幼年期の終り

[題名]:幼年期の終り
[作者]:アーサー・C・クラーク


 本書は人類の進化というテーマを描いた、巨匠クラーク氏の名作SFです。クラーク作品群の中では、いわゆる「遠未来もの」に属するお話ですね。(舞台設定自体はそれほど未来ではないのですが、内容的に)
 もっとも、本作における「進化」は、長い年月をかけて遺伝情報が変化していく進化論的なものを指しているのではありません。もっと劇的に引き起こされ、それ故に人々はその変貌との対峙を迫られることになります。
 宇宙より飛来した異星人――オーバーロード。彼等の穏やかなる支配により、地球に平穏が訪れます。けれどもそれらは全て、来るべき大変化の予兆でしかなかったのです。

 人類が宇宙へと進出を始めようとしていたその矢先、その試みは潰えることになりました。遥か宇宙の彼方より、銀色に輝く無数の宇宙船が地球へと飛来したのです。
 巨大な宇宙船は地球の主要大都市上空へ一つずつ浮かび、人々は恐ろしさに震え上がります。しかし、オーバーロードと呼ばれることになる来訪者は、決して邪悪な侵略者などではありませんでした。
 オーバーロードは社会に過度の干渉を加えることなく――それどころか、五十年以上も人間に姿を見せることもなく、地球を緩やかに支配しました。その結果、国家間紛争はもとより個人レベルの暴力も激減し、疾病や貧困は駆逐されます。ほとんどの人々がそれを歓迎し、オーバーロードという異星人の支配を受け入れたのです。
 けれども、物事にはプラスだけではなくマイナスの側面もありました。科学技術や芸術に対する情熱を人々は失ってしまったのです。誰もが働かずとも暮らしていける黄金時代を迎えながら、人類文明の活力は低下してしまいます。
 そうした状況に安寧を得られない青年ジャン・ロドリックスは、ある事件をきっかけにオーバーロードの故郷の星の位置を知ることになりました。彼はその情報を元に、宇宙船に潜みオーバーロードの母星まで密航しようと試みます。
 しかし、ジャンの行動とは無関係に、地球ではある出来事が始まりつつありました。そして、それこそがオーバーロードが地球へやってきた真の目的だったのです。
 果たしてその目的とはなんなのでしょうか。そして、ジャンは旅の果てに何を見ることになるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、異星人であるオーバーロードです。
 突如宇宙の彼方から現れて地球を制圧してしまう異星人――この構図は、あまたの地球侵略テーマSFを思わせる部分です。無論クラーク氏のことですから、そんなにありきたりな展開にはなりませんけど。
 オーバーロードが人間に提供するものの一つに、過去を覗き見るテレビ受像機があります。地球上における過去五千年以内の任意の時間・場所を映し出すことができるという装置です。世界史研究財団に貸与されたものなのですが、この機械のために無数の宗教が没落していくことになります。偉大なる始祖も、実際に目で見ることができれば神性などあったものじゃないというわけです(^^;) なかなか皮肉的ですね。
 このオーバーロード、物語の前半と後半とで立場が大きく変化する存在です。オーバーロードが何のために地球へやってきたのか、それを知ったときに彼等への印象はがらりと変わることでしょう。

 本作のメインテーマはオーバーロードそのものではなく、それがもたらす人類の進化ですね。
 この部分は非常に物悲しくも美しく、読者の心を打ちます(ある意味、醜悪とも言えますが)。クラーク氏の著作物中でもとりわけ情緒的な側面が強い作品なのかもしれません。
 読後の余韻が素晴らしい、不朽の名作です。

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