動乱2100

[題名]:動乱2100
[作者]:ロバート・A・ハインライン


 ハインライン氏の〈未来史〉シリーズ、第三弾です。
 本作の舞台は、『地球の緑の丘』の作品群から時代が少々(数十年ぐらい)離れます。この空白期間、アメリカ合衆国は宗教的熱狂に囚われ、中世のような暗黒時代が到来しています。予言者の言動に異論を挟む人々は弾圧され、アメリカの代名詞でもある「自由」も制限されている状態ですね。
 アメリカ以外の国では宗教が全てを支配するようなことは起きていないようですが、不思議なことに宇宙開発を含めた科学技術はおしなべて停滞している状態です。善くも悪くも、ハインライン世界ではアメリカ合衆国が世界の中心のようです。:-)

◎もしこのまま続けば

 ジョン・ライルは予言者の警護を務める「主の天使隊」の少尉でした。彼は現人神である予言者とその教えを信じ、そして同時に異教を信奉する最下層民を無自覚に見下していました。
 ところがある晩、警備に当たっていたジョンは聖修道女であるシスター・ジュディスと偶然出会い、恋に落ちてしまうのです。聖修道女とは予言者にその身を捧げた女性であり、道ならぬ恋慕の情にジョンは苦悩します。
 そんなおり、シスター・ジュディスはくじ引きの結果、予言者に特別な奉仕をする名誉を与えられます。しかしながらその奉仕とは、要するに『そういうこと』なのでした(^^;)
 ジュディスはその事実にショックを受け、役目を果たすことなく気絶してしまいました。そして彼女は、予言者への奉仕を拒否した咎で禁固の憂き目にあってしまうのです。
 事ここに至って、ジョンはようやく今まで自分の信じてきた教義に疑いを持ち始めます。ジュディスを救うにはどうすればいいいのか、彼は愛情と信仰心の二者択一を迫られることになるのです。

◎疎外地

 青年デイヴィッド・マッキンノンは、他者に暴力を振るった罪で判決を受けました。性格を矯正するための心理学的更生療法を受けるか、それとも疎外地へ追放されるかの二択です。
 マッキンノンは他の人々が飼い殺されて活力を失っていると感じており、そんな連中と同類になるのはまっぴらだ、と追放を選びます。自活できる準備を(自分なりに)十分に整え、意気揚々と『自由の地』へ足を踏み入れるのです。
 ところが、そこはマッキンノンの考えていたのとはずいぶん違う様相でした。そこにいたのは、自分の自由を重視しても他人の自由は尊重しない、言うならばマッキンノンのご同輩だったのです(^^;)

◎不適格

 小惑星HS5388に向かう宇宙船の中には、いわゆる不良青年に分類される若者達が乗り込んでいました。
 彼等は地球上では身の置き所がなかったため、小惑星を宇宙ステーションに作り替える仕事に従事することとなったのです。それは将来、地球=火星航路の中継基地となるはずのものです。
 その若者達の中に一人、少しだけ他人と違う点のある青年が混じっていました。青年の名前はA・J・リビイ。
 後に『ミスター計算機』と呼ばれることになる男の、まだその能力が未知であった時代の物語です。

 本書収録作の時代を終えて、いよいよ〈未来史〉はラザルス・ロングの物語へと繋がっていくことになります。(『不適格』のリビイは、長編『メトセラの子ら』に登場)
 もちろん、それらは独立したお話であり、必ずしも〈未来史〉に属する中短編を事前に読んでおく必要はありません。単独でも十分に楽しめる物語です。
 ですが、『宇宙の孤児』や『メトセラの子ら』での無謀とも思える外宇宙への進出の背景には、D・D・ハリマンや彼の同類が願った「宇宙への渇望」が流れているのではないでしょうか。複数の作品で幾度となく語られるその願いを読み取ることにより、続く作品がより深く味わえるのではないかと思われます。
 そして、その「宇宙への渇望」こそが〈未来史〉最大の注目ガジェットであり、最大の感動でもあると私は感じるのです。

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