リトル・ファジー

[題名]:リトル・ファジー
[作者]:H・ビーム・パイパー


 SF屈指の愛らしい生物、リトル・ファジーを扱った異星物SFです。その可愛さは、作者のパイパー氏が亡くなられた後、他の作家さんが〈リトル・ファジーもの〉の続編を書かれていることからも伺えますね(^^;)
 とは言っても、本書はただ可愛い生き物を登場させただけの物語ではなく、リトル・ファジーに知性があるか否かを裁判で決着させようという異例の展開になっています。果たしてこの生物は知的生命体なのか、それとも芸を仕込まれただけのペットなのか――リトル・ファジーを擁護する人達と、自らの利権を手放すまいとする大企業の間に起きた諍いの行方やいかに。

 地球から遠く離れた未開の惑星ツァラトゥストラ。ここでは、独占的権利を得たツァラトゥストラ特許会社("the Chartered Zarathustra Company")が惑星開発を行い、そこから得られる収入でようやく経営が軌道に乗り始めたところでした。会社は気象操作を行い惑星上の広範囲の気候を変化させていましたが、それに対する自然保護論者の批判はどこへ吹く風です。
 一方、特許会社とは直接関わりを持たず、人里離れた土地で世捨て人のように暮らす初老の男がいました。名前はジャック・ホロウェイ、宝石として高く売れるクラゲの化石・太陽石を掘り当て、それを売って生計を立てています。
 ある日、ジャックが太陽石を手に入れて自宅へ戻ると、入り口のドアが開けっ放しになっていることに気付きます。害獣が入り込んでいないかと用心しつつ屋内へ入った彼は、そこで見たこともない生き物を発見しました。
 その小柄で毛むくじゃらの生き物は、愛くるしく、人懐っこい性格でした。ジャックはそれをリトル・ファジーと名付け、一緒に生活を送ることにしたのです。
 リトル・ファジーは驚くほど賢い生物でした。やがてリトル・ファジーが自分の家族を連れてきて共に暮らし始めると、ジャックはファジー達が未発見の知的生物なのではないかと考え始めます。そして、これまで孤独を苦にすることもなく一人暮らしをしてきたジャックは、ファジー一家をかけがえのない家族だと感じるようになります。
 しかし、ツァラトゥストラ特許会社にとって、それは容認ならざる事態でした。これまで知的生物のいない第三クラスの惑星だとされてきたツァラトゥストラに知性体が発見されたとなれば、惑星は第四クラスに引き上げられ、会社は独占的権利を全て失ってしまうことになります。幹部のヴィクター・グリーゴは科学調査部長レナード・ケロッグに、リトル・ファジーが知的生物でないことを是が非にでも証明するよう命じました。
 ジャックの下へやってきた独立系の博物学者ベネット・レインズフォード、そしてケロッグ配下の博物学者ゲルト・ヴァン・リーベークまでもが、ファジー達は知的生物だと認めました。けれども直接的な証拠はなく、会社側の心理学者達はより慎重な立場を取ります。
 そうした中、悲劇が起こります。ケロッグが自分にまとわりついてきたファジーの一人を苛立ちのあまり蹴り殺してしまい、それを目撃したジャックがケロッグを拳で滅多打ちにしたのです。そして、ジャックへ銃を向けた会社人事係カート・ボーチは、ジャックの反撃で射殺されてしまいます。
 特許会社はすぐさまジャックを殺人罪で告訴し、逆にジャック側はケロッグをファジー殺害の罪で告訴しました。二つの裁判の焦点となるものは一つ――果たしてリトル・ファジーは知的生物なのか、それとも違うのか。

 本書の注目ガジェットは、リトル・ファジー("Little Fuzzy"/ちびのふわふわちゃん)です。
 リトル・ファジーは金色のふわふわした毛皮で覆われたヒューマノイドで、身長は大人でも五十センチメートル程度でしょうか。丸い頭に大きな耳、少しあぐらをかいた鼻と、顔は人間に似ています。鳴き声は人間の耳には「イーク("Yeek")」と聞こえるようです。
 性格は無邪気かつ好奇心旺盛、人間に対し危害を加えるようなことはありません。頭の回転が早く、言葉は通じないものの人間の行動を理解できる賢さを持ち合わせます。また、ジャックと出会った時点で既に堅木や骨製のナイフを所持しており、これがジャックに知性の存在を信じさせるきっかけとなります。
 もっとも、その最大の特徴はやはり可愛らしさですね。世捨て人で山師、銃の名手として知人達に一目置かれているジャックがあっという間にメロメロになってしまうところを見ると、この生き物に敵意を抱くのは相当に難しそうです(^^;)

 物語は、なんとしてでもファジーを知的生物と認定させたくない特許会社側と、ファジーを擁護するジャック周辺との対立という形で進んでいきます。
 役割ははっきりと分かれていて、ジャック側が善、会社側が悪です。ジャックはリトル・ファジー一家の父親を自認し、子供達を守るために巨大企業と戦うという構図ですね。特許会社の人間はかなり悪辣、下劣に描かれており、ファジーを貶めるためにあの手この手の卑劣あるいは非合法な手段を仕掛けてきます。
 ただ、個人的には論理の持っていき方に少々危うさが感じられる部分もあります。ジャック・ホロウェイの性格はやや独善的で、自分の正義を疑っていないようですし(作品全体にもその傾向が……)、いくら可愛いからといって新種の生物をそう信用していいものかどうか疑問ではあります(^^;)
 もっとも、この辺りはあまり気にしない方がお話を楽しめるでしょう。リトル・ファジー達の愛らしさの前には、些細なツッコミは無用です(笑)
 作者パイパー氏が亡くなられたこともあり実現は難しいかもしれませんが、本書『リトル・ファジー』はかなり映画化に向いたお話ではないかと思っています。得意げな様子で「イーク!」と叫ぶリトル・ファジーの姿を、ぜひ映像で見てみたいものですね。ジャックならずとも陥落すること請け合いです。:-)

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