ヴォル・ゲーム

[題名]:ヴォル・ゲーム
[作者]:ロイス・マクマスター・ビジョルド


 〈ヴォルコシガン・サガ〉の一エピソードです。
 作中の時期はマイルズ君が二十歳の頃で、『戦士志願』の三年後です(『無限の境界』収録の中編『喪の山』の直後)。士官学校を卒業し、いよいよバラヤー帝国軍将校としての経歴が始まろうとする場面ですね。
 ところが、配属早々またもマイルズ君は騒動を引き起こしてしまいます。天性のトラブルメーカー、マイルズ・ヴォルコシガンの明日はどっちにあるのでしょう?(笑)

 デンダリィ傭兵隊にまつわる出来事(『戦士志願』参照)の後、マイルズ・ヴォルコシガンは帝国軍士官学校への入学を果たし、無事に卒業することができました。
 かつて一度は閉ざされ、再び開かれた軍人としての未来に胸を膨らませたマイルズに下された辞命は――北極圏の永久凍土に閉ざされた極寒の孤島・キリル島にあるラズコフスキー基地で、気象観測士官を務めるというものでした。宇宙艦隊を希望していた彼は、その通知に落胆します(^^;)
 配属先は技術学校の卒業生で十分であり、幹部候補生向きではないと抗議するマイルズに、決断を下したセシル少佐は含み聞かせました。マイルズはその家柄・身体的障碍・秀でた才能という特殊性に加え、上官への不服従が問題なのだと。普通の人間と混ざってやっていく順応性が彼には必要であり、この試練をクリアしたなら艦隊勤務への転属を支持してやると言ってマイルズをその気にさせます。:-)
 やる気を出してラズコフスキー基地へ赴いたマイルズですが、そこは彼のこと、早速多数のトラブルを引き起こしてしまいます。基地司令官スタニス・メッツォフ将軍と初対面時に気まずい出会いをしたり、外見からマイルズを侮る下士官に仕掛けられたいたずらで死にかけたり、懲罰の排水路清掃時に死体を発見したり……。
 そうしたいざこざの後、毒物貯蔵壕で起きた事故を巡り、メッツォフ将軍と兵士達の間で諍いが起きました。兵士達の側に立ちながらも、頑迷で冷酷なメッツォフを何とか宥めて事を収めたマイルズは、しかしそのせいで反逆罪に問われてしまいます。
 首都ヴォルバール・サルターナ市へ連れ戻されたマイルズを出迎えたのは、彼の父アラール・ヴォルコシガンと、機密保安庁長官シモン・イリヤンでした。幸いにもメッツォフ将軍の言動に問題があったためマイルズはお咎めなしとなったものの、アラールは事態の推移を可笑しがり、イリヤンは苦い顔です。ここでアラールが提案したのは、色々と手に負えないマイルズを、いっそ機密保安庁配属にしてしまおうというものでした。
 かくして新たな任務に就いた我らがマイルズ君。しかしながら、ここでもまた彼は大きな厄介事に巻き込まれる羽目になるのです。惑星バラヤーの一大事となるその出来事とは――バラヤー皇帝にしてマイルズの友人、グレゴール・ヴォルバーラに関わることでした。

 本書の注目ガジェットは、即効性ペンタ("fast-penta")です。
 即効性ペンタはシリーズ各所に登場する自白剤で、ハイポスプレー(圧力式注射器)を使って対象者の皮膚に吹きかけると、十秒ほどで効果が現れます。投薬された者は意志を喪失してニタニタ笑いを浮かべ、問われたことに何でも洗いざらい答えるようになってしまいます(しばしば敵対者を拘束する代わりにも利用)。ただ、薬が効いている間はお喋りが止まらずどんどん脱線していくので、質問を発する側にも技量が要求されます。
 基本的には即効性ペンタの薬効を逃れる術はないことから、敵の尋問や犯罪捜査といった場面で重宝されています。つまり、〈ヴォルコシガン・サガ〉の世界は秘密を守ることが非常に困難のようです。但し、人為的にアレルギーを作り出すことは可能で、この措置が行われた者が即効性ペンタを打たれた場合、死と引き替えに情報を秘匿することができます。また、特異体質のせいかマイルズのみは薬効が普通ではない形で現れます。(主人公補正?(笑))

 総合的には誠実で思いやりのある主人公マイルズ君ですけれども、少々我が強いという欠点を持っています。
 名門ヴォルコシガン家の長男でありながら、障碍を持つ故に人並み以上の結果を求められるという経緯がある以上、自らが成果を出すことに拘る彼の言動は理解できるところです。一般的な意味での自己顕示欲や名声欲とは異なり、あくまで自分に期待をかけてくれる人々に応えたいというものらしく、傭兵艦隊提督のように大っぴらにできない成果でも満足しているようです。
 ただ、この上昇志向が敵を生むこともままあり、身近な人間(特に従兄弟のイワン・ヴォルパトリル)が迷惑を蒙ることもしばしばです(笑)
 この性格はマイルズの成し遂げる多数の業績の原動力でもあるわけですが、彼の独断専行気質と合わさったとき、後のエピソードで彼をのっぴきならない窮地に追い込むことになります。

この記事へのコメント

  • nyam

     この作品がシリーズで一番好きです。主人公が適度にカッコよく、適度に根性なしですよね。マイルズおっかさんの話はまた別ですが・・・。
     続きの翻訳を待ってるんですが、どうなることやら。
    2011年04月16日 10:15
  • Manuke

    まだこの時期は初々しさがありますね。
    あと、グレゴールが個人的にお気に入りです。コーデリアをやり込められる貴重な人材ですし(^^;)
    2011年04月17日 00:50

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