アイスワールド

[題名]:アイスワールド
[作者]:ハル・クレメント


 異生物SFの雄ハル・クレメント氏による、地球とは異なる環境で生きるサール人視点のハードSFです。
 クレメント氏の作品に登場する異星人は、メンタル面では地球人(と言うかアメリカ人?(^^;))そっくりだとしばしば指摘されますが、本作もやはりその傾向があります。とは言うものの、お話の主眼はリアリティのある異星人を作り出すことではなく、むしろ棲息環境の違いを科学的に考察することにありますから、そうした部分には多少目をつぶってしまいましょう。
 逆に、登場する異星人があまりに人間臭いことから、感情移入しやすく、エンターテイメント性としてはプラスに働いているとも言えるかもしれません。:-)

 惑星サールの休暇中の学校教師ソールマン・ケンは、あるとき麻薬取締役主任のレイドから依頼を持ちかけられました。近頃新たに出回りつつある麻薬に関して、潜入捜査を行ってもらいたいと。
 その新種の麻薬は強い習慣性を持つ気体で、常温では数秒で分解してしまい、特殊な冷凍庫に入れておかないと保管できないらしいという程度のことしか判明していません。しかし、気体であるが故に大勢の人間を中毒に陥れることが可能な、危険な薬物です。
 ケンは特に専門の化学者という訳でもありませんでしたが、麻薬業者は生産量を上げるために技術者を喉から手が出るくらいに欲しており、一流ではない程々の学者である彼はうってつけの存在でした。しかも、レイドは事がスムーズに運ぶよう、ケンが先だっての爆弾テロ事件に使われた爆弾の製造者であるという噂を犯罪組織に流しているという始末でした(笑)
 危険な任務ですが、ケンは依頼に応じることにします。そして、麻薬業者のレイ・ドライに雇われることに成功しました。
 サールの太陽系を離れ、ケンが連れてこられたのは所在不明の恒星系。その極寒の第三惑星にて、ドライは無人艇を介して謎の原住民と交易を行っていたのです。ケンはドライに命じられ、原住民から得た植物性の物質を栽培する手段を探すことになりました――それが巷を騒がせている麻薬だとは知らない素振りで。
 そして、その恐るべき極寒の第三惑星――すなわち地球では三十年の間、ウイング一家が宇宙から飛来する魚雷型の無人宇宙船との交易を行っていました。
 ウイング氏は、相手が何故秘密裏に物々交換を望んでいるのかをいぶかしみながらも、わずかな対価でプラチナやイリジウムの塊が得られることに満足していたのです。そして、成長した息子ドナルドに事のあらましを教えます。自分達の提供する紙巻きタバコが、まさか麻薬として扱われていることなど露知らず。
 一方、水星に作られた基地上で、ケンは生態も分からない謎の植物を栽培することは困難だということをドライに納得させます。そして、第三惑星の原住民(ウイング家の次男ロジャー)と無人艇のラジオを通じて接触を図り、更には防護服を制作して自ら惑星上へ降り立つ準備を始めていました。
 ところが、彼の行動はドライの疑惑を招いてしまい、ケンは恐るべき麻薬タハコの中毒患者にさせられてしまいます。
 果たして素人麻薬捜査官ケンは無事サールへ戻ることができるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、サール人("Sarrian")です。
 サール人は摂氏五百度の高温環境で生きる異星人で、酸素ではなく気化した硫黄を呼吸する生物です。大きさは地球人(ウイング氏)よりやや小柄、二足歩行生物ですが上半身からは四本の触手が生えています。詳しい説明はありませんけど、台詞から推測するにフッ素・ケイ素の化合物からなるケイ素生命体のようです。
 サール人から見ると地球は血の凍るほど寒冷な死の惑星で、ケンがやってくる前にはその地表がどうなっているのかすら定かではありません。冷たい大気の為に、観測機器を地表に降ろすことも一介の麻薬業者には荷が重かったようです(他にも理由あり)。
 サール人にとって、地球のタハコ(サール人の発音。原文では"tobacco"→"tofacco")は強力な幻覚作用と習慣性を持つ恐るべき麻薬となります。彼らにとっての「常温」ではタバコは一瞬にして燃え尽きてしまうのですが、その煙を吸い込むとたちまち中毒となってしまいます。懸念される副作用はないようですけど、薬が切れたときには強い渇望が生じ、麻薬業者の言いなりにならざるを得なくなる訳です。

 登場人物はサール人側と地球人側の二グループに分かれ、サール人学者にしてにわか潜入捜査官のケンが主人公、地球人少年ロジャーが副主人公的な位置付けと言えるでしょうか。
 ソールマン・ケンは本来は学校教師で、荒っぽいことは得意ではなさそうですが、正義感に溢れた研究者肌の好人物(?)です。その他、抜け目がなく悪辣な麻薬業者レイ・ドライ、その部下で有能な機械工フェス・オールマー、宇宙船パイロットのオールドン・リーと、いずれもかなり人間的な性格付けがなされています。そのせいで、彼らの登場するシーンを脳裏に描いたときに、つい人間の姿が思い浮かんでしまうのは難点かも(笑)
 一方、地球人キャラクタはウイング一家のみで、聡明で優しいウイング夫妻、賢い長男ドナルド、腕白な次男ロジャー、ロジャーのすぐ下の妹で利発的なエディス、そしてまだ幼いマージョリーとビリーの七人家族です。平和で仲良しの家族ですが、麻薬と知らなかったとは言え密輸に加担していたのはあまり褒められたことではない気がします(^^;)
 物語後半、ケンが防寒対策を施した防護服を着込んで地上へ降り、両者は接触することになります。活動温度の異なる二つの種族が出会う辺りは、ファーストコンタクトものの醍醐味ですね。
 全般的に、理詰めで地球を「異星人からみた奇妙な惑星」として描くことに注力されており、読み応えがあります。センス・オブ・ワンダーを味わわせてくれる、異生物SFの名作です。

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