戦士志願

[題名]:戦士志願
[作者]:ロイス・マクマスター・ビジョルド


 ビジョルド氏の代表作、〈ヴォルコシガン・サガ〉に属する物語です。
 このシリーズは今から千年後を舞台とした、とある軍事惑星国家バラヤーの貴族ヴォルコシガン家周辺を描く作品群です。その中でも中核となるマイルズ・ヴォルコシガン青年(本書ではまだ十七歳なので、少年?)が、いよいよ登場となります。
 〈ヴォルコシガン・サガ〉は軍事色が強いスペースオペラですが、マイルズ君の大ハッタリ、行き当たりばったりの迷走っぷりがなかなかにユーモラスで、肩肘張らずに読めるエンターテイメント性の高さが売りです(ややご都合主義傾向も(^^;))。過酷な宿命を背負わされ、幾度も苦境に陥りながらも、へこたれずに運命に抗い続ける姿が魅力的ですね。
 障碍を持って貴族の長男として生まれたマイルズ・ヴォルコシガン。彼の歩む先にあるものは――彼自身もまだ知りません。

 封建制度に支えられた軍事惑星国家バラヤー。その貴族の中でも名門のヴォルコシガン家跡継ぎとして生まれたマイルズ・ネイスミス・ヴォルコシガンは、しかし生まれながらに障碍を抱えていました。母コーデリアの胎内にいるときに浴びた毒ガスのせいで、彼の骨は極度に脆かったのです。頭でっかちで首は短く、背骨は曲がり、度重なる骨折のせいで身長は百四十センチメートル足らずでした。
 武人の家系に生まれた者として、十七歳になったマイルズは帝国軍士官学校の試験を受けます。学業は申し分なかったものの、体力試験中にまたも両足を骨折した彼は不合格になってしまいました。
 かつて将軍として侵略者セタガンダ人を撃退した祖父ピョートルはマイルズを責めはしなかったものの、意気消沈し、息を引き取ってしまいます。自分の不出来が祖父を死に追いやったのだと悔やむマイルズ。
 葬儀の後、護衛のコンスタンチン・ボサリ軍曹と、ボサリの娘で友人のエレーナを連れ、マイルズは気晴らしとちょっとした目的のために母方の祖母が住むベータ植民惑星を訪れることにしました。しかし、ベータに到着するや否やマイルズはゴタゴタに巻き込まれ、貨物船の操縦士アード・メイヒュー、そしてバラヤー脱走兵のバジル・ジェセックを臣下に召し抱えることになります。しかも、老朽貨物船を引き取った代金をなんとか稼ぎ出さねばならなくなったのです。
 マイルズはここで、手に入れた貨物船を輸送業に使うことにします。客に選んだのは、ベータ植民惑星の優れた武器を紛争地域タウ・ヴェルデ星系へ持ち込もうとしているカール・ダウム。自分達がデンダリィ傭兵隊なる百戦錬磨の猛者であると騙くらかし(笑)、法外な値段で依頼を受けることができました。
 ところが、タウ・ヴェルデへ赴いてみると、貨物船は敵方の傭兵部隊に捕まってしまいます。果たしてマイルズ達の運命やいかに。

 本書の注目ガジェットは、ワームホール・ネクサスです。
 本シリーズの銀河世界は、恒星間の超光速移動手段にワームホールを使用しています。ワームホールは恒星周囲の宇宙空間に存在し、ジャンプ船と呼ばれる宇宙船でこれを通過することにより瞬時に他星系へと移動することができます。
 ワームホールの数は星により異なり、複数のワームホールがあるためハブの機能を有する恒星系や、バラヤーのように一つしか存在せず行き止まりになっている恒星系など様々です。このため、惑星国家はワームホールで結合("nexus")された複雑な社会を形成しています。交通の要となるワームホールを有することは、それだけで大きな影響力を持つことに繋がるわけですね。
 ワームホールを抜けるジャンプ船は、それを操縦するため外科的にコンタクトと呼ばれる装置を頭に埋め込んだジャンプ・パイロットが必須です。ジャンプ・パイロットはワームホール航法の要ですが、ジャンプ船は時折技術革新が行われており、本書のアード・メイヒューのように旧型船のパイロットがお払い箱になるような悲劇もしばしば起きているようです。

