遺伝子の使命

[題名]:遺伝子の使命
[作者]:ロイス・マクマスター・ビジョルド


 本書はビジョルド氏の代表作、〈ヴォルコシガン・サガ〉に属する物語です。シリーズの中核となるマイルズ・ヴォルコシガンの最初のエピソード『戦士志願』、その前日談となる母コーデリアのエピソード『名誉のかけら』とほぼ同時期に書かれた作品のようですが、内容としては番外編という位置付けになるでしょうか。
 『戦士志願』から五年後、マイルズが二十二歳の時期に相当します。しかしながら、マイルズ本人は作中に登場せず、あくまで登場人物の会話で少し触れられるのみです。本編のキャラクタでは、『戦士志願』にも登場しているデンダリィ傭兵隊のエリ・クイン中佐が副主人公に位置付けられています。
 一方、主役を務めるのは辺境惑星アトスの医師イーサン。少々(?)特殊な惑星から人々の行き来する大宇宙ステーションへやってきた純朴な青年イーサン君は、しかし大変な騒動に巻き込まれてしまうのです。

 ほとんど他の世界から省みられない辺境の惑星アトス。ここはその市民に男性しかいないという奇妙な星でした。アトスへの植民を行った人々は、女性を邪悪な存在だと考える宗教観の持ち主達で、この星で誕生する人間は全て女性ではなく人工子宮から生まれています。
 しかし、そのアトスには一つの危機が訪れていました。アトス植民時に持ち込まれた人工子宮の、培養卵巣が寿命を迎えつつあったのです。培養卵巣は人間の女性から提供されたものですが、建国以来ずっと使われ続けてきた結果、どの卵巣も疲弊し子供の出生率が低くなってきていました。
 女性が一人も存在せず、他星系からの移民も見込めないアトスは、このままでは緩やかに滅びを迎えることになります。そこで、生殖センターは大枚をはたいてジャクソン統一惑星から培養卵巣を輸入することになりました。
 ところが、実際に送られてきたのは死んだ卵巣ばかり、それどころか人間のものですらない卵巣までが混じった廃棄物でした。紛い物を掴まされたのか、はたまた積み荷がどこかで入れ違ったのか――いずれにせよ、再度確実に培養卵巣を入手するため、アトスの人間が実際に惑星外へ赴く必要が出てきました。
 けれどもアトスの外の世界では、人間の半数が邪悪な存在(とアトス人が信じる)、女性です。誰もが行きたがらない中、厄介ごとを押し付けられたのはセヴァリン生殖センターの青年医師イーサン・アークハートでした。イーサンももちろん断ろうとしますが、培養卵巣の危機を熟知していること、そして気弱な性格のために押し切られてしまいます(^^;)
 不安を抱えながらも、宇宙船で交易の要である巨大な宇宙ステーションへと向かったイーサン。クライン・ステーション到着後、地理に不案内な彼は、近くにいた美しい顔立ちの人物に尋ねようとして、相手が女性であることに気付きます。それはデンダリィ傭兵隊の中佐、休暇で帰郷していたエリ・クインだったのです。
 イーサンはまだ知りません。自分が軍事国家セタガンダやジャクソン統一惑星その他の勢力の、遺伝子を巡る諍いに巻き込まれてしまったことを。

 本書の注目ガジェットは、惑星アトスです。
 アトスでは女性が邪悪な存在であり、人類の堕落は女性によってもたらされたと信じられています。この教義により、アトス上には女性が一人も存在しません。外世界と行き来する少数を除き、アトス人のほとんどは一生涯女性と接することはないようです。
 男性しかいないことから、アトス人は全員人工子宮で誕生します。アトスでは社会貢献を行うことで親権専用のクレジットを獲得でき、それが一定数に達すると父親になる資格を得られます。父親は複数存在する人工子宮から任意のものを選び、自分の精子と培養卵巣の卵子を基にした子供を授かることになります。培養卵巣はCJBやJJYのように記号で呼ばれていて、生まれてくる子供の特性から人気に偏りが存在します。
 アトスは半ば修道院的な自給自足の惑星で、銀河世界とはあまり関わりを持っていません。女性からは病的な男尊女卑の星、男性からは「ホモの惑星」(笑)と見なされ、他の世界からの受けはかなり悪いようですね。

 主人公イーサンは実直ですが腕っ節の方はさっぱりな青年で、そんな彼がカルチャーギャップや陰謀に翻弄される様は気の毒ながらもユーモラスです。立場的にはヒーローと言うよりヒロインでしょうか(^^;) もっとも、意外と肝の据わったところがあり、その誠実さも併せて他者から一目置かれる存在です。
 一方、美貌の女性兵士エリ・クインはヒーロー的な立ち位置で、セタガンダその他の敵対勢力を相手に活躍してくれます。彼女は傭兵隊司令官のマイルズを崇拝しており、危機に陥ったとき「マイルズだったらどう行動するか」などと自問したりしています。(あまり参考にしない方が良い気もしますが(^^;))
 番外編とあってヴォルコシガン一族は登場しないのですが、シリーズの世界観を広げてくれるエピソードです。ただ、イーサン君があまり行動的でないせいか、宇宙SFにしては少々世界が狭いように感じてしまうのは難点かもしれません。:-)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/192509629

この記事へのトラックバック