われはロボット

[題名]:われはロボット
[作者]:アイザック・アシモフ


 アイザック・アシモフ氏のSF小説には、大きく二つのグループが存在します。すなわち、〈銀河帝国もの〉と〈ロボットもの〉ですね。(どちらにも属さないSFも手がけられていますが)
 後期の作品で両者の統合が図られていくことになるため、厳密に区別するのは難しいのですけれど、本書『われはロボット』は疑いなく後者の代表作です。
 この作品群によって、アシモフ氏の世界におけるロボットの役割が確立することになります。すなわち、次に示すロボット工学三原則に律せられた機械達です。

・第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
・第二条:ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。但し、与えられた命令が第一条に反する場合は、この限りではない。
・第三条:ロボットは、第一条及び第二条に反する恐れのない限り、自己を守らなければならない。

 本書は、ロボ心理学者として高名なスーザン・キャルヴィン博士へのインタビューを挟む形で、九つのエピソードが綴られていきます。ロボットの黎明期から、そしてマシンが世界を管理していく時代まで――生涯をロボットに捧げたキャルヴィン博士が半生を振り返りつつ語る逸話により、人とは異なる存在であるロボットの姿が明らかになっていくのです。

◎ロビイ

 グローリアは子守り用ロボットのロビイが大好きでした。
 ロビイは金属のボディでできた、喋ることのできないロボットです。けれど幼いグローリアにとって、ロビイは家族以上の存在だったのです。グローリアは一緒にかくれんぼをしたり、シンデレラの物語を話してあげたりと、毎日をロビイと共に暮らしていました。
 しかし、グローリアの母であるグレース・ウェストンにとって、ロビイはあまり好ましい相手ではありませんでした。グレースはロボットという存在に不信感を持っており、またグローリアが友達を作らずロビイとだけ遊んでいることを危惧していました。
 グレースは毎日、夫のジョージをせっつき、ついにロビイを処分してしまうことに同意させます。ところが……。

◎堂々めぐり

 凸凹コンビ、グレゴリイ・パウエルとマイケル・ドノヴァンのお話、第一弾です。
 USロボット社の現地メンテナンス要員である二人は、水星でトラブルに見舞われていました。
 失敗に終わった第一次水星探検隊から十年後、パウエルとドノヴァンは新型ロボットSPD13号(スピーディ)と共に、第二次探検隊として水星に派遣されました。ところが、二人を強烈な太陽光から守ってくれるはずの太陽電池層が駄目になってしまったのです。
 二人は状況を検討し、セレンさえあれば太陽電池層が補修可能だと判断しました。そこで、水星環境に適応したスピーディに、セレンを採取してくるよう命じたのですが……。

◎われ思う、ゆえに……

 パウエル&ドノヴァン、第二弾です。
 水星探検から半年後、地球からやや離れた位置にある宇宙ステーション上で、またも二人は難題に直面していました。
 ソーラー・ステーション五号は太陽エネルギーを集め、地球に向けて送信するために建設された宇宙ステーションです。今回は、宇宙ステーションを無人で運用するために制作された高性能ロボットQT1号(キューティ)が正常に動作するか確認することがパウエル達の任務でした。
 ところが、組み立てられて目覚めたキューティは、二人に向かってとんでもないことを言い出したのです。ここが地球にエネルギーを送り込むソーラー・ステーションなどというのはまやかしで、ステーションの要であるエネルギー転換器こそが自分を生み出した創造主なのだ、と。

◎野うさぎを追って

 パウエル&ドノヴァン、第三弾です。
 ソーラー・ステーションより半年後、二人はまたまた苦境に陥っていました(^^;)
 採鉱用の新型ロボット、DV5号(デイブ)のテストのため、彼等は小惑星にやってきています。デイブは六台のサブロボットを制御するマスターロボットで、連携により監督する人間なしに鉱石を採掘することができる――はずでした。
 しかし、ロボット開発者の目論見通りには行かず、デイブはうまく機能しません。人間が近くにいるときは正常に採鉱するのに、誰も見ていないと作業がはかどらないのです。
 何が起きているのか、二人は原因を追及しようとするのですが……。

◎うそつき

 USロボット社では、とある異常な事態が発生していました。ごく普通のロボットとして制作されたはずのRB34号(ハービイ)が、何故か読心能力を持っていたのです。
 驚くべきことのはずですが、USロボット社にとってはあまり歓迎できぬ事態でした。ハービイがどうして読心能力を持っているのか分からない上、ロボット排斥運動の盛んなご時世のため、読心力を持つロボットが世間に知れたら大事になってしまうからです。
 ハービイの存在はロボ心理学者スーザン・キャルヴィン、研究所所長アルフレッド・ラニング、数学者ピーター・ボガート、技術主任ミルトン・アッシュの四人だけの秘密とされ、原因の追及が行われることになります。
 しかし、ロボットが読心能力を持つということがどういう結果をもたらすのか、そのときは誰も気付いていなかったのです。

