ファウンデーションへの序曲

[題名]:ファウンデーションへの序曲
[作者]:アイザック・アシモフ


※このレビューには〈銀河帝国興亡史〉及び〈銀河帝国もの〉に属する作品群のネタバレがあります。ご注意ください。

 遥かな未来、銀河へ進出した何千兆人もの人間で構成された巨大な銀河帝国の衰退と復興を描く〈銀河帝国興亡史〉の第六巻です。
 但し、時間の流れとしては第五巻『ファウンデーションと地球』の続きではなく、第一巻『ファウンデーション』よりも前に位置するエピソードです。主人公はファウンデーションの始祖ハリ・セルダン。若かりし時分(三十二歳)の彼がトランターで策謀に巻き込まれ、逃亡しつつ自らの理論を固めるために見聞を広めていくというストーリーです。
 後の時代に伝説的な数学者として名を残すセルダンですけど、冒頭時点ではまだ故郷の惑星からトランターへ上京したばかりの、無名のおのぼりさんですね(^^;) しかしながら、彼が数学大会で発表した概念の基礎は反響を呼び、政治的関心を集めることになります。その概念とは、社会の未来が数学によって予測しうるというもの――すなわち心理歴史学です。

 片田舎の惑星ヘリコン出身の青年数学者ハリ・セルダンは、数学の十年大会で発表を行うため、銀河帝国の中枢であるトランターへとやってきていました。
 彼が行った発表とは、社会の動きを数学的に分析することにより、その未来を予測することは決して不可能ではない、という内容のものでした。しかしながら、セルダンは未来予測の可能性を数学的に証明したのみで、彼自身は実際に未来が予測できるようになるとは考えていなかったのです。
 ところが、その発表は世間に曲解されることになります。セルダンは今もしくは近い将来、数学を使って予言を行えるようになるのだと。そして、その噂は銀河帝国の宰相エトー・デマーゼルの耳に入り、デマーゼルは銀河皇帝クレオン一世がセルダンに謁見するよう取り計らいました。
 クレオン一世の前に招かれたセルダンは、彼の機嫌を損ねないよう丁寧に、自分の発表した心理歴史学はあくまで数学理論上のものであり、現実に未来を予測できる見込みはないことを説明しました。クレオン一世は失望し、セルダンを下がらせます。
 翌日、公園で一息ついていたセルダンに、今度はジャーナリストのチェッター・ヒューミンが接触してきました。ヒューミンはセルダンに、現実に未来を予言できるかどうかは問題ではなく、そう大衆に思い込ませられるだけで政治的に利用価値があると説明します。そして、このままボヤボヤしているとデマーゼルに拘束されることになると警告したのです。
 果たしてヒューミンの言うとおり、怪しげなチンピラ二人がセルダンに近づいてきて、ヘリコンへ帰るよう彼を脅してきました。ヒューミンと共にチンピラを撃退したセルダンは、ヒューミンに連れられ当座の隠れ家であるストリーリング大学へ向かうことになりました。
 その道中、どうして自分を助けてくれるのかと尋ねたセルダンに、ヒューミンは答えます――銀河帝国は死にかけており、心理歴史学の完成がその没落を最小限に食い止めることができるかもしれない、と。心理歴史学は現実には存在し得ないと考えていたセルダンは戸惑いますが……。

 本書の注目ガジェットは、惑星トランターです。
 トランターは銀河帝国の首都であり、銀河系の中心近くに位置する星です。シリーズ当初は単に中心とされていましたが、現実の天文学において銀河中心には超大質量ブラックホールと目される「いて座A*(エー・スターと読みます)」が存在することが分かったため、後に設定が若干修正された模様です。
 トランターが〈銀河帝国もの〉に登場する最も早い時代は『宇宙気流』で、この時点ではまだ五つの惑星で構成されたトランター連邦に過ぎません。その後、着々と支配圏を拡大し、銀河系に存在する全ての星を傘下に収めることになる訳です。
 その最盛期(銀河帝国滅亡直前)におけるトランターは、四百五十億人という莫大な人口を擁することになります。地表は皇帝宮殿の一角を除いて完全に建物で覆い尽くされ、人々は外に出ることなく人生のほぼ全てを屋内で過ごします。
 他の星からの輸入も多く行われているものの、基本的に食料やエネルギーはトランター内で生産されているようです。食料は微生物を栽培・加工したものが一般人に供されており、特にマイコゲン地区の生産物は一級品とされています。エネルギー源は主に地熱発電で、ダール地区が最大のエネルギー供給地となっています。
 また、文明活動により発生する膨大な熱をトランター外へ放出するために、二つの方法が採られています。一つは惑星全土で行われ、夜になると放熱塔を空へ伸ばし、朝になると収納するという手段です。このためトランターを宇宙から見ると、夜側のみがトゲトゲしているという非対称状態とのことです(^^;) もっとも、放熱の大部分は南極にあるワイ地区から行われており、このせいでワイは政治的に強い発言力を持っています。
 皇帝のお膝元にありながら、トランターは銀河帝国内でも政治的自由度の高い世界となっており、地区ごとに多様な文化を有しています。この特殊性が、セルダンが心理歴史学を生み出す鍵となる訳です。
 興味深いのは、「建物に覆い尽くされ、人々がずっと屋内で暮らす世界」という構図がイライジャ・ベイリ時代の地球に類似している点です。巨匠アシモフ氏は閉所愛好家(閉所恐怖症の逆)という超インドア派(笑)かつ飛行機嫌いで、『鋼鉄都市』は氏の願望が少なからず投影されていたようですが、トランターにも同じような傾向があったのでしょうか。ただ、こちらは内部をタクシーが飛行するほどの広大な空間があるようですから、アシモフ氏的にはあまり居心地良く思えなかったかもしれませんね。

 主要キャラクタは前述のセルダンとヒューミンの他に、ストリーリング大学の歴史学者ドース・ヴェナビリ、ダール地区で出会う労働者ユーゴ・アマリルと少年レイチがいます。特にドースはセルダンの案内者兼護衛として、彼の小旅行にずっと同行することになります。
 青年ハリ・セルダンはとにかく天性のトラブルメーカーで、心理歴史学構築のヒントを得るためにあちこちへ首を突っ込んでは命の危険にさらされます(^^;) ドースは若い女性ながら体術やナイフの達人、セルダンもヘリコン流武術ツィスト(護身術の類い?)の使い手とあって多少の荒事なら対処可能ですけど、それ以上の大事になって隠れ家を変えざるを得なくなることが幾度も起こります。ドースの心労は察するに余りあるところですが、学者馬鹿ながらも真剣で誠実なセルダンはどうにも憎めない人物です。第一巻に登場した天才老科学者の青年時代としては、面白いキャラクタ付けですね。(ドースにまつわる秘密は、続巻『ファウンデーションの誕生』で明かされます)
 また、終盤ではアシモフ氏お得意の大どんでん返しが待っています。ストーリーとしては『ファウンデーション』前日譚ではあるものの、読む順序では前巻『ファウンデーションと地球』を先に読んでおくことをお勧めします。

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