空飛ぶ円盤

[題名]:空飛ぶ円盤
[作者]:ラリー・マドック


 歴史を改変し自らの都合のいいように世界を改変せんとするエンパイヤと、それを妨害し時間を正常に保とうとするTERRAの抗争を描いた、〈TERRAの工作員シリーズ〉("Agent of T.E.R.R.A. series")の第一巻です。
 なお、注意していただきたい点が一つ。本シリーズはジョン・ブラナー氏の『テラの秘密調査官』("Secret Agent of Terra")とは関係ないようです(^^;) 名前が偶然似てしまったようですが、ブラナー氏の作品はある惑星へ調査官が潜入調査を行うというお話で、マドック氏の方はいわゆる〈タイム・パトロールもの〉と、方向性は異なりますね。

 時は二五四八年――多数の惑星からなる〈銀河連邦(GF)〉が形成されたこの時代に、二人の科学者によりある発明がなされます。それこそは航時輸送機(いわゆるタイム・マシン)、時間を遡ることができるという驚くべき発明でした。しかし、それは歴史の書き換えが可能になったことを意味しており、危険性を重く見たGFは航時輸送機を非合法化してしまいます。
 けれども、発明者の一人リモード・ルドヌルにはそれが不服でした。そして、宇宙征服を企むボリウス星独裁者グレゴール・マリクがそこに付け込み、タイム・トラベル技術を手に入れてしまいます。
 とある辺境惑星の文明が突如として未開レベルへ後退してしまったことから、GFは時間改変組織エンパイヤの存在を知ります。その恐るべき脅威に対抗すべく時間エントロピー修復機関・TERRAが結成され、工作員達は人知れず歴史を守る戦いを続けることになったのです。

 そして、物語は一九六六年の地球から始まります。TERRAの地球在住工作員ソロビン・キンバルと相棒のグラークは、地球の二十世紀に潜伏するエンパイヤ一派が新型兵器を発明したことを突き止めました。惑星の歴史を丸ごと滅ぼしかねないその発明の存在をTERRAに伝えようと、二人は危険を覚悟の上で未来へ向けてメッセージを送信します。しかし、送信開始後程なく彼らの居場所はエンパイヤに察知され、そのメッセージは中断してしまいました。
 キンバル達の身の上に何が起きたのか、そしてメッセージの内容は――それを探るべく、腕利きの特殊工作員ハンニバル・フォーチュンと、相棒の不定形生物ウェブリーがTERRAから二十世紀の地球へと送り込まれることになります。
 キンバルの隠れ家へ到着した二人は、彼が殺害され壁のしみになってしまったこと、グラークが完全に正気を失っていることを知ります。やむなくグラークを殺した後、彼らは航時輸送機を使って時間を遡り、盗聴器を仕掛けてキンバルの送信しようとしたメッセージを聞き取りました(非情ながら、キンバル達を助けることは時間の矛盾を引き起こすため、許されません)。
 キンバルは、空飛ぶ円盤騒ぎの渦中にいる陸軍大佐がエンパイヤのスパイであることを突き止め、そしてエンパイヤが惑星地球の文明を脅かす装置を発明したらしき通信を傍受していました。しかし、それ以上のことはキンバルにも不明であり、フォーチュン達は自力で秘密を探る必要があります。
 現場には、空飛ぶ円盤を目撃したという娘マリリン・モーストリーの新聞記事切り抜きが残されていました。二人はとりあえずその娘に接触を図ることにしたのですが……。
 果たして、フォーチュンとウェブリーはエンパイヤの野望を暴き、秘密兵器の使用を防ぐことができるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、航時輸送機("temporal transporter")です。
 フォーチュンの使用するTERRA航時輸送機は、直径約二・四メートル、長さ約七・三メートルの円筒形で、両端が半球形をしています。時間の中を過去や未来へ移動できるのみならず、超光速宇宙船としても使用可能です。
 対するに、エンパイヤの航時輸送機は技術的に遅れており、サイズはTERRAのものの十倍です。通常は衛星軌道上に置かれ、乗り降りには円盤型の航空機スキマー("skimmer")が必要になります。(これが空飛ぶ円盤の正体)
 TERRAの航時輸送機には「時制をずらす」という機能が装備されており、時間の外側から目撃されることなく世界を観察することが可能です。また、この機能を応用し、航時輸送機自体をわずかな未来へ送っておくことで安全に隠すことができます。
 但し、航時輸送機を使ったタイム・トラベルには一つの重要な制限があります。それは、同じ時間に同一の存在(人物・物体を問わず)が二度以上存在することができないというルールです。このため、一度訪れた時代へは再訪できないという制約が生まれることになります。

 主人公ハンニバル・フォーチュンは、TERRAに六人しかいない第一級工作員の一人です。ハンサムで長身、非常に優秀ですがやや自信過剰の気があり、女性に弱いのが難点ですね(笑) 少々お調子者のジェームズ・ボンドといったところでしょうか。
 フォーチュンは地球人ではないのですが(名前も偽名)、元々は地球の歴史を専攻していた歴史学者で、TERRA工作員のスカウトに応じることになったようです。航時輸送機は非合法化されてしまったので、自分の専門分野をじかにその目で見る機会は工作員になる以外ない訳ですね。
 フォーチュンのような特別工作員以外にも、地球の様々な時代で常駐工作員がエンパイヤの動向を監視していますが、いずれも基本的には歴史学者のようです。危険な任務ではあるものの、歴史を学ぶ者にとってはうらやむ職業と言えるでしょうか。

この記事へのコメント

  • Kimball

    あけましておめでとうございます!
    本年もよろしくお願いもうしあげます。m(__)m
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    いまも、しっかり3部作?文庫もっています。
    (ん十年ツンドクですが\(^o^)/)
    2011年01月02日 15:29
  • Manuke

    明けましておめでとうございます。
    今年もコンスタントに続けられるよう頑張りますので、よろしくお願いします。

    > いまも、しっかり3部作?文庫もっています。
    > (ん十年ツンドクですが\(^o^)/)

    四部作ですね。第四巻の『タイム・トラップ』が、かなり秀逸だったり。
    私も長年積んである本が結構あります。読むタイミングを逃すと、ずるずると先延ばしに……(^^;)
    2011年01月03日 00:27

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