多元宇宙の王子

[題名]:多元宇宙の王子
[作者]:キース・ローマー


 平行世界にまつわるドタバタ劇に巻き込まれてしまったアメリカ人青年を描いたユーモアSF、〈混線次元シリーズ〉の第一巻です。
 平行世界とは、現実の世界と良く似ていながら微妙に細部の異なる世界のことで、そうした平行世界が無数に存在しているという世界観を多元宇宙と呼んだりします。現実世界は、そうした平行世界の中の一つに過ぎないという訳ですね。
 本作の主人公ラファイエットが、当初夢だと思っていた異世界アルテシア。ところが、それは夢ではなかったのです。

 コルビー・コーナーズ(フロリダ州?)に住む製図工の青年ラファイエット・オリアリイは、退屈な日常に飽き飽きしていました。
 数日前、夢の中で素晴らしい経験をしたラファイエットは、図書館から催眠術の本を借りてきて読むことにしました。その本によると、夢の中でそれが夢であることを自覚できれば、夢の内容を自在に操って楽しむことができる、とのことだったのです。
 早速、本の教えを実践してみるラファイエット。幾度かの試みの後、意識を集中させることに成功した彼は、現実と似通っていながらも中世のような王国アルテシアへと辿り着きます。
 強く集中しさえすれば、世界を思うがままに変えられる力を有したラファイエットは、その地の者達に魔法使いと見なされ投獄されかけてしまいます。ところが、宮廷道化師の小人ヨカバンプが、ラファイエットこそ悪しき巨人ロッドと邪悪な竜を退治する英雄なのだと言い出したおかげで、王ゴラブルの賓客として迎えられることになりました。
 愛らしい宮廷小間使の娘ダフネや、美貌のアドレイン王女と接し、予言の英雄という立場を楽しんでいたラファイエットでした。しかし、何者かの罠にはめられてしまい、アドレイン誘拐犯の汚名を着せられてしまいます。
 牢に放り込まれた彼は、そこから逃げ出そうとする間に気付きます。どうやらアルテシアは彼の夢なのではなく、現実に存在する世界らしいと。
 果たしてラファイエットの身に何が起きているのでしょうか。そして、名誉挽回のチャンスはあるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、〈心霊力〉です。
 ラファイエットは図書館から、“磁気催眠術(メスメリズム)・その正当な研究と実践。解明された古代人の秘密”なる怪しげな題名の本を借りてきて、自己催眠の方法を学びます。夢の中で「これは夢だ」と自覚した状態を明晰夢と言い、自分の望むままに夢の内容を操れる場合があると言われますが(私は「『夢だ』と認識しながら目覚められない夢」ぐらいしか見たことはないですけど(笑))、ラファイエットはおそらくこれを達成しようとしたのでしょう。
 お話が進むにつれ、ラファイエットの体験している王国アルテシアは夢ではなく、実在の平行世界だということが判明します。つまり、ラファイエットは明晰夢を操る能力ではなく、現実を改変する能力を獲得していたことになります。(一応その理由付けもされていますが、ご都合主義(^^;))
 もっとも、ラファイエットの〈心霊力〉には制約もあります。基本的に自分や他人の目に見えるものを直接改変することはできませんし、無から有を生み出すこともできません。
 例えば、ポケットの中に金貨があると念じることで持っていなかったはずの金貨を取り出すことはできますが(金貨は作り出されたのではなく、別の場所から移動してきただけ)、目の前に突然出現させるようなことはできないようです。誰も観察していないものを移動させることができるというのは、何となく量子論の観測問題を思わせる点が面白いですね。

 主人公ラファイエット君は至って気のいい青年ですが、若干お調子者の傾向が見られます。元は単なる製図工だったせいか、腕っ節も大したことはありません。
 とは言うものの、(当初は)夢の中だと思っていた世界で、魔法のような〈心霊力〉を持ちながらも傍若無人に振る舞ったりしないのは好感が持てますね。(小心者だからかも(^^;))
 ヒーローにはほど遠いキャラクタですけれども、苦心しつつ困難に立ち向かい、なかなかの活躍を見せてくれます。ちょっぴりドジではあるものの正義感の強い主人公が引き起こす、痛快スラップスティックです。

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