◎迷子のロボット

 第二十七小惑星群にあるハイパー基地で発生した事件のことで、USロボット社のスーザン・キャルヴィン及びピーター・ボガート両博士が基地に招かれます。
 その事件とは、NS2型ロボットのうちの一体(ネスター10号)が行方をくらましたというものです。それだけならば大した事件とも言えませんが、実はネスターにはある細工が施されていました。絶対的なルールであるはずのロボット三原則、その第一条に手が加えられていたのです。(第一条のうち、「危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない」が削除されている)
 発覚すれば大変な不祥事であり、なんとかしてネスター10号を捕獲しなければなりません。
 幸いなことに、ネスター10号の所在は突き止められていました。別のNS2型ロボット六十二体の中に紛れ込んでいたのです。但し、外見上は他の正常なNS2型とネスター10号は区別を付けることができません。
 果たして、どうすれば六十三体のロボット中からネスター10号を見つけ出すことができるのでしょうか。

◎逃避

 非常に高度な計算能力を有し、動き回るためのボディを持たない特殊な陽電子頭脳、ブレーンのお話です。
 ライバル会社の合同ロボット社からUSロボット社に対して依頼が入ります。その内容とは、スペース=ワープ・エンジンを開発するために必要な方程式の解決でした。
 実は合同ロボット社にもUSロボット社と同じく思考マシンが存在したのですが、この方程式を解かせようとしたことにより、その陽電子頭脳がスクラップになってしまったらしいのです。合同ロボット社はUSロボット社のブレーンも同じ目に合わせようと、問題の解決を依頼してきたのでした。なんとも卑劣なやり口ですね(^^;)
 USロボット社としてはその依頼を拒絶することもできましたが、そうはせず、ブレーンに問題を与えてみることにしました。人類初の恒星間エンジンが開発できれば、大きなアドバンテージとなりうるからです。
 キャルヴィン博士は、ブレーンが壊れてしまわないようにあらかじめ指示を与えた上、問題を解かせようとするのですが……。
(パウエル&ドノヴァン、第四弾です)

◎証拠

 有能な検察官スティーヴン・バイアリイは、近々行われる市長選に立候補していました。高潔で清廉な人柄から、当選の確率は高いと見積もられています。
 無論、その政敵であるフランシス・クインにとっては容認しがたい事態です。クインはバイアリイの私生活を調べ上げ、そしてとんでもないことを言い出しました。
 バイアリイは人前で食事はおろか飲み物を口にしたことすらない。もしかして、バイアリイはロボットなのではないか、と。そして、この調査依頼はUSロボット社に持ち込まれてくるのでした。
 けれども、バイアリイがロボットか否かを判別するのは予想以上に困難なことだったのです。

◎災厄のとき

 ブレーンの発展形であるマシンが、世界経済の管理を人間に成り代わって行うようになった時代のお話です。
 この時代、地球は四つの地区に分けられ、それぞれの経済は超陽電子頭脳・マシンによって管理されていました。四台のマシンはあらゆる要素を考慮し、最も適した経済政策を実施するはずでした。しかし、そうではなかったのです。
 世界統監へと就任したバイアリイの目には、マシンの政策に不備があるように見えました。何故、マシンの決定は誤りを含むのか――バイアリイはそれぞれ四つの地区を自ら訪問しますが、答えを得ることができません。
 最後に、バイアリイはキャルヴィン博士を自宅に招き、何が起きているのかを尋ねるのでした。

 本書の注目ガジェット、それはロボット工学三原則です。
 我々人間には、生まれつき与えられた本能的欲求があります。食べ物が食べたい(食欲)とか、面白いSFが読みたい(SF欲)とかですね。:-) そうした欲求は、動機として人間の行動の多くに影響を与えています。
 しかしながら、工業製品であるロボットには人間と同じ欲求は必要ありません。ロボットに食事は必要ありませんし、繁殖もしませんから。では、どのような本能的欲求がロボットにはあるべきなのか――それを表したものが、ロボット工学の三原則だと言えるのではないでしょうか。
 本書に登場するロボット達は、三原則を積極的に満たそうとすることにより、しばしば人間の目には奇妙にも映る行動を取ります。表面的には似た知的存在でありながら、アシモフ世界のロボットは根源的な部分で人間とは異質な存在であるわけですね。
 無論、ロボット三原則はあくまでフィクションでのみ成り立つもので、現実のロボットに適用されるようなことはまずないでしょう(定義自体が曖昧ですし)。しかし、このたった三つのルールによって律せられるロボットという存在こそが、センス・オブ・ワンダーとして本書に深みを与えていることは疑いありません。

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