 主人公マイルズ・ヴォルコシガンは非常に頭が切れカリスマ性の高い青年で、肉体的なハンデをものともせず臨機応変にピンチを切り抜けていきます。母譲りの度胸のせいか、かなり行き当たりばったりな感はありますが(笑)、最終的には見事に事態を収拾してみせてくれます。しかしながら、彼の赴く先ではことごとく騒動が発生し(多くはマイルズのせいではないのですけど)、上司から見ると頭の痛い存在のようです。
 個人的には、マイルズ君の魅力はやはり誠実なところですね。大ボラを吹いたりはするものの、根っこの部分では真っ正直な人間で、自分が不利益を蒙るようなときでも筋を通すことを優先する場合がよくあります。賢くも不器用な、好感の持てる主人公です。本シリーズが高い人気を誇るのも、マイルズのキャラクタによるところが大きいのではないでしょうか。

この記事へのコメント

  • ちゅう

    めずらしくワタシは、『戦士志願』から順序良く読み始めて、最初っからビジョルドにはまってしまいました。

    スパルタ式軍事国家に生まれた、ハンディ満載の少年・・・から心配される暗くてじめじめしたストーリーなぞ、薬にしたくても出てこない、マイルズの知恵と勇気とユーモアが大スキなシリーズです。

    もしワタシが女性なら、マイルズは、パートナーとしたい男性の一人ですw (あと二人いまして、そちらはSFジャンルから、それぞれ少しずつ離れます)

    この作品群を、ひそかに「マイルズ・シリーズ」と「マイルズのお母さんシリーズ」と呼んで楽しみにしていますが、小木曽さんが亡くなってから、新刊が出てこないので悲しいです。

    2011年12月17日 16:52
  • Manuke

    > スパルタ式軍事国家に生まれた、ハンディ満載の少年・・・から心配される暗くてじめじめしたストーリーなぞ、薬にしたくても出てこない、マイルズの知恵と勇気とユーモアが大スキなシリーズです。

    マイルズ君良いですよねー。
    たまに暴走するときもありますけど(^^;)、基本的には誠実なところが私も好きです。

    > この作品群を、ひそかに「マイルズ・シリーズ」と「マイルズのお母さんシリーズ」と呼んで楽しみにしていますが、小木曽さんが亡くなってから、新刊が出てこないので悲しいです。

    小木曽絢子氏、亡くなられていたんですか……。
    知りませんでした。残念ですね。
    あとがきを読むにビジョルド氏とも交流があったようなので、引き継ぎは大変そうですけど、ぜひ次巻以降の翻訳も続けて欲しいところです。
    2011年12月18日 00:56
  • ちゅう

    ちゅう
    2011年12月18日 08:27
  • ちゅう

    (書き込みを間違ってしまいました)

    どれかの巻末に、Manukeさんが「サガ」とおっしゃるのに値する、一大ヒストリーが載っていました。まだまだ未訳がたくさんありますね。

    こうなれば、原書を読むしかないかと思いますが、ワタシの場合、どんなにがんばっても、読む速度が1/100にはなってしまいますから悩ましいです。数年前に入手した"Blue Mars"がぜんぜん読めてなかったりします(^^;
    2011年12月18日 08:30
  • Manuke

    私も技術書ならなんとか(辞書の助けを借りて(^^;))読めないこともないのですが、小説は厳しいですね……。
    翻訳を期待して待つ方がいいのか、頑張って原書を読めるようになるべきなのか、悩みどころです。
    2011年12月18日 23:29
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