マストドニア

[題名]:マストドニア
[作者]:クリフォード・D・シマック


 本書『マストドニア』は、異星人の作り出したタイム・ロードを巡る一連の騒動を描いた、異色の時間SFです。
 設定はやや風変わりで、金銭や政治の話も絡んでくるのですけれど、総体としては牧歌的なイメージなのがシマック氏らしい部分ですね(^^;) 洪積世に設置されたのどかな楽園マストドニアを軸に、世界はいきなり降ってわいた時間旅行という概念に大きく揺さぶられることになるのです。

 考古学者のエイサ・スティールは、生まれ故郷であるウィスコンシン州の田舎町ウィロー・ベンドの農場にて、休暇年度を利用して書きものをするとの名目で隠遁生活を送っていました。そこへ、かつての恋人で、今は実業家となった女性ライラ・エリオットが訪れてきます。
 二十年ぶりの再会で、仲を深める二人。そして、ここで何をしているのかを尋ねたライラに対し、エイサはためらいつつも答えます。この地に埋まっている宇宙船の残骸を発掘しているのだ、と。エイサは子供時代の経験から、遙か昔にウィロー・ベンドへ宇宙船が落下したと確信しており、一人それを掘り出そうとしていたのです。ライラはそれを知っても彼を笑おうとはせず、協力を申し出ます。
 そして、ウィロー・ベンドにはもう一つの謎がありました。時折出没する、にたにた笑う猫の顔のような生き物、キャットフェイスです。エイサや、彼の隣人で世捨て人のエズラ・ホプキンズぐらいしかその存在を知る者はいませんでしたが、明らかにそれはただの生物ではありませんでした。
 ある晩、鶏小屋の騒ぎを聞きつけたエイサが散弾銃を手にとって庭に出ると、そこにいたのは狐ではなくキャットフェイスでした。そして次の瞬間彼は、太古に絶滅した象マストドンの闊歩する洪積世にいる自分に気付きます。
 飼い犬バウザーの助けでなんとか現代へと帰り着いたエイサは、白痴の青年ハイラム・ビグローを通じてキャットフェイスと意思疎通を図ることに成功します。驚くべきことに、キャットフェイスは五万年前に落下した宇宙船の生存者で、別の時代へ通じるタイム・ロードを自在に作り出すことができる、と言うのです。
 それを聞いたライラは、タイム・トラベルを商売にすることを提案します。お金の話が持ち出されたことに学者肌のエイサは戸惑いつつも、結局はそれに賛成することにしたのですが……。

 本書の注目ガジェットは、タイム・ロードです。
 異星人キャットフェイスは元々惑星の歴史を調べることを専門とする調査員で、機械の助けを得ることなく自力で過去へ通じる抜け穴を作り出すことができます。これがタイム・ロードですね。
 タイム・ロードの存在は、視覚では全く認識することができません。ただ通路とされる場所を進んでいくと、ある地点を境に突然別の時代へ足を踏み入れることになります。不便かつ帰り道が分からなくなる危険性から、タイム・ロードが目で判別できるようエイサ達は道なりに杭を打つことになります。
 タイム・ロードによる時間旅行が歴史にどのような影響をもたらすのか、という観点についてはあまり言及がありません。ロードの出口を遠い過去のみに限定し、人間の歴史への干渉を避けることでパラドックスへ踏み込まないよう気を遣っているようです。もっとも、中生代へ赴き恐竜を一頭殺してしまったら、その影響力は人類史への干渉どころではない甚大なものになってしまう気がしますけど(^^;)

 物語はその後、二人の設立した時間観光会社が世界に波紋を広げていくという展開になります。タイム・ロードのもたらすものを目当てに、映画会社、サファリ会社、宗教団体、山師、そして上院議員といった人々が詰めかけてくる訳です。
 そうした中、時間観光会社は弁護士の勧めで本拠地を十五万年前の世界へ移します。いかに国税庁とて、洪積世に存在する会社には課税できないから、という理屈です(笑) 間氷期の温和なその時代は、マストドンのいる世界ということでマストドニアと命名されます。
 一方、タイム・ロードを作り出す要であるキャットフェイスは、人間側のストーリーにはほとんど絡んできません。なんだか人間達が一方的に利用している印象が若干ありますけど、当人(?)は救助を待ち続けることに飽き飽きしていたようで、様々な時代へ通じるタイム・ロードを作って欲しいという要望にも快く応えてくれます。もっとも、「相手の都合に配慮しない」という構図、実は対称的だったりするのが興味深いところです。
 危険な生き物も多くなく、年老いたマストドンがモービル・ホームをひっくり返したりする(^^;)以外は至って平穏で静かな楽園マストドニア。しかしながら、電気も電話も(もちろんネットも)通じない世界は快適そうに思えないのは、私が文明に毒され過ぎているからでしょうか(笑)

この記事へのコメント

  • X^2

    キャットフェイスは恐らくチェシャ猫がモチーフなんでしょうね、というかそのままですか?

    > 国税庁とて、洪積世に存在する会社には課税できないから

    これくらいであきらめるほど、あの役所は甘くないでしょう。これを見逃したら全ての企業が同じ手を使って財政破綻しそうです。
    2010年12月12日 17:22
  • Manuke

    > キャットフェイスは恐らくチェシャ猫がモチーフなんでしょうね、というかそのままですか?

    多分チェシャ猫ですね。顔以外の部分に関しては、あるようなないような漠然とした描写です。
    にやにや笑いだけ残してゆっくり消えたりはしませんが(^^;)

    > これくらいであきらめるほど、あの役所は甘くないでしょう。これを見逃したら全ての企業が同じ手を使って財政破綻しそうです。

    弁護士コートニイの主張は、タイム・ロードの向こう側は国外だというものです。この言い分は一応通るのですが、敵もさる者、そこから一波乱があります。
    また、コートニイの主張が別の問題ともリンクしているのがなかなか面白いです。
    2010年12月14日 00:38

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