エメラルドの象

[題名]:エメラルドの象
[作者]:ラリー・マドック


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈TERRAの工作員シリーズ〉の第三巻です。
 第一巻『空飛ぶ円盤』は現代のUFO騒ぎ、第二巻『黄金の女神』は一万年前のアトランティス文明でしたが、今回は(一応)史実上の都市が舞台となります。
 とは言うものの、フォーチュン&ウェブリーの赴く先は紀元前十五世紀のモヘンジョ・ダロ。実態がほとんど判明していない滅亡都市なので、自ずと架空の要素が強めになってしまう訳ですが……(^^;)
 滅びる定めのモヘンジョ・ダロから財宝をかすめ取ろうと目論むエンパイヤ。歴史に影響を及ぼさない犯罪行為に、敏腕工作員コンビはどう立ち向かうのでしょう。

 BC一四八一年。インダス川下流(現在のパキスタン)に栄えるモヘンジョ・ダロは程なく滅亡を迎えようとしていました。指導者ディヴォダサが率いるアーリア族軍勢の蹂躙により、その歴史に終止符が打たれようとしていたのです。
 ところが、その直前になってモヘンジョ・ダロ上空に奇妙な金属製の物体が現れます。不安げに見守る市民達の上から、その物体は威嚇的な声を発しました。自分は全能の神インドラであり、迫り来るディヴォダサに蹂躙されたくなければ貢ぎ物をよこせ、その報償として庇護を与える、と。
 その物体は神などではなく、エンパイヤのスキマー(空飛ぶ円盤)でした。そして無論、エンパイヤは約束を守るつもりなど端からありません。滅亡する都市から財宝を強奪することで、未来の歴史に影響を及ぼさず富を手に入れる、それは巧妙な完全犯罪でした。
 モヘンジョ・ダロ常駐工作員ルイーズ・リトルからスキマー出現の報告を受けたTERRA本部。歴史の趨勢に影響がないとは言え、犯罪を座視する訳にはいきません。事件の解決に、特別工作員ハンニバル・フォーチュンと共働者ウェブリーが向かうことになります。
 モヘンジョ・ダロの大僧正サンバラの協力を得て、毒ガスと盗聴器の仕掛けられた“トロイの象”を財宝の中に潜り込ませたフォーチュン達。作戦は図に当たるかに見えたのですが……。

 本書の注目ガジェットは、フォーチュンの相棒であるウェブリーの種族、不定形生命体トルグです。(種族名は第四巻が初出)
 トルグは七キログラム弱の原形質からなるアメーバ状生物で、体積を変えることはできないものの、どんな形状にも変化することができます(描写から考えると、色も変更可能?)。猫に化けたり、鳥の姿になって空を飛んだり、はたまたパートナーの体に張り付いて変装を手助けしたりと、変幻自在のようです。
 トルグはテレパシー能力を持っており、他の生物の思考を読み取ることが可能です。但し、基本的に思考の送信能力はないので(トルグ同士では不要でしょうから)、テレパシーによるパートナーとの会話は常に一方通行です。
 また、登場場面は少ないのですが、TERRAにはトルグが乗るためのアンドロイドが用意されており、中に入って操縦することで人間に化けることもできます。
 TERRAの地球向け工作員は全て、人間タイプの種族(工作員の過去改竄を予防するため、地球人はNG)とトルグがペアになっているようです(本巻ではルイーズの共働者としてローネルが登場)。主体的に動くのは人間型工作員の方で、トルグは偵察・読心・攪乱といった補佐的役割を担います。もっとも、フォーチュンがピンチに陥ったときにウェブリーが颯爽と現れて助け出すという場面も少なくないですが(^^;)
 興味深いのは、トルグ同士は深い接触を避けると設定されている点です。テレパシーを持ち、肉体の境目もない不定形生物であることから、結びつきが強くなると個性を保てなくなってしまうということのようです。同族よりもむしろパートナーの工作員との方がよほど強い信頼関係で結ばれており、相棒の死により自ら命を絶つトルグも登場します。

 その時代にしては驚くほどの技術レベルを誇るインダス文明の古代都市モヘンジョ・ダロですが、その実態はヴェールに隠されたままです。どんな人々が暮らしていたのか、どんな言語が使われていたのか、そして何故滅亡したのかすら分かっていません(従来はアーリア人に攻め滅ぼされたと考えられていましたが、それ以前から衰退していた模様)。
 本書では、そうした謎の古代遺跡に生き生きとした空想を巡らせています。時代を考えると少々住人が理性的すぎるように感じる部分もありますが、モヘンジョ・ダロはその区画からの類推でかなり平等な社会が営まれていたのではないかとも言われていますので、高度に文明化されていたとしても不思議はないのかもしれません。

 本巻登場の常駐工作員ルイーズは美しい女性ですが、フォーチュンの浮き名を耳にしていたせいで彼に反感を覚えており、当初は彼をかなり警戒しています。TERRA作戦本部長ポール・タウジッグが、フォーチュンに対し「“あなた好み”のタイプじゃない」と釘を刺すほどです(笑) けれども、共にエンパイヤと対決していく過程で、ルイーズのフォーチュンに対する態度は次第に軟化していくことになります。
 フォーチュンとルイーズの関係については、次巻『タイム・トラップ』に持ち越しです。そこではかなり衝撃的な結末が待っています。

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