優しい侵略者

[題名]:優しい侵略者
[作者]:キース・ローマー


 本書はユーモアSFの担い手キース・ローマー氏による、ナンセンスな笑い満載の小説です。
 とは言うものの、状況自体は――SF的お約束であることを除けば(^^;)――それほど異常なシチュエーションではありません。不条理なのは主に登場人物達です。誰も彼もが、人の言うことなど聞きやしない(笑)
 ある日、空から金色の制服を着た男達が降りてきて、アメリカ全土を支配してしまいます。人々に危害を加える様子もない優しき侵略者・モニターとはいったい何者なのでしょうか。

 フリーランスのパイロットで失業中のエース・ブロンデルが酒場で安酒を飲んでいたところ、突然テレビ放送が乗っ取られ、『重要ナ通告ガアリマス』とわめき始めました。
 その直後、空から飛行船が降りてきたかと思うと、中から金色の制服を着た筋肉質の男達がゾロゾロと姿を現します。モニターと名乗る愛想よい彼等は、あっという間に無血で町を制圧してしまうのでした。
 ブロンデルはロシア人がアメリカを征服しにきたのだと考え、町から脱走してレジスタンスに参加しようと試みます(地下組織が存在するのかどうかも分からない状態で(笑))。けれども、基本的に善良な性格が災い(?)して、ブロンデルはモニターに捕まってしまうのです。
 彼が連れて行かれたのは、モニターの教育施設らしき場所でした。高い科学技術力を持つモニターはブロンデルに対し、自分達に敵意がないこと、人々により良い暮らしをもたらすためにやって来たのだと説きます。しかし当然ながら、ブロンデルにはそれが信じられません。
 一瞬の隙をついてその施設を抜け出したブロンデルは、その直後に戦車〈Zカー〉に拾われます。それこそ、彼が探していた反モニター抵抗組織SCRAGの手の者だったのです。
 残念なことに、SCRAGはブロンデルが思い描いていたような立派な組織ではありませんでした。特にトップのブラックウィッシュ准将は支離滅裂気味で、どうにも信頼が置けません(と言うか、登場人物は一部を除きみんな同様ですけど(^^;))。
 ブロンデルはとりあえず、准将から機密文書をある組織に届ける任務を与えられるのですが……。
 未だ彼等は誰一人として知らなかったのです。侵略者モニターはロシア人ではなく、イスラエル人ではなく、アフリカ人でもないということを。

 本書の注目ガジェットは、優しい侵略者モニターです。
 彼等は一様に金ぴかの全身タイツを身に付け、歯磨き粉のCMのように白い歯を輝かせてにこやかな表情を浮かべた筋肉質の青年です。あまりの胡散臭さに、ブロンデルならずとも逃げ出したくなるかもしれませんね(笑)
 非常に高度な科学技術を有しますが、それを笠に着て傲慢な態度に出ることはありません。どんな相手に対しても礼儀正しく接し、忍耐強く、寛容です。提供するサービスの質は高く、組織的な腐敗もありません。強制されるのは支配者の選択の余地がないことぐらいです。
 にもかかわらず、彼等の支配はスムーズには行きません。このあたり、強い毒のある風刺として楽しむことができます。
 暴力を行使しない「優しき侵略者」と言うと、アーサー・C・クラーク氏の名作SF『幼年期の終り』を思い起こさせます(おそらくパロディ元)。しかし、あちらのオーバーロードとは全く異なり、モニター達は人々と積極的に関わろうとします。押し付けがましいのは難点ですが(^^;)

 作中に登場する人物は、一癖あるどころではない者ばかりです。
 SCRAG司令官のブラックウィッシュ准将を始め、歯科医師マックスウェル、少々肉付きの良いヒロインのネルダ・モンロー、マフィア組織CHANCREの面々、果てはバスにたまたま乗り合わせる老人まで、ことごとく人の話を聞きません。彼等に翻弄されるブロンデル君は、稀に見る薄幸の主人公です(笑)
 実のところまともにブロンデルの話が通じるのは、侵略者であるモニター達だったりします。つまり……モニターも人々に翻弄されてしまうわけですね(^^;) 読み進めていくうちに、何故か人々ではなく侵略者モニターに同情してしまうという辺り、「侵略もの」でありながらそれを徹底的に茶化してくれます。
 社会や人間に対する強烈な皮肉が実に楽しい、ローマー氏の真骨頂が大いに発揮されたユーモアSFです。

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