プロテウスの啓示

[題名]:プロテウスの啓示
[作者]:チャールズ・シェフィールド


 物理学者にしてSF作家チャールズ・シェフィールド氏の描く、人体の整形技術が極度に発達した未来を舞台とするサスペンスタッチSFです。
 作中では、「整態」と呼ばれる体の形態を変化させるための技術が普及し、医療のみならず美容整形にまで使われるようになっています。単に外見を変えるだけに留まらず、性別を変更したり、挙句の果てにはかなり人間の形態から外れたものにまで変化させる者もいるようです。
 しかしながら全くの野放しというわけでもなく、子供に対しての整態や、人間の形態に戻れなくなるほどの極端な変化などは法律で禁止されています。主人公ベイ・ウルフは、そうした違法整態を取り締まる形態管理局の人間です。
 事件をきっかけに、整態学の権威キャップマンの関与する不法行為を暴くことになった捜査官ウルフ。しかし、その真相はより根深い、人類全体に関わる問題と繋がっていたのです。

 ある夜、形態管理局に一つのタレコミがなされます。それは医学生ルイス・ラッド=カトーからのもので、臓器移植用の肝臓の染色体識別コードがデータベースに登録されていないというものでした。
 整態学が発達して、人が生まれつきの外見とは異なる形態を取れるようになったこの時代、ほとんどの人間の遺伝子はデータベースに登録されています。例外は、登録制度が始まる前の老人か、あるいは人間と認められる前の幼児のみでした。肝臓提供者は推定十二歳前後、どちらにも当てはまりません。
 キナ臭い匂いを嗅ぎ取った管理局捜査官ベアルーズ(ベイ)・ウルフと相棒のジョン・ラーセンは捜査を始めます。中央病院は当初、医学生がミスを犯しただけで遺伝子は登録されていると告げますが、ウルフが念入りに調査した結果、コンピュータが不正に書き換えられ、捏造が行われたことが判明します。そして、その犯人と目される人物は、中央病院の院長にして世界最高の整態学者ロバート・キャップマンその人でした。
 再び中央病院へ向かったウルフ達ですが、既にキャップマンは姿をくらましており、その研究室からは法の限度を超えた整態研究の証拠が見つかります。キャップマンは宇宙に適合する人類の形態を研究していたのです。
 キャップマンの足取りを追って、整態失敗者のたむろする危険な〈旧市街〉へ辿り着いた二人。発見したとき、キャップマンは負傷して身動きがとれず、怪物に食われようとしていました。キャップマンから逃げるように言われ、二人は命からがらそこを抜け出します。
 キャップマンの遺した研究は違法ながらも驚くべき内容であり、整態学の発展に寄与することになります。しかし、ウルフは疑念を感じ始めるのです――キャップマンの死は狂言ではなかったのか、と。
 ――四年後。グァム沖の海底で、異常なほど怪物的に形態変化した人間の死体が発見されるという事件が起きました。事態の奇妙さに困惑したウルフは、ここで大胆な手を打つことにします。キャップマンに助けを求めるメッセージを世界中に発信したのです。
 そして……。

 本書の注目ガジェットは、整態(フォーム・チェンジ:"form-change")です。
 整態とは、人間の外形をコントロールする技術のことを指します。開発目的は怪我や老衰により失われた組織を復元させるためのものでしたが、普及後は美容などの目的で単に外見を変化させることにも使われるようになっています。
 整態による形態変化は遺伝子を修正するようなものではなく、肉体に対する電気や薬物の刺激によるようです。細胞の配置を変えたり、あるいは分化を制御したりはするものの、遺伝子は元のままというわけですね。外見がいくらでも改変可能ということから、データベースに登録された染色体識別コードが唯一の信頼できる個人識別方法となります。
 詳細は不明なのですが、作中では整態には当人の意思が必要だとされています。自分が何になりたいのかを意識していないといけないようです(その割には、当人の意思を無視した整態措置も登場するのが謎(^^;))。そのことから、元に戻ることが不可能なほど極端な整態は違法です。また、この事実は逆に、「自らを意思で形態変化させることのできない者は人間とみなされない」という法律的な人間定義にも使われています。少々恐ろしげな感じがしますね。

 整態にまつわる犯罪と、その事件を追う捜査官がメインということもあり、本書はミステリー的な側面を持ちます。ただ、架空の部分が大きすぎて推理を楽しむのは困難かもしれません(^^;) とは言うものの、終盤で明かされる真実は納得のいく内容です。
 登場人物の中でも特に魅力的なのは、整態学者キャップマンです。主人公のウルフは管理局捜査官だけでなく研究者としても有能のようですが、その彼がまるで歯が立たない天才老科学者ですね。賢いのみならず徳の高い人物で、追う立場にも拘らずウルフは彼を師と仰ぐようになります(キャップマンは当初からウルフの才能を見抜いています)。その人となりと、子供を実験に使うという非道さの齟齬は、やはり終盤で明らかになります。
 ガジェット好きなシェフィールド氏らしく、ストーリーが進むにつれ新たな要素が加わっていき、非常に先の読めない展開です(あらすじにある「怪物」は、面白くはあるものの少々やりすぎではないかと思わないでもなく(笑))。要素が錯綜しすぎて後半の展開が速すぎることや、結末が今一つすっきりしないのもシェフィールド調といえるでしょうか(^^;) もっとも、全体としてはかなり面白い作品であることは間違いありません。

※本作(原題:"Sight of Proteus")には"Proteus Unbound"と"Proteus in the Underworld"という続編があるようです(現時点では未訳)。

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