黄金の女神

[題名]:黄金の女神
[作者]:ラリー・マドック


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈TERRAの工作員シリーズ〉の第二巻です。
 前巻『空飛ぶ円盤』の舞台は現代(と言っても、執筆された時期と同じ一九六六年)でしたが、今回は一転して先史時代、一万年以上も過去がターゲットです。
 存在しないはずの古代文明を処理するために一万年の時を遡ったフォーチュンとウェブリー。果たして、謎の神王クロノスの正体、そして目的は何なのか……。

 紀元前一五〇九年。ミノア帝国に常駐するTERRA工作員ハークネスとモラッグは、クレタ島にて奇妙なものを発掘します。それは純銅の飾り板に、クロノスなる人物を称える文言をギリシア語で刻んだものでした。
 しかし、そのギリシア語が初めて使われるのはBC四五〇年頃、一方で金属板は最低でも二千年は土中にあったものと推定されます。ギリシア語が最初に用いられる遙か昔に刻まれた、決して存在するはずのない人工物だったのです。
 それがエンパイヤの仕業であることは明らかでしたが、目的は不明です。クロノスを名乗る者は、TERRAの監視範囲外である超古代で一体何をしているのか――それを探り、歴史への干渉を阻止するため、特別工作員ハンニバル・フォーチュンとウェブリーのコンビが派遣されることになります。
 航時輸送機に乗り込んだ二人が追跡標識を手がかりに過去へ遡ると、金属板の出所は紀元前一一六八二年、大西洋上の島大陸ノディエソピスでした。そこには時代を数千年も先取りした、神王クロノスの統治するマヌクロニス王国が存在していたのです。
 傭兵に扮してマヌクロニスに潜り込もうとしたフォーチュンですが、たまたまクロノスを侮辱したとして老女ノルニが暴徒に追われているところに出くわし、彼女を助けることになります。
 物語の英雄が助けるのは妙齢の女性と決まっているのに、自分が助けたのはしわくちゃの老婆だったことを内心ぼやきつつ(笑)、フォーチュンはノルニからマヌクロニス建国のエピソードを聞き出します。それは高度なテクノロジーを有した何者かが、自らを神がかった存在と謀って人々を支配する、巧妙な手口でした。
 クロノス到来前に信仰されていた海神ノディエソップを奉じ、フォーチュンを予言の英雄と見なすノルニ。しかし、フォーチュンは彼女が見かけ通りの老女ではないことを見抜きます。希望通りの美女だった(^^;)ノルニの手引きで、フォーチュンは再びマヌクロニス潜入を試みるのですが……。

 本書の注目ガジェットは、歴史の修正です。
 エンパイヤの行った歴史干渉に対し、TERRA特別工作員はその影響をなくすよう行動する訳ですけど、基本的に起きてしまった出来事をなかったことにするのは許されないようです。
 例えば本巻では、ノディエソピスにクロノスが姿を現した直後に彼をビーム・ガンで亡き者にしてしまえば、その後の歴史干渉は消滅して一件落着ですが(笑)、こういう手段は取られません。理由はあまり明確にされていないのですが、「タイム・ラインにストレスをかけすぎる」という台詞があり、干渉に干渉を重ねるのは好ましくないと考えられているようです。考えてみると、エンパイヤの歴史干渉自体を直接改変してしまったら、その行動そのものをエンパイヤ側が逆改変(フォーチュン殺害等)するといういたちごっこになりかねませんね。
 このため、フォーチュンの実行する工作活動は、エンパイヤの歴史干渉が史実と矛盾しないよう誘導することです。つまり、エンパイヤの起こした変化そのものを歴史に組み込んでしまうということになります。まだるっこしい上に後手後手の手段で、エンパイヤがその気になれば易々とTERRAを出し抜けそうな気もしますけれど、割とエンパイヤは烏合の衆なので対処できている模様です(^^;)
 ところで、歴史修正の結果、史実として知られる物事の一部はエンパイヤの仕業だったと判明するケースがいくつか登場します。この場合、エンパイヤは本当に歴史改変を行ったことになるのでしょうか。むしろ、それらは(作中の設定では)エンパイヤ抜きには起こりえないように思われるので、最初からエンパイヤの干渉ありきの歴史だったのではないかという気がしなくもないです。:-)

 現代から超古代へ一気に舞台を移した訳ですが、今回は史実ではなく完全に架空の時代です。ぶっちゃけてしまえば、要するにアトランティスですね(笑)
 ただ、架空ではありますが設定はかなり凝っており、都市や風俗、宗教、政治といった舞台設定が綿密に行われています。一万年以上前というと(地域差はあるものの)概ね旧石器時代に当たると思われますけど、そんな時期に青銅器時代レベルの文明が存在したという矛盾を時間犯罪者の過去改変と結びつけた点が、なかなかに秀逸です。

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