フリーウェア

[題名]:フリーウェア
[作者]:ルーディ・ラッカー


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 知性あるロボット・バッパー達と人間の関わりを描いてきたサイケデリックな異色SF、〈ウェア・シリーズ〉第三弾です。
 但し、本巻ではバッパーの直接的な登場はありません。前巻『ウェットウェア』にて、人間の作り出した生物兵器により滅ぼされてしまったためですね。
 その代わりとして、今回はカビと電子的マテリアルが共生して生まれた新知性体・モールディが大活躍してくれます。そして更には、これまで以上にマッドな存在も……(笑)
 また、本書では物語が複数の視点から描かれ、時間もエピソード毎にかなり前後するという、少々ややこしい構成になっています。特に序盤は、ほとんど用語の解説なしにストーリーが始まってしまうという不親切な仕様のせいで、混乱に拍車がかかること請け合いです(^^;)

 スタアン・ムーニイがバッパーの〈巣〉へ持ち込んだカビ、チップモールドのせいでバッパー達は滅んでしまいました。しかし同時に、バッパーの体を覆っていた電子マテリアル・明滅被覆(フリッカ・クラディング)にカビが取り付いたことで、新たな知的存在モールディが誕生します。
 死んでしまった妻ウェンディのクローンを手に入れた後、スタアンは地球へ凱旋します。彼がモールディを一緒に連れ帰ったために、地球上の全電子機器は機能しなくなり、その代わりをモールディやそのサブセットが勤めるように社会は変貌していきました。
 そして、年月は流れて二十年後――カリフォルニア州サンタクルーズのモーテルで従業員をやっていたモールディの娘モニクは、客のランディ・カール・タッカーから誘いを受けます。モールディと性的関係を持とうとする人間は「チーズボール」と呼ばれて一般的に蔑まれており、モニクにはモールディの夫もいたのですが、彼女はその誘いを受けることにします。
 モールディの寿命は数年と短く、そして子供を儲けるためにはお金が必要でした。チーズボールとの接触中に、鼻の穴から思考冠と呼ばれる洗脳組織を脳に埋め込んでしまえば、その人間を意思のない奴隷にして資金を貢がせることができるのです。相手はどうせチーズボールなのだからと母アンドリアや夫エクスロトルに諭され、気が進まないながらもモニクは言われた通りに行動しようとします。
 ところが、事態は全く逆の方向に進みます。ランディは思考冠を警戒して鼻栓をしており、逆にモールディの意思を奪う新型のスーパーリーチDIMを貼り付けられモニクの方が奴隷化されてしまったのです。
 モニクが誘拐される現場に出くわした、モーテル経営者でカオス学者の人間男性トレ・ディーツは二人を追いかけますが、ランディの攻撃で大怪我を負ってしまいます。妻テリ・パーシスプ及びモニクの家族達は、トレの話を聞いてランディの後を追うのですが……。
 不可解なモールディ誘拐事件の先にある驚天動地の展開を、まだ誰も知りません。

 本書の注目ガジェットは、半機械・半生物の知性体モールディ("moldies")です。
 モールディの体は二つの素材から成り立っています。一つは、マッドサイエンティストのマックス・ユカワが、ロボット知性体バッパーを滅ぼすために作り出した生物兵器・チップモールド("mold"はカビ)です。このカビはシリコン素子から発せられる電磁波をエネルギー源とし、取り付かれた電子機器はノイズのせいで機能停止してしまいます。
 もう一つは、バッパーが表情演出と光エネルギー吸収のために外皮として活用していた柔らかいプラスチック素材、イミポレックスです。元々はそれほど高度な情報処理能力を備えてはいなかったものですが、チップモールドと組み合わさることで知的生命体へと変化した訳ですね。
 モールディは不定形で、どんな形でも取ることができます。エネルギー源は基本的に日光で事足り、高い知性と適応力を持つ存在です。但し、イミポレックスの耐久力に限界があるらしく、寿命は数年程度です。(入れ替えれば延命可能ですが、イミポレックスは非常に高価)
 モールディの意識は人間ともバッパーとも異なるようですが、男女の性別があるなど妙なところで人間くさいですね(笑) 体をバラバラにされても簡単には死にませんけど、基本的にソフトウェアであるために意識を書き換えられると別の存在になってしまいます。
 地球上では、モールディと同じ素材でありながらも小規模で意識を持たないDIM(デザイナー・イミポレックス)が、シリコンチップ亡き後の人類文明を支えています。このため、宗教的偏見の強い一部の者を除き、大多数の人間はモールディの存在を受け入れているようです。元がカビだけにカビ臭いのが難点ですけど(^^;)

 ストーリーは複数の人物視点から多面的に語られ、やや群像劇的な印象ですね。もっとも、時間軸まで変化していますから立体的と言うよりは四次元的(笑)で、カオスっぷりに磨きがかかっています。
 前作、前々作で騒動の中心的な位置にいたスタアンも、本作(の一番新しいエピソード)では還暦手前の元上院議員として、それなりに腰を落ち着けています。但し、トラブル巻き込まれ体質は相変わらずのようですが(^^;)
 一方、『ソフトウェア』でもう一人の主役だったコッブ・アンダスンは、権威付けが欲しいときのアイテム程度のぞんざいな扱いです。人格のソフトウェア化を拒否したスタアンの選択が正しかったということでしょうか。

 物語が終盤に入ると、モールディの奇妙さが吹き飛んでしまう程の突飛な存在、真の意味での「フリーウェア」が作中に登場することになります。一見すると非常にトンデモっぽく感じられるものの、よく考えるとこうした形態もあり得るのではないか、と唸らされるのが憎いですね。全編にわたって不謹慎なおふざけを繰り広げながら、根っこの部分ではかなり深いテーマを扱っているというのはシリーズ共通の特徴と言えるでしょうか。
 仮に宇宙が知性体で満ちあふれているとしたら、非常に低コストで恒星間宇宙を移動する手法として魅力的ではありますけど、その前に難点が一つ。コッブのような人格のソフトウェア化を受け入れなければならないのが悩みどころです。:-)

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