ファウンデーションの誕生

[題名]:ファウンデーションの誕生
[作者]:アイザック・アシモフ


※このレビューには〈銀河帝国興亡史〉及び〈銀河帝国もの〉に属する作品群のネタバレがあります。ご注意ください。

 アイザック・アシモフ氏の代表作〈銀河帝国興亡史〉第七巻にして最終巻です。そして同時に、巨匠アシモフ氏の最後の作品でもあります。
 本書の内容は、心理歴史学の開祖ハリ・セルダンの人生を綴った物語になっています。前巻『ファウンデーションへの序曲』の八年後から第一巻『ファウンデーション』の数年前までの期間における四つのエピソード、及びエピローグからなります。
 数学者ガール・ドーニックのトランター訪問と〈セルダン裁判〉から始まった壮大な銀河帝国の物語は、ファウンデーション創設の経緯をもって締めくくられます。数学者ハリ・セルダンが研究し続けた心理歴史学、そして銀河文明崩壊を最小限に食い止める手段の探索は、途方もない苦難の連続であったのです。

 銀河帝国の宰相エトー・デマーゼルの補佐により、未来を予測する新たな学問・心理歴史学の基礎へと辿り着いた数学者ハリ・セルダン。彼は探索の旅に同行した歴史学者ドース・ヴェナビリを妻、途中で出会った少年レイチを息子とし、ストリーリング大学へと戻ります。
 そして、セルダンが大学の学部長を勤めるようになった八年後、デマーゼルの圧政を非難し、民主主義の必要性を訴えるジョージョー・ジョラナム一派が勢力を伸ばしつつありました。耳当たりこそ良いためにダール人など下層階級からの受けは良いものの、ジョラナムの望みは自らが権力を握ることであり、それは銀河帝国崩壊への第一歩でもあります。けれどもセルダンは、デマーゼルが持つ特殊能力故にその政権は安泰だと考え、あまり気にかけてはいませんでした。
 ある日、ジョラナム派のG・D・ナマーティが大学広場にて無許可で演説を行っていたところに出くわしたセルダンは、得意の武術ツィストで彼らを撃退し、学生から喝采を浴びます。しかし、家に帰るとその無鉄砲さに憤慨したドースのお説教が待っていました(笑) そして、デマーゼルの力はセルダンが考えているより制限が大きく、その政治的立場は苦境に瀕していることを教えられます。
 セルダンは一計を案じ、息子のレイチをジョラナムの元へ送り込むことにします。レイチがダール出身であることを利用し、ジョラナム信奉者としてデマーゼルの秘密を知らせに来た、と装わせたのです。
 目論見は見事にはまり、ジョラナムは失脚しました。ところが、セルダンの予想外なことに、その成功は銀河皇帝クレオン一世の目に留まり、デマーゼルの後継者に任命されることになってしまいます。
 職を辞して姿を消したデマーゼルに代わり、銀河帝国首相の座に就任させられてしまったハリ・セルダン。その前には、更なる苦境が待ち受けています。

 本書の注目ガジェットは、ファウンデーション("the Foundation")です。
 〈銀河帝国興亡史〉におけるファウンデーションとは、心理歴史学が銀河帝国の滅亡と三万年の暗黒時代を予見したことから、その暗黒時代を千年に縮めるべくハリ・セルダンにより設立された組織です。銀河帝国上層部に対しては、あくまで銀河百科事典("the Encyclopedia Galactica")を編纂し科学技術の喪失を防ぐ機関との名目だったものの、その実体は帝国滅亡後に生まれる第二銀河帝国の礎となるための存在です。
 ファウンデーションは二つ作られ、このうち第一ファウンデーションは銀河辺境の無名惑星ターミナスに置かれます。ターミナスは資源の乏しい無価値な星ですが、第一ファウンデーションの持つ自然科学及びテクノロジーを背景に、帝国衰退と共にその勢力を拡大していきます。しかしながら、予言に影響を与えないよう、その住人には心理歴史学者は一人も存在しません。
 一方、第二ファウンデーションは“星界の果て”("Star's End")に置かれ、第一ファウンデーションからもその存在が秘匿されることになります。第二ファウンデーション人は全て心理歴史学者かつ特殊な能力の持ち主で、歴史の裏からその趨勢を見守る存在です。
 ファウンデーションはハリ・セルダンの準備した多数の〈セルダン危機〉("Seldon Crisis")を乗り切ることで第二銀河帝国への道を歩んでいく、と第一ファウンデーション人は考えていますが、実際にはセルダンがあらかじめ全てを予見していたのではなく、第二ファウンデーション人の影ながらの助力があってのことだった、というのが旧三部作のあらましです。
 本書では、そのファウンデーション設立に至るまでの経緯が描かれるのですけど……非常に綱渡り的な道のりですね(^^;) 一応、心理歴史学そのものの研究はユーゴ・アマリルが大きく寄与していますし、ある程度は他の人間も協力しているようですが、本質的にはセルダン個人の努力に負う部分が大きいようです。
 心理歴史学のプロジェクトは幾度も頓挫しかかり、ぎりぎりのところで切り抜ける訳ですが、その様はまるで〈セルダン危機〉の相似形です。案外、〈セルダン・プラン〉には自分の経験が活かされているのかもしれません。:-)
 さて、ハリ・セルダンが多くの人間を巻き込んで作り上げた二つのファウンデーションですが、最終的にその理念は『ファウンデーションと地球』で否定されることになります。心理歴史学は人類の未来を託すには力不足だと判断され、第二ファウンデーションは道半ばにしてその役目を終えるようです。
 一方、第一ファウンデーションはその後も存続し続け、銀河百科事典の編纂を行っていきます。建前だったはずの銀河百科事典が心理歴史学よりも生きながらえるというのは、なかなかに皮肉かもしれません。

 本書をもって、アイザック・アシモフ氏の未来史は完結です。
 その結末として、〈銀河帝国興亡史〉における偉人ハリ・セルダンの人生が描かれます。様々なものを犠牲にし、愛する人々を失いつつも、ひたすら心理歴史学の確立を願い続ける一人の男性の生き様。最後にセルダンが勝ち取ったもの、そしてここから始まるファウンデーションの物語という壮大なビジョンには、感動を覚えずにはいられません。作家アシモフ氏の人生がここに重ねられているのではないかとしばしば言われますが、それもうなずけるところです。
 果たして、セルダンの創造した心理歴史学とファウンデーションとは何だったのでしょう。「ただギャラクシアが成立するまでの中継ぎでしかなかった」とするには、あまりにも残念に感じてしまいます。個人的には「『永遠の終り』で、人類しかいない世界の歴史操作を行う〈永遠〉の設立に不可欠だったのでは?」などと考えたりするのですけど、妄想が過ぎるでしょうか(^^;)

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