目的地アルファ・ケンタウリ

[題名]:目的地アルファ・ケンタウリ
[作者]:A・E・ヴァン・ヴォクト


 本書は鬼才A・E・ヴァン・ヴォクト氏による、異星へと旅だった宇宙船の数奇な運命を描く宇宙SFです。
 世代宇宙船の中で繰り広げられる権力闘争、異星文明との接触、超技術の獲得等々、物語中には様々な展開が盛り込まれています。ただ、執筆された経緯の関係からか、少々まとまりに欠けるのが難点かもしれません(^^;)(詳細は後述)
 太陽系の危機に瀕し、アルファ・ケンタウリへの植民を目指して旅立った〈人類の希望号〉。その行く手に待ち受けるものは……。

 太陽がケフェウス型変光星の兆候を示していることが天文学者ジョン・レズビーにより示されました。それは太陽系に滅亡の危機が迫っていることを意味しています。
 大部分の者はレズビーの主張を信じませんでしたが、大富豪アヴェリル・ヒューイットはそれを信用し、異星へ植民宇宙船を送り出す計画に取りかかります。かくして、宇宙船〈人類の希望号〉は八百人の乗員を乗せ、アルファ・ケンタウリを目指して旅立ちました――建造のために財産の大半を使い果たしたヒューイットを地球に残して。
 ところが、計画は当初から狂い始めます。理論上では無限の推力を生み出すはずだった原子力エンジンは、目論見とは裏腹に船を光速度の十五パーセントまで加速するのがやっとだったのです。当初は四年で着くとされた旅路は、実際には三十年もかかることが判明します。
 それでも引き返そうとしないレズビー船長に対して、乗員達は不満を募らせていきました。しかし、若者達が反乱を起こそうとした矢先、レズビーは地球の権威を利用してその気勢を削いでしまいます。
 やがてアルファ・ケンタウリの三重星系に到達した〈人類の希望号〉。けれども、そこにあった惑星には知的生命体が生息しており、かつ人間には居住不可能でした。〈人類の希望号〉は別の星を目指すことになります。
 暴君レズビー三世の台頭、暗殺、傀儡統治といった権力闘争が船内で起きる中、〈人類の希望号〉はシリウス、プロキオンを経てアルタ(アルタイル?)へ到達します。それは地球を出発して百九年後のことでした。
 ジョン・レズビー五世は船長の座の簒奪者ブラウンに対して反乱を企てていましたが、牽制としてアルタ第三惑星の探検を命じられてしまいます。そこで彼は、異星の知的生命体カーン星人と接触することになるのですが……。

 本書の注目ガジェットは、ローレンツ=フィッツジェラルド収縮です。光の速度が地球の運動に影響されないというマイケルソン‐モーリーの実験結果を説明するために、物理学者ヘンドリック・ローレンツ氏及びジョージ・フィッツジェラルド氏がそれぞれ提案したものですね。
 十九世紀末の物理学では、光はエーテルという謎の媒質を伝播する波であると考えられていました。地球が宇宙の中を運動している以上、エーテル中を伝播する光はその放射される向きにより速度が若干変化すると予想できます。ところが、各種の実験結果により光の速度はどの向きでも一定だということが確認されてしまいます。
 この謎を説明するために提唱されたのがローレンツ収縮です。運動する物体は運動方向に収縮するため、光の速度変化が打ち消されるのではないか、というものですね。(この問題は最終的に、絶対座標系を否定し全ての慣性系を相対的なものと見なすアルバート・アインシュタイン氏の特殊相対性理論という形で決着が付くことになり、ローレンツ収縮もそこに取り込まれます)
 もっとも、作中のローレンツ収縮は現実のものとはかなり異なるようです。ある経緯から、飛行中の〈人類の希望号〉に地球人が外部から乗り込むことになるのですけど、その人物は宇宙船の進行方向につぶれた船内や乗員達という奇妙な光景を目にします。実際には、観測者が宇宙船に乗り込んだ時点で相対速度がゼロになってしまいますから、ローレンツ収縮を目撃するはずはないのですが(^^;)
 これに対しては、「あの船が、現在、この一分、この一秒に対する一種の並行時間の中で、独自の存在領域を光速以上の速さで航行しているのではないか」との推測がなされていますけど、よく分からない理屈ですね。とは言うものの、設定としては面白いですから、作中の物理法則はそういうものなのだと受け入れてしまいましょう。:-)

 さて、冒頭で挙げたまとまりの悪さに関してですが、実は本作、元々は独立して書かれた短編を統合したものだそうです。ヴァン・ヴォクト氏は一時期、以前に書いた短編を繋ぎ合わせて長編化(氏曰く"fixup")するということを行っており、『目的地アルファ・ケンタウリ』(原題:"Rogue Ship")もその一つになります。
 統合された元の短編は、"Centaurus II"/"The Expendables"/"Rogue Ship"の三つです。詳細は不明ですが、題名から類推するとそれぞれ恒星間の放浪パート、カーン星人との接触パート、そして地球への帰還パートに当たるのでしょうか。実際、この境目でストーリーの連続性が失われていますし(^^;)
 一つの物語として見ると、本作は少々難のある作品で、物語の軸がぶれている感じが否めません。ただ、それぞれの短編部分を切り出してみると、世代宇宙船の中で繰り広げられる政治劇、一風変わったファーストコンタクト、そして前述の勝手ローレンツ収縮(笑)等々、アイディアの光る部分が少なくないですね。無理に統合するよりも、独立した短編群のままに置いておく方が良かったのではないかと個人的には感じるところです。

この記事へのコメント

  • X^2

    こういった話だったんですね・・・。題名だけを見て、ずっと別の話と勘違いしていました。
    世代宇宙船の中での政治抗争というアイディアは面白そうなのですが、それだけにローレンツ収縮の勘違いはかなり痛いですね。
    それはともかく、太陽系 ->αケンタウリ ->シリウス ->プロキオン ->アルタイルって全然方向が違うのですが。特にシリウスとアルタイルだと、太陽系からみてほとんど反対向きですね。例の「九惑星レース」以上に無理があり過ぎです。
    2010年12月26日 20:18
  • Manuke

    > 世代宇宙船の中での政治抗争というアイディアは面白そうなのですが、それだけにローレンツ収縮の勘違いはかなり痛いですね。

    超光速で飛行可能な宇宙船の話ですし、状況も特殊ですから、あくまでそういう作中設定としておきましょう(^^;)

    > それはともかく、太陽系 ->αケンタウリ ->シリウス ->プロキオン ->アルタイルって全然方向が違うのですが。特にシリウスとアルタイルだと、太陽系からみてほとんど反対向きですね。例の「九惑星レース」以上に無理があり過ぎです。

    記述はあくまで「アルタ(原文では"Alta")」なので、アルタイルかどうかは不明ですね。
    星図を見てみると、確かにアルタイルは無理がありそうです(^^;)
    お隣のルイテン星は逆に近すぎますので(プロキオン→アルタの旅は三十年)、ロス614辺りが妥当でしょうか。
    もっとも、単に架空の星なのかもしれませんけど。:-)
    2010年12月28日 01:01
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