場しないのですけど、作中で繰り広げられる出来事をイメージ化するときに平安調なものを思い浮かべてみるのも面白いですね。

 本書にも登場のイワン・ヴォルパトリルは、シリーズの主人公であるマイルズ・ヴォルコシガンを語る上で欠かせないキャラクタです。
 イワンはマイルズ同い年の従兄弟(正確には、またいとこ)で、『バラヤー内乱』でその誕生の経緯が描かれています。長身でハンサム、身体的にも優れているようですが、頭の中に詰まっているのは女の子のことばかりという有様です(笑) 記憶力はマイルズに引けを取らないほどであるにも拘らず、深く考えない性格のせいでマイルズからは「イワンのばか("idiot Ivan")」と評されています。酷いですね(^^;)
(とは言うものの、有名なトルストイ氏の作品『イワンのばか』では愚直ながら真っ正直に働くイワンこそが幸福を手にします。マイルズはさしずめ権力に取り憑かれたシモンなのかも)
 イワンとマイルズの関係は気の置けない友人といった感じで、お互いに少々辛辣な言葉を交わしたりはするものの、心の底では固い友情で結ばれています。双方が相手の性格を知り尽くしていて、どちらかが危機に陥ったときでも決して見捨てないなど、ある意味マイルズに最も近しい人物と言えるのかもしれません。
 もっとも、小さいときからマイルズの大胆な行動に振り回されてきた最大の被害者でもあり、マイルズの目が爛々と輝き始めることには辟易している模様です(^^;) 逆に、マイルズにとっても自分のハッタリが通用しない、少々やりにくい相手でもあります。
 イワンの頭の軽さについてマイルズの母コーデリアは、トラブルを避けるために自らを愚かに見せかけているのではないかと推測しています。しかしながら、鋭く辛辣な分析が売りのコーデリアも、「イワンのばか」に関してはそれほど確信があるわけではないようです。果たしてイワンは爪を隠す鷹なのでしょうか、それとも見かけ通りの人物なのでしょうか。:-)